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五石
#2
しおりを挟む「おはようございます! 今日は良い天気ですね」
「えぇ、ようやく梅雨明けですね」
忙しなく人が行き交う駅を抜け、落ち着いた小路の店に入る。
どれだけ月日が経ってもこの辺りは変わらない。やってくるお客さんは限られて、すぐ顔馴染みになる。
こじんまりとして華美ではないけど、人との距離が近く感じられる。
「いやぁ、本当に梅雨が終わって良かった。こうして戸波さんが来てくれるから」
「あはは……ほんとに、いつもお世話かけます」
叔父が経営するアクセサリーショップに再就職して二年が経った。宙は今も、時折現場に入って仕事を手伝っている。
若い女性スタッフはエプロンをつけ、思い出したように手を叩いた。
「あ! 私今日用事で早退するので……戸波さん、すみませんが閉店作業もお願いします」
「かしこまりました」
人は疎ら。今日も暖かく、ゆるやかな時間が流れる。夜になり、灯りをつける。ただでさえ閑寂な通りも音がやみ、すっかり一日の終わりを醸し出していた。
「ふぅ。レジ締めするか」
もう来客の気配はない。デスクの方へ向かおうとしたが、ベルの音が鳴り、ドアが開いた。
おっと。
踵を返して売り場に戻る。そこにはひとりの青年がいた。
「こんばんは。もう終わりですか?」
「……あぁ。後五分で」
エプロンを外し、腕に持ってからゆっくり傍へ向かう。そして悪戯っぽく微笑んだ。
「なにかお探しですか、旦那様」
「あはは! 良いですね、その呼び方」
彼は鞄を肩に掛け直すと、唇が当たりそうなほどの距離で囁いた。
「待ちきれなくて迎えに来ちゃいました。宙さん」
「あ……後ちょっとで終わるから」
閉店間際の来訪者は自分の恋人、透夜だった。誰もいないのを良いことに、露骨にべたべた擦り寄ってくる。
そんな彼を制し、宙は手早く仕事を終わらせた。
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