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観察⑶
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しおりを挟む「残念だけど違うな」
髪の生え際にキスをされる。
「俺はお前を気に入ってるよ。……だからこそ、気に入らないものが増えて困ってるんだ」
矢代は宥める様な、とても落ち着いた口調でそう言った。
秋は秋で、一体どういう意味なのか聞こうとしたが、再び前を手で扱かれて言葉を失う。理性を呼び戻さなくてはいけない。そう思うも、終わりは早かった。
「……あぁっ!!」
握る手に少し力を入れられただけで、秋は彼の手の中で射精してしまった。
「これで二回目。だな?」
果てたばかりの性器を執拗に愛撫されて、秋は快感の余韻に浸りきった。地べたに座り、壁にもたれかかる。
「ふ、ぁ……っ」
自分の置かれた状況も忘れてしまいそうなほどに気持ちが良かった。
できればずっと夢の中にいたかった。しかし現実に引き戻される時は必ずやってくる。
「せっかくだから聞かせてもらおうか。男に初めて抱かれた感想を」
矢代は喜色を露わにしながら先程と同じことを問いかけてきた。どうも、何が何でも言わせたいらしい。
さっきは恐怖も入り交じっていたけど、もはやため息しか出ない。
何でここまで俺に執着するんだ。
秋は残された力で衣服を整えると、精一杯矢代を睨んだ。
「アンタが全国ニュースに乗るレベルの性犯罪者だった、って事ぐらいしかないよ。この変態」
「はは、そうか」
皮肉を込めて言ったのに、矢代はむしろ喜んでる様だった。恐すぎる。
まさか俺が歴代彼氏に抱いてもらえなかったから代わりに抱いてやろう、なんて思ったんじゃないだろうな。それだったらマジで普通の思考じゃない。それだけはないと祈る。
「じゃ逆に訊くけど、生徒をレイプした感想ってどんななの?」
「それを言ったところで、やった人間にしか理解できない。無意味だ」
いや、何となく理解できた。そしてそれは、真の変態にしか吐けない台詞だと思った。
「これ以上アンタといると冗談抜きで気が狂いそう。……帰る」
そう吐き捨てて、彼から背を向ける。
「痛っ!」
けれど、階段を一段降りたところで彼に入れられた部分に激痛が走り、足を踏み外した。
手すりは遠くて咄嗟に掴めそうな場所がない。全身が前方に落ちていく。
やばい。反射的に瞼を伏せた。
大きな衝撃を予想したのだが、いつまで待っても訪れない。
代わりに、強く引っ張られた腕の痛みと、抱きしめられる温もりを感じていた。
「秋、大丈夫か……!?」
「……っ」
彼のものとは思えない、初めて聞く力強い声。痛みと驚きにより自力で立てない秋は、矢代の腕の中にいた。
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