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盗撮⑵

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「……っ」

胸に何かが刺さった気がした。細すぎて目には見えない、小さな棘。
……違う。
駄目だ、こんなんじゃ。
それぐらいのこと、今までの俺なら簡単に忘れられた。

「……矢代? どうした」

途中から反応を示さなくなった矢代に、藤間は心配そうに乗り出した。しかし何とも言えない吐き気にかられ、職員室を出た。

……あぁ。

まずいな、この感じ。胃液が上がってきたみたいな……。

矢代は再び、暗い渡り廊下で足を止めた。
とりあえず落ち着こうと、ゆっくり深呼吸する。
大丈夫だけど、たまにある。……頭がグチャグチャになるときが。

仕事中だってのに、最低だ。自己嫌悪に陥ったとき、隣から声をかけられた。

「おい矢代、大丈夫か?」
「藤間……」

藤間は矢代の顔色を覗き、具合が悪いなら早めに帰るよう諭した。
無視したのに、……わざわざ追いかけて来てくれたことも含め、本当に良い奴だ。
……嫉妬しそうなぐらい。

「なぁ、藤間。俺、教師向いてないんだ」
「は? おい、辞めるなよ。お前が辞めたら一番に俺が仕事振り分けられる」
「今日日そういう発言はパワハラだぞ」
「ハッ、言ってろ。教師に向いてる奴なんか存在しないよ。そんな奴いたらお目にかかりたいね」

教師にあってはならない台詞だ。そういうことを平然と言ってのけるところも、彼らしい。

「お前も恩師ぐらいいるだろ」
「そりゃいるけど、教師って特殊過ぎるだろ。医者が皆聖人かってのと同じ話で、俺達は何にも偉かないんだよ。ストレスばっか、愚痴ばっかで最低な大人だ」

藤間はため息をつくと、腕を組んで壁にもたれかかった。

「まぁ、底ばっか見てるからこそ学んだこともあるだろ。子どもに同じ経験させない為に、俺らみたいな不真面目な教師も少しばかり必要なんだよ。これが反面教師だな」
「親からしたら最悪だな。絶対子どもを預けたくない」
「仕事はちゃんとしてるよ! 大体完璧な奴なんているわけないだろ!」

彼に一喝され、矢代は顔だけ隣に向ける。
完璧じゃない……ということは、彼にはそう思われてるようだ。

良かった。


俺は全然、完璧じゃない。





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