40代(男)アバターで無双する少女

かのよ

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418 いざ総力戦

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 北海道、稚内。ロシアからの亡命を果たしたはずの男たちが逃げ込んだのは、何世代も前に日本へやってきたロシア系のルーツを持つ一家の土地だった。広大な農地と大きな農機具小屋が男たちを隠し、道警が気付かないまま仕事や買い物まで自由に出来る有様だった。
 ベルベットが支援をしていた関係で、彼らの詳細な情報は隠れ家含め全て「計画」の管理データベースに残っていた。ガルドは読み放題の図書館に足繁く通うイメージで全て回収し、リアルタイムとまではいかないが細かい行動の全てを追えるくらいには把握している。
 彼らが三橋を救ったことも、分かっている。その意味では恩人だ。だが、彼らが救うだけではなく三橋を自分たちの手で飼い殺すつもりだったことも、もちろん分かっている。彼らがどこまで本気だったか分からないが、計画に逸脱しながら計画を模倣したという意味で、彼らはガルドたち被害者陣営の敵だった。
「黒ネンドの起動ヨシ!」
「カメラ、マイクチェックチェック」
「あー、あーあー」
「ヨシ!」
「対ドローン・オート撃墜装置の最終チェック完了だ。コイツはすごいぞ、なんと中の人がいる。マニュアルだ」
「オートじゃないじゃん」
<ハイ! ワレワレハオート! センターニハイッタラスイッチ! スイッチ! スルダケノカンタンナシゴトデス!>
 機械じみた言い方で会話に入ってきたのは、タイムラグの影響で文字会話を自動音声に読ませるしかなかったフロキリ内の仲間の声だ。ヴァーツから数名が固定砲台の操作に加わっている。
「無理はするなよ。外と繋がるのは処理的に負荷がデカい。一人につきそっちの時間で5分程度にしておけ」
<リョウカイデアリマス、グンソウドノ!>
「おい軍曹はやめろ。同志もだめだからな」
 マグナがため息混じりに嗜めるが、どこか嬉しそうだ。ガルドもヘリの操縦でかじかむ手を震わせながら笑った。大男の手は冷たくなるほど緊張と力みで強張っているが、生身の少女の手は幾分かあたたかい。
「着陸だ。それこそオートで出来るさ」
「ああ」
 榎本の手はずっと繋がっていた。まだ集中を解けない佐野みずきは、狭い視界に入り込む榎本の様子がぼんやりとしか見えていない。声と、繋がっているヘリコプターの各種システムに全神経を向けてオート着陸を感覚する。
 また怒涛の数字にクラクラしながら、ガルドは腹に力を入れた。体幹を全力でキープするイメージ。
「いいぞ、その調子だ」
 草の匂いがした。土の匂いもした。水の匂い。空とは違う生々しい生き物の匂い。ヘリの足に感覚はないが、風が足の裏から吹いてこないことで足を感じられた。地面に降りたらしい。
「エンジンを切って、晃五郎はそのまま拘束だ」
「運ぶのは任せて! そのためのウチらだからねー」
 夜叉彦とメロの張った声が聞こえた。ヘリに割いていたキャパシティが戻り、佐野みずきはふぅと息をしてから目を開く。
「おつかれさん! でもまだだ、これからだぞ」
 握られていた手が離れ、なぜかジャプジャプと水音がした。
「榎本……濡れてる」
「そこから見えてなかったんか……」
 榎本は足を水路に浸したまま、みずきのポッドに寄りかかるようにして立っていた。姿勢を変えるたびに足元の水を蹴っている。こめかみから垂れるコードが水没しないよう、二体のロボットアームが手繰り寄せてせっせと腕を天高く上げていた。
「乗ればいいのに」
「お前と違ってコレを手足みたいに扱えないんだよ」
「じゃあこっち」
 ガルドは、人一人がやっとというポッド上部をペンと叩いた。言ってから気付いたが、手術着という薄着のみずきと全く接触無く登るのは不可能な広さのポッドだ。榎本が遠慮したのも納得である。
「んじゃ遠慮なく」
「え」
 ザバリと足をあげて乗ってきた榎本が、みずきの横に腰掛ける。ずり落ちないためにどうしてもぶつかる太ももとふくらはぎが濡れてひんやりとしていて、たまにちくちくした。すね毛を思わず二度見する。
「……落ち着いたら俺らは大事な仕事があるからな。少し休憩してろ。おっと、晃五郎の拘束は解くなよ?」
「防衛は任せてー!」
「誰も逃しはせん」
「がはは! 防衛戦だが囲い込みも必須だな!」
「やるよ、みんな。がんばろうね」
 仲間たちの頼もしい声に、ガルドは笑みを浮かべ頷き返した。
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