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129 動けない数多の手
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赤の液体がドロリと滴り、床を濡らしている。ガルドは手に持った剣で触手を持ち上げようと、地面との間に切っ先を差し込んだ。
ゆっくりと持ち上げる。
紐より硬い機械製の触手は、感覚フィードバックを元にするのであれば非常に重かった。鉄に近い音と、一層大きくなった唸り声が響く。だがロックオンアラートが鳴らないため、ガルドは戦闘態勢にはならなかった。
そのまま高く持ち上げる。身長が二mを超えるガルドが、それと同等の長さの剣を高く振り上げる。案の定それほど高くない天井に、触手ごと切っ先が刺さった。
同時に大きな悲鳴が上がる。
「げっ」
下手にいじりすぎたか、とガルドは焦った。榎本の言う通り、彼の到着を待った方がよかったかもしれない。慌てて刺さったままの剣を真下に引き抜くと、ガルドの顔や身体にぱたぱたっと音を立てて赤い液体が降り注いだ。眉間にシワを寄せて頭を振る。嫌悪感で鳥肌がたつが、アバターの肌は普段通りのグラフィックボディのままだ。
天井に食い込んでいた触手が、重力でゆっくりと落下してくる。当たる前にガルドは避けようとし、いつもの癖で見切りスキルを発動させた。
爽快感あふれるエフェクトと音が鳴り、ガルドの身体が高速で前方へ移動した。大量の触手がはびこるエリアに頭から突っ込む。
「ちっ」
何をしているんだ、と自分で自分を叱った。
触手一本一本に触れるたび、身体に赤い汁がべとりと付く。金属の冷たい質感は鎧で防がれるが、顔に当たる数本に怒りが湧いた。バックステップで戻ろうとし、足元の触手をふんずけてバランスを崩す。
「グオォン」
痛い、とでも言っているのだろうか。触手が泣いた。咄嗟に何もできず、ガルドは尻餅をつく。そこでさらに数本の触手を下敷きにして、またもう一度触手が悲鳴をあげた。ガルドはまるで自分が悪いかのような気になり、小さく「すまん」と声を出した。
「グオオォン!」
またもう一つ、今度は元気な唸り声がする。
「……伝わってる、とか」
謝罪に応じたような声に、ガルドは腰を浮かせて立ち上がろうとした。とにかく尻の下から触手を引き剥がしたい。下半身が汁で濡れているのを感じ、嫌悪感にガルドは背筋を伸ばした。
「オンっ」
返事がした。明確な意味を持つ声のようで、唸り声なのは声帯の関係だろうか、人間的なニュアンスなのは間違いなかった。ガルドは吐き気を顔に出さないようにし、どこにあるかわからない目や口を探しながら、再度声をかけた。
「人間か、敵か、味方か」
低い唸り声。
「……イエスなら一回、ノーなら二回。お前は、人間か」
「ブオン」
ガルドはゴクリと生唾を飲んだ。触手を避けつつ立ち上がる。
「この事件の、犯人か」
しばし返事がない。触手はまだピクリとも動かず、何かこちらに物理で干渉してくる訳でもない。拮抗状態が続く。
「おーい、ガル、どぅわぁっ!? なんだこれ!」
エレベーターの電子音と共に、榎本の声が遠くから聞こえた。ホールは反対側で、ぐるりと反対側へ向かってきて貰わなければならない。ガルドは通信で<反対側だ>と伝えた。
「なんだよガルド、これ! NPCか、にしちゃあ……おい、おいおいおい!」
榎本が駆けつけてくると、大きな声でさらに駆け寄る。
「ガルド、何された」
「ん、コイツは……」
ヒトがプレイヤーとして入ってる、と続けるつもりだった。
「血まみれで、触手まみれで、何された……」
「榎本、ヒトだ。人が、」
「これ以上っ!」
様子がおかしい。ガルドはこれほど怒っている榎本を見るのが、本当に久しぶりだった。ハンマーをいつもよりずっと荒っぽく抜き、歯をむき出しにして、吠えるように触手へ怒鳴る。
「俺の相棒に手ぇ出したら! ぶっ殺すぞ!」
「榎本」
「ガルド下がれ、下降りてろ! コイツぜってぇ許さねえ!」
榎本が怒っている。以前もこんなことがあったと思いつつ、ガルドは喉を引きつらせ、どうすべきか考えた。田岡のときも状況の思い込みで勘違いをしたが、もうあんなことはごめんだとガルドは焦る。早めに誤解を解かなければ、また長くややこしいことになる。
確かに「敵か」との質問にはちゃんと返事がなかったが、とにかくこの触手は人間が中に入ってるらしい。もしかしたら、と田岡ケースを思い返す。
無垢な一般人の可能性はゼロではない。
「待て、違う、ただの汁だ」
とにかく血ではないと伝えつつ、顔の液体を片手でぬぐった。ハンマーを振りかぶって駆け出した榎本の、背中でひらひら舞うマントを空いている手で握りこむように掴む。
「ぐえっ」
「止まれ」
「だまってろガルド! 離せよ! お前、触手ってやばいだろ! 何された、無事か!?」
そう言って振り返る榎本に、ガルドは年齢相応の知識で推測した。触手は確かに一部ジャンルで多用されるアイテムでもある。男性が好む不健全なもので、榎本がそっちに興味を持つのはなんら不思議ではないが、呆れて物も言えなくなり一気に肩の力が抜けた。
「……想像するようなことはない」
馬鹿だな、とため息をつく。
「どこがコアだ、チッ! 全部すりつぶす!」
「もういい、榎本。下がってていい」
「あ!? お前が下がれよ! 仇は取ってやる!」
「ややこしくなるから、邪魔」
「んだと? こっちは心配してるってのに」
「いらん想像するな、コイツ人間だ」
「……あ?」
指で示した床の触手は、合いの手のように「グォン」と鳴いた。
時間経過で薄くなっていく赤色に、ガルドはホッとしていた。ずっと真っ赤のままだったら困る、と榎本の反応で学んでいる。ボートウィグ達ならもっと過剰な反応を示すだろう。榎本はただブチギレに近い形で怒っていたが、二人はきっと悲鳴と嘆きでうるさく騒ぐことが安易に想像できた。
「第一装備は無事。そういう時、服は破ける」
「お、おう。そうだな。いやほら俺らアソコ生えただろ、R18系と混ざったのかと一瞬……」
「ありえる。これは違う」
「そうだな、うん。心配して損した。お前で想像するとか三リットルぐらい吐けるぜ」
「黙ってろ」
「悪かったって。だってよ、ビビるだろ。触手まみれのとこに、真っ赤になって立ってれば」
「グオン」
「だろ? ほれ。一人で未知の生物に接近しすぎなんだよ」
「……わかった、突っ込みすぎた。そこは悪かった」
「グオングオン」
「二回は否定だったか? なんだよ、お前コイツの味方か」
「グォオオン」
「好かれてるな」
「い、いらない……」
ガルドは首を振った。相変わらずグロテスクな空間になった展望台で、何を悠長に和気藹々と話しているのか、ガルドは理解できなかった。榎本は触手とうまくコミュニケーションを取りつつあり、ガルドは光景を認めたくないため外を見ていた。
「ゥォオン……」
「悪りぃな~、コイツスプラッタホラー苦手なんだよ」
「ホラーは平気だ」
「ダークホラーだろ? 内臓系ダメってホラー平気になんて含まないっつーの」
「ん、もういい、それでいい」
「ギャウン!」
「ほら、コイツ案外可愛いだろ? 『諦めんな』だとよ」
「どこが」
「ウオォ……」
「嘆いてるぞ、ガルド。こんなに表情豊かなのになぁ」
状況を理解した榎本は、触手のとぐろをベッドのようにして横になっていた。そして会話のように唸り声の意図をくみ、小動物のように可愛がっている。それでも触手がピクリとも動かないのは何故なのか、ガルドは不思議でたまらない。
「動かないな」
「あれじゃね? アバターの操作方法って人型に近いほどやりやすいけどよ、触手ってどこがどう動くのか把握するの大変だったりしてな」
「なるほど」
「悪かったな、一本すりつぶしちまって」
榎本はカラッと笑って済ませた。ハンマーで触手を一本破壊し、その名残か、端の見えなかった触手群から二本、確実な切れ端が見えた。断面は潰したストローの端のようで、榎本の言う通りすりつぶしたらしい。
「しかし困ったな。名前も聞き取れないぞ」
「目がどこだか分からない。目線さえあれば、透明な文字盤越しで会話できる……」
「へぇ、そうなのか?」
「家庭科で習った」
授業で読んだ教科書の、発話が出来ない障害者向けのツールを思い出す。透明なアクリル板にひらがなが書かれ、それを順に目で追うのを、受け取る側が向こう側から読み取る仕組みだ。
しかし触手には目が見当たらない。
「そういや、見えてんのか?」
「ヴォウ、ヴォウ」
「……二回は?」
「否定。見えてない」
「うわ、まじかよ」
「デュウ」
「目、見えてないのか。それに満足に話せもしないとか……あああ、最悪だ!」
榎本が真面目な顔でうつ伏せになった。下いっぱいに広がる触手を「なんてことを」と撫でている。
「もう一度」
ガルドはまだ聞けていない返事を、もう一度質問した。
「お前は犯人か?」
「おいガルド、んなわけないだろ。五感のうち二つ封じられて、こんなところに一人だったんだぞ?」
「さっき聞いた時、返事がなかった。ハイでもイイエでもない、じゃあなんだ」
「ほら、二回鳴いてみろって」
榎本の問いかけにも触手は無言を貫いた。呼吸のように唸り続けるほど、声を出すのは苦痛じゃないはずである。突然の沈黙に、榎本も体を起こして心配そうにガルドを見た。
「え、なに、GMの可能性か?」
「分からない。犯人じゃないならノーでいい。何故だ」
動きのない機械製品で出来た触手は、うんともすんとも声を出さなくなった。
ゆっくりと持ち上げる。
紐より硬い機械製の触手は、感覚フィードバックを元にするのであれば非常に重かった。鉄に近い音と、一層大きくなった唸り声が響く。だがロックオンアラートが鳴らないため、ガルドは戦闘態勢にはならなかった。
そのまま高く持ち上げる。身長が二mを超えるガルドが、それと同等の長さの剣を高く振り上げる。案の定それほど高くない天井に、触手ごと切っ先が刺さった。
同時に大きな悲鳴が上がる。
「げっ」
下手にいじりすぎたか、とガルドは焦った。榎本の言う通り、彼の到着を待った方がよかったかもしれない。慌てて刺さったままの剣を真下に引き抜くと、ガルドの顔や身体にぱたぱたっと音を立てて赤い液体が降り注いだ。眉間にシワを寄せて頭を振る。嫌悪感で鳥肌がたつが、アバターの肌は普段通りのグラフィックボディのままだ。
天井に食い込んでいた触手が、重力でゆっくりと落下してくる。当たる前にガルドは避けようとし、いつもの癖で見切りスキルを発動させた。
爽快感あふれるエフェクトと音が鳴り、ガルドの身体が高速で前方へ移動した。大量の触手がはびこるエリアに頭から突っ込む。
「ちっ」
何をしているんだ、と自分で自分を叱った。
触手一本一本に触れるたび、身体に赤い汁がべとりと付く。金属の冷たい質感は鎧で防がれるが、顔に当たる数本に怒りが湧いた。バックステップで戻ろうとし、足元の触手をふんずけてバランスを崩す。
「グオォン」
痛い、とでも言っているのだろうか。触手が泣いた。咄嗟に何もできず、ガルドは尻餅をつく。そこでさらに数本の触手を下敷きにして、またもう一度触手が悲鳴をあげた。ガルドはまるで自分が悪いかのような気になり、小さく「すまん」と声を出した。
「グオオォン!」
またもう一つ、今度は元気な唸り声がする。
「……伝わってる、とか」
謝罪に応じたような声に、ガルドは腰を浮かせて立ち上がろうとした。とにかく尻の下から触手を引き剥がしたい。下半身が汁で濡れているのを感じ、嫌悪感にガルドは背筋を伸ばした。
「オンっ」
返事がした。明確な意味を持つ声のようで、唸り声なのは声帯の関係だろうか、人間的なニュアンスなのは間違いなかった。ガルドは吐き気を顔に出さないようにし、どこにあるかわからない目や口を探しながら、再度声をかけた。
「人間か、敵か、味方か」
低い唸り声。
「……イエスなら一回、ノーなら二回。お前は、人間か」
「ブオン」
ガルドはゴクリと生唾を飲んだ。触手を避けつつ立ち上がる。
「この事件の、犯人か」
しばし返事がない。触手はまだピクリとも動かず、何かこちらに物理で干渉してくる訳でもない。拮抗状態が続く。
「おーい、ガル、どぅわぁっ!? なんだこれ!」
エレベーターの電子音と共に、榎本の声が遠くから聞こえた。ホールは反対側で、ぐるりと反対側へ向かってきて貰わなければならない。ガルドは通信で<反対側だ>と伝えた。
「なんだよガルド、これ! NPCか、にしちゃあ……おい、おいおいおい!」
榎本が駆けつけてくると、大きな声でさらに駆け寄る。
「ガルド、何された」
「ん、コイツは……」
ヒトがプレイヤーとして入ってる、と続けるつもりだった。
「血まみれで、触手まみれで、何された……」
「榎本、ヒトだ。人が、」
「これ以上っ!」
様子がおかしい。ガルドはこれほど怒っている榎本を見るのが、本当に久しぶりだった。ハンマーをいつもよりずっと荒っぽく抜き、歯をむき出しにして、吠えるように触手へ怒鳴る。
「俺の相棒に手ぇ出したら! ぶっ殺すぞ!」
「榎本」
「ガルド下がれ、下降りてろ! コイツぜってぇ許さねえ!」
榎本が怒っている。以前もこんなことがあったと思いつつ、ガルドは喉を引きつらせ、どうすべきか考えた。田岡のときも状況の思い込みで勘違いをしたが、もうあんなことはごめんだとガルドは焦る。早めに誤解を解かなければ、また長くややこしいことになる。
確かに「敵か」との質問にはちゃんと返事がなかったが、とにかくこの触手は人間が中に入ってるらしい。もしかしたら、と田岡ケースを思い返す。
無垢な一般人の可能性はゼロではない。
「待て、違う、ただの汁だ」
とにかく血ではないと伝えつつ、顔の液体を片手でぬぐった。ハンマーを振りかぶって駆け出した榎本の、背中でひらひら舞うマントを空いている手で握りこむように掴む。
「ぐえっ」
「止まれ」
「だまってろガルド! 離せよ! お前、触手ってやばいだろ! 何された、無事か!?」
そう言って振り返る榎本に、ガルドは年齢相応の知識で推測した。触手は確かに一部ジャンルで多用されるアイテムでもある。男性が好む不健全なもので、榎本がそっちに興味を持つのはなんら不思議ではないが、呆れて物も言えなくなり一気に肩の力が抜けた。
「……想像するようなことはない」
馬鹿だな、とため息をつく。
「どこがコアだ、チッ! 全部すりつぶす!」
「もういい、榎本。下がってていい」
「あ!? お前が下がれよ! 仇は取ってやる!」
「ややこしくなるから、邪魔」
「んだと? こっちは心配してるってのに」
「いらん想像するな、コイツ人間だ」
「……あ?」
指で示した床の触手は、合いの手のように「グォン」と鳴いた。
時間経過で薄くなっていく赤色に、ガルドはホッとしていた。ずっと真っ赤のままだったら困る、と榎本の反応で学んでいる。ボートウィグ達ならもっと過剰な反応を示すだろう。榎本はただブチギレに近い形で怒っていたが、二人はきっと悲鳴と嘆きでうるさく騒ぐことが安易に想像できた。
「第一装備は無事。そういう時、服は破ける」
「お、おう。そうだな。いやほら俺らアソコ生えただろ、R18系と混ざったのかと一瞬……」
「ありえる。これは違う」
「そうだな、うん。心配して損した。お前で想像するとか三リットルぐらい吐けるぜ」
「黙ってろ」
「悪かったって。だってよ、ビビるだろ。触手まみれのとこに、真っ赤になって立ってれば」
「グオン」
「だろ? ほれ。一人で未知の生物に接近しすぎなんだよ」
「……わかった、突っ込みすぎた。そこは悪かった」
「グオングオン」
「二回は否定だったか? なんだよ、お前コイツの味方か」
「グォオオン」
「好かれてるな」
「い、いらない……」
ガルドは首を振った。相変わらずグロテスクな空間になった展望台で、何を悠長に和気藹々と話しているのか、ガルドは理解できなかった。榎本は触手とうまくコミュニケーションを取りつつあり、ガルドは光景を認めたくないため外を見ていた。
「ゥォオン……」
「悪りぃな~、コイツスプラッタホラー苦手なんだよ」
「ホラーは平気だ」
「ダークホラーだろ? 内臓系ダメってホラー平気になんて含まないっつーの」
「ん、もういい、それでいい」
「ギャウン!」
「ほら、コイツ案外可愛いだろ? 『諦めんな』だとよ」
「どこが」
「ウオォ……」
「嘆いてるぞ、ガルド。こんなに表情豊かなのになぁ」
状況を理解した榎本は、触手のとぐろをベッドのようにして横になっていた。そして会話のように唸り声の意図をくみ、小動物のように可愛がっている。それでも触手がピクリとも動かないのは何故なのか、ガルドは不思議でたまらない。
「動かないな」
「あれじゃね? アバターの操作方法って人型に近いほどやりやすいけどよ、触手ってどこがどう動くのか把握するの大変だったりしてな」
「なるほど」
「悪かったな、一本すりつぶしちまって」
榎本はカラッと笑って済ませた。ハンマーで触手を一本破壊し、その名残か、端の見えなかった触手群から二本、確実な切れ端が見えた。断面は潰したストローの端のようで、榎本の言う通りすりつぶしたらしい。
「しかし困ったな。名前も聞き取れないぞ」
「目がどこだか分からない。目線さえあれば、透明な文字盤越しで会話できる……」
「へぇ、そうなのか?」
「家庭科で習った」
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しかし触手には目が見当たらない。
「そういや、見えてんのか?」
「ヴォウ、ヴォウ」
「……二回は?」
「否定。見えてない」
「うわ、まじかよ」
「デュウ」
「目、見えてないのか。それに満足に話せもしないとか……あああ、最悪だ!」
榎本が真面目な顔でうつ伏せになった。下いっぱいに広がる触手を「なんてことを」と撫でている。
「もう一度」
ガルドはまだ聞けていない返事を、もう一度質問した。
「お前は犯人か?」
「おいガルド、んなわけないだろ。五感のうち二つ封じられて、こんなところに一人だったんだぞ?」
「さっき聞いた時、返事がなかった。ハイでもイイエでもない、じゃあなんだ」
「ほら、二回鳴いてみろって」
榎本の問いかけにも触手は無言を貫いた。呼吸のように唸り続けるほど、声を出すのは苦痛じゃないはずである。突然の沈黙に、榎本も体を起こして心配そうにガルドを見た。
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