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303 花火
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祭りの最後に花火が上がる。夏の終わりを感じさせる音と光に、万年雪の国であるフロキリへの強引な秋の訪れを予感させた。
「綺麗~」
「こういう花火ってしんみりするよな」
「地面からボアァーって出るやつはそうでもないのにな」
「そっちは盛り上がるだろ」
「打ち上げ花火ってさ、恋人と並んで見るもんだろ? 何悲しくて男だらけのゲーム内でさ……」
「言うな! 酒を飲め!」
「そうだ、言うな! リアルが充実してるんなら脳波コンなんざ入れないんだよ!」
「酒飲め!」
「一気、それイッキ!」
広場と大通りは騒がしい。フロキリに実装されていなかった「打ち上げ花火」イベントをサルガスに依頼した結果増えた氷結晶城一階窓口に、時間指定のイベント発動を仕込んでいたらしい。城から伸びる天への螺旋階段とのコントラストが美しい花火は、古典的な日本の大尺玉ばかりだった。
「なんかさ、ゲームらしくない花火だねぇ」
ジャガイモの仮装をしたメロが見上げながら呟いた。ガルドも頷くと、体育座りで座るマグナの膝上に停まっているアヒル姿のAが「クワッ」と鳴いた。
「ソース元が実写なのでね」
「そんなことまで分かるのか?」
「サルガスに入力した依頼だがね、今はもう管理している人間には届いてないのでね。こちらで聞いて、こちらで実装しているのでね」
「初耳だ」
「うん、結構大変だったがね」
「ヘェ~そうなんだぁ~。実写ってことは、どっかの花火大会の画像ってこと?」
「今流しているのは昨年の全国花火競技大会の映像でね」
「大会なんてあるの?」
「知らなかった」
「……話を戻していいか? A」
「何かね?」
「俺たちのアプデ依頼が届いていない、とは?」
ガルドは内心「戻さなくていいのに」と思いながら、要らないことを言わないようAをチロリと視界に入れた。Aのことだ、ガルドの視界に何が映っているのかぐらい覗き見るのは簡単だろう。見られていると気づくだけで十分メッセージになる。
「言葉の通り、サルガスを作ったオーナーの手から操作権が離れているのでね」
「なぜ」
「逆に言えば、もうボクら以外の誰も介入できないのでね。拙いかもしれないがね、頑張って不備のないよう対応するのでね」
「なになに、ついてけないんですけど」
メロが花火を背に立ち上がった。金色の美しい大尺玉がジャガイモシルエットに隠れて完全に見えなくなる。マグナが手で避けるよう指示しながら口を開いた。
「つまり、複数いる犯人たちにもグループがあり、内輪揉めの結果Aが所属している場所以外は全滅し、サルガスに話しかけていた内容もひっくるめて全て貴様の仲間が対応している……という解釈で合っているか?」
「おおよそ合っているのでね。補足するとだね、まだ相手を行動不能にしたわけではないのでね。物理的に終端の装置を破壊し、場合によっては奪取してこちらで管理しているというわけでね」
「なるほどな」
「え? あー、つまり事件関係者から備品奪ったり壊したりしてるってこと?」
「そういうことだ。で? 身柄の解放はいつになる? ログアウトだけじゃないぞ。アイツらは日本周辺のクルーズ船だったか。ならいい。だが俺や三橋はどうなる。ソロはカナダだったな。そっちもだ。異国で解放されても困る。逆に貴様とは別口の奴らが掻っ攫うとして、今度こそ人体実験となれば……」
「フム、それは大変なのでね」
「大変どころじゃないでしょー! アイツ一人に任せてたらダメだって」
「アイツ?」
「ベルベットだよ! 他に協力者とか、ほら、国の偉い人とか、あとはえーっと、そうそうディンクロンとか阿国とか!」
「ボクが出来ることとしてはだね、BJの諸君。何かしらの『落とし所』で手を打つ、というオーナーの解決策に乗ることでね」
「おとし、どころ……」
ガルドもメロたち同様目を見開いた。
かつてあまりはっきりと言葉にされることなく誤魔化されてきた、Aやベルベットの「目的」に当たるものだろう。
ひゅー、どん、ぱぱぱちぱち、と花火が上がり続けている。
「正直、HラインもCB以降のダブル・ディジットも、全く必須というわけではないのでね。逃げたとて深追いするものは居ないはずだがね。問題はキミと……」
感情の見えないアーモンドアイがガルドを見ている。
「キミたち」
続けてメロとマグナを見る。
「そして、ああ、来たようだがね」
さらに横、小道を大通りに向けて視線を向けるAに釣られガルドも同じ方向を見た。奥からは派手な仮装風の装備に着替えている夜叉彦とジャスティン、そして榎本が歩いてきている。酒や団扇、わたあめといった祭りらしいアイテムを手にしており、何かの話題で盛り上がっていた。
「……BJ?」
「その通りだがね、みずき。ああ、オーナーはAJこそ必須だと思っているようだがね。おそらくみずきの方が希少であり、みずきこそ至高でね」
「はぁ? なーに言ってんだ、リアルネームは使うなって……へ?」
途中で首を突っ込んでくる形となった榎本だが、声の主を見て首を傾げた。Aはなぜか榎本へ向けてだけ目を細め、少々不満げな声で「ふぅむ、静かにしたまえね」と文句を言う。
「A」
「……A!? あ、コイツっ!」
「む、ガルドのペットのか? なんと、再実装とはたまげたな」
「テメェには一言文句言ってやらないと気が済まねぇんだ!」
榎本が小さなアヒルへ心底ドスのきいた声を上げ、胸ぐらを掴みかかる勢いでまん丸の鳥ボディを鷲掴みしようとした。Aはパッと真上に飛び、さらに空中で二段ジャンプして上空へひらりと回避する。
「逃げんな!」
「ちょっと用を思い出したのでね。また来るのでね」
身長2mの榎本がジャンプして手を伸ばしても届かない上空まで逃げたのち、Aは消えた。
「くっそーっ! ムカつく鳥野郎だな!」
「何怒ってるの?」
「アイツがガルドをたぶらかしたんだろ!? 次来たらぶん殴る!」
「ふーん、へー、そっかそっか。まぁ落ち着きなって、ほら」
榎本が鼻息荒く怒るのを、夜叉彦がニヤニヤしながら酒を勧めて宥めた。
「綺麗~」
「こういう花火ってしんみりするよな」
「地面からボアァーって出るやつはそうでもないのにな」
「そっちは盛り上がるだろ」
「打ち上げ花火ってさ、恋人と並んで見るもんだろ? 何悲しくて男だらけのゲーム内でさ……」
「言うな! 酒を飲め!」
「そうだ、言うな! リアルが充実してるんなら脳波コンなんざ入れないんだよ!」
「酒飲め!」
「一気、それイッキ!」
広場と大通りは騒がしい。フロキリに実装されていなかった「打ち上げ花火」イベントをサルガスに依頼した結果増えた氷結晶城一階窓口に、時間指定のイベント発動を仕込んでいたらしい。城から伸びる天への螺旋階段とのコントラストが美しい花火は、古典的な日本の大尺玉ばかりだった。
「なんかさ、ゲームらしくない花火だねぇ」
ジャガイモの仮装をしたメロが見上げながら呟いた。ガルドも頷くと、体育座りで座るマグナの膝上に停まっているアヒル姿のAが「クワッ」と鳴いた。
「ソース元が実写なのでね」
「そんなことまで分かるのか?」
「サルガスに入力した依頼だがね、今はもう管理している人間には届いてないのでね。こちらで聞いて、こちらで実装しているのでね」
「初耳だ」
「うん、結構大変だったがね」
「ヘェ~そうなんだぁ~。実写ってことは、どっかの花火大会の画像ってこと?」
「今流しているのは昨年の全国花火競技大会の映像でね」
「大会なんてあるの?」
「知らなかった」
「……話を戻していいか? A」
「何かね?」
「俺たちのアプデ依頼が届いていない、とは?」
ガルドは内心「戻さなくていいのに」と思いながら、要らないことを言わないようAをチロリと視界に入れた。Aのことだ、ガルドの視界に何が映っているのかぐらい覗き見るのは簡単だろう。見られていると気づくだけで十分メッセージになる。
「言葉の通り、サルガスを作ったオーナーの手から操作権が離れているのでね」
「なぜ」
「逆に言えば、もうボクら以外の誰も介入できないのでね。拙いかもしれないがね、頑張って不備のないよう対応するのでね」
「なになに、ついてけないんですけど」
メロが花火を背に立ち上がった。金色の美しい大尺玉がジャガイモシルエットに隠れて完全に見えなくなる。マグナが手で避けるよう指示しながら口を開いた。
「つまり、複数いる犯人たちにもグループがあり、内輪揉めの結果Aが所属している場所以外は全滅し、サルガスに話しかけていた内容もひっくるめて全て貴様の仲間が対応している……という解釈で合っているか?」
「おおよそ合っているのでね。補足するとだね、まだ相手を行動不能にしたわけではないのでね。物理的に終端の装置を破壊し、場合によっては奪取してこちらで管理しているというわけでね」
「なるほどな」
「え? あー、つまり事件関係者から備品奪ったり壊したりしてるってこと?」
「そういうことだ。で? 身柄の解放はいつになる? ログアウトだけじゃないぞ。アイツらは日本周辺のクルーズ船だったか。ならいい。だが俺や三橋はどうなる。ソロはカナダだったな。そっちもだ。異国で解放されても困る。逆に貴様とは別口の奴らが掻っ攫うとして、今度こそ人体実験となれば……」
「フム、それは大変なのでね」
「大変どころじゃないでしょー! アイツ一人に任せてたらダメだって」
「アイツ?」
「ベルベットだよ! 他に協力者とか、ほら、国の偉い人とか、あとはえーっと、そうそうディンクロンとか阿国とか!」
「ボクが出来ることとしてはだね、BJの諸君。何かしらの『落とし所』で手を打つ、というオーナーの解決策に乗ることでね」
「おとし、どころ……」
ガルドもメロたち同様目を見開いた。
かつてあまりはっきりと言葉にされることなく誤魔化されてきた、Aやベルベットの「目的」に当たるものだろう。
ひゅー、どん、ぱぱぱちぱち、と花火が上がり続けている。
「正直、HラインもCB以降のダブル・ディジットも、全く必須というわけではないのでね。逃げたとて深追いするものは居ないはずだがね。問題はキミと……」
感情の見えないアーモンドアイがガルドを見ている。
「キミたち」
続けてメロとマグナを見る。
「そして、ああ、来たようだがね」
さらに横、小道を大通りに向けて視線を向けるAに釣られガルドも同じ方向を見た。奥からは派手な仮装風の装備に着替えている夜叉彦とジャスティン、そして榎本が歩いてきている。酒や団扇、わたあめといった祭りらしいアイテムを手にしており、何かの話題で盛り上がっていた。
「……BJ?」
「その通りだがね、みずき。ああ、オーナーはAJこそ必須だと思っているようだがね。おそらくみずきの方が希少であり、みずきこそ至高でね」
「はぁ? なーに言ってんだ、リアルネームは使うなって……へ?」
途中で首を突っ込んでくる形となった榎本だが、声の主を見て首を傾げた。Aはなぜか榎本へ向けてだけ目を細め、少々不満げな声で「ふぅむ、静かにしたまえね」と文句を言う。
「A」
「……A!? あ、コイツっ!」
「む、ガルドのペットのか? なんと、再実装とはたまげたな」
「テメェには一言文句言ってやらないと気が済まねぇんだ!」
榎本が小さなアヒルへ心底ドスのきいた声を上げ、胸ぐらを掴みかかる勢いでまん丸の鳥ボディを鷲掴みしようとした。Aはパッと真上に飛び、さらに空中で二段ジャンプして上空へひらりと回避する。
「逃げんな!」
「ちょっと用を思い出したのでね。また来るのでね」
身長2mの榎本がジャンプして手を伸ばしても届かない上空まで逃げたのち、Aは消えた。
「くっそーっ! ムカつく鳥野郎だな!」
「何怒ってるの?」
「アイツがガルドをたぶらかしたんだろ!? 次来たらぶん殴る!」
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