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408 ロンド・ベルベットは献上品
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「俺、そんな重要な任務を?」
「実際、Aも大学生四人に頼んで叶うなんて夢のまた夢だと思ってたろうよ」
榎本が言いにくいことをサラッと指摘した。ガルドも同意見だ。大学生四人、正しくは一人高校三年生が混ざっているが、全員脳波コンユーザーという点では優秀だが若過ぎた。
「アイディアは良い。できる範囲で可能な限りの最善だ。だが、晃五郎の方が何枚も上手だろうな……金もある。人手もある。潰すと言っても、例えば我々同様の状態、つまり拉致監禁などは難しいだろう」
「それはそうっすね。Aさんがどこまで望んでるのかイマイチですけど、物理的な拘束ってのは無理ですよそりゃあ」
「もう二度と、同じ被害者が出ないように……それが、我々の勝利条件だ」
マグナが少し声を低くして言った。
「そうだぞ、何も『俺たちと同じ目に合わせてやろう』ってんじゃないんだ」
ジャスティンが酒の入った焼き物のぐい呑みを傾けながら言う。ガルドも頷く。チーマイのギルドマスターだったディンクロンこと晃九郎との関係、彼が晃五郎と表向き敵対していない点などを考えると、一つ思い至ることがある。
「……晃五郎も、ある種の被害者」
「えっ」
「自ら進んで、やりたくてやってると思うか? 自国の人間を実験に献上なんて」
元々軽くはなかったロンベルの空気が、明らかに重たくなる。
「そうだよな……」
「何か、俺らを使わないともっと悪いケースになる何かがあるんだ……」
「だよねぇ。つまりウチらは『この計画に向いてるから献上された』し、ウチらが助かってもその次に向いてる日本人がまた拉致されるってことだよねぇ。例えば人数が増える、とか? もっと若い子が狙われる、とか?」
「ありそう」
マグナが肩をすくめ、黒い鳥の陽太郎は隣で苦笑した。若い陽太郎の感覚では、老人は金があっても手術しないが、若者は金さえあれば誰でも手術し脳波コン持ちに変わる可能性がある。実際にチヨ子は、金がなくとも手術を受けられたために気楽にユーザー側へと転んだ若者の典型例だ。いくら大人の間で脳波コンのヘイトが高まっても、これから新規ユーザーはどんどん増えるだろう。
そういえば、法律を変えて新規ユーザーを増やさないよう頑張っていたのも晃五郎だ。老体に鞭打ちながらとアナウンサーが褒める声と、北海道特有の澄んだ空気、そして日帰り銭湯の床を思い出す。
「晃五郎は晃九郎に見逃されていた。それは晃九郎も晃五郎の意図を理解していたからだと思う。この辺は……」
チラリとガルドが目だけ動かすと、隣に座る榎本が頷いた。
「俺とガルドでぷっとんにカマかけた時、そんなニュアンスのこと言ってたからな。まず間違いなく晃九郎は、五郎の関与を知ってた。そうだガルド、お前の方で外部データ見れないか? 晃五郎と研究所とのやりとりとか」
「ない。真っ先に探した。かけらもなかった」
「直接やりとりは無い、のか」
「あったとしてもデジタルデータじゃ無いかもね。通話か紙か口頭じゃないかな」
「証拠があったところで警察も五郎の言いなりじゃない?」
「やっぱ陽太郎くんたちの戦法に倣うのが良さげ?」
メロと夜叉彦が言うが、ガルドは首を振る。
「いいや、足りない。もっと徹底的に」
「と言っても、中からだと限度あるだろ」
「……『俺たちと同じ目に合わせてやろう』。可哀想だが」
「ぬ?」
ジャスティンが言った言葉を繰り返す。
「陽太郎、外部の仲間に連絡。日電じゃない別企業の、侵襲デバイスの研究者がいるって」
「います! はや、えーっと林元のお姉さん!」
「事情は説明していい。知ってること全部だ。あと、こっち側はプレイヤー総動員で晃五郎を手術台に乗っければいい」
「え?」
「何、手術台!?」
「……読めたぞ、ガルド。奴に脳波コン埋め込んでしまえば、確かに身動きは取れなくなる」
「ゲェッ! また拉致被害者増やすのかよ!」
「で、それを中継する。いやしなくても勝手にマスコミは動く……陽太郎たちが動いてくれていたおかげで、もうマークされてるからな」
「え、えへへ」
「グッジョブ陽太郎」
「俺らの活動、無駄じゃなかったんですね……聞いてるかオマエら。俺ら、頑張ったよな……」
黒いアヒルは目を細めていた。
「実際、Aも大学生四人に頼んで叶うなんて夢のまた夢だと思ってたろうよ」
榎本が言いにくいことをサラッと指摘した。ガルドも同意見だ。大学生四人、正しくは一人高校三年生が混ざっているが、全員脳波コンユーザーという点では優秀だが若過ぎた。
「アイディアは良い。できる範囲で可能な限りの最善だ。だが、晃五郎の方が何枚も上手だろうな……金もある。人手もある。潰すと言っても、例えば我々同様の状態、つまり拉致監禁などは難しいだろう」
「それはそうっすね。Aさんがどこまで望んでるのかイマイチですけど、物理的な拘束ってのは無理ですよそりゃあ」
「もう二度と、同じ被害者が出ないように……それが、我々の勝利条件だ」
マグナが少し声を低くして言った。
「そうだぞ、何も『俺たちと同じ目に合わせてやろう』ってんじゃないんだ」
ジャスティンが酒の入った焼き物のぐい呑みを傾けながら言う。ガルドも頷く。チーマイのギルドマスターだったディンクロンこと晃九郎との関係、彼が晃五郎と表向き敵対していない点などを考えると、一つ思い至ることがある。
「……晃五郎も、ある種の被害者」
「えっ」
「自ら進んで、やりたくてやってると思うか? 自国の人間を実験に献上なんて」
元々軽くはなかったロンベルの空気が、明らかに重たくなる。
「そうだよな……」
「何か、俺らを使わないともっと悪いケースになる何かがあるんだ……」
「だよねぇ。つまりウチらは『この計画に向いてるから献上された』し、ウチらが助かってもその次に向いてる日本人がまた拉致されるってことだよねぇ。例えば人数が増える、とか? もっと若い子が狙われる、とか?」
「ありそう」
マグナが肩をすくめ、黒い鳥の陽太郎は隣で苦笑した。若い陽太郎の感覚では、老人は金があっても手術しないが、若者は金さえあれば誰でも手術し脳波コン持ちに変わる可能性がある。実際にチヨ子は、金がなくとも手術を受けられたために気楽にユーザー側へと転んだ若者の典型例だ。いくら大人の間で脳波コンのヘイトが高まっても、これから新規ユーザーはどんどん増えるだろう。
そういえば、法律を変えて新規ユーザーを増やさないよう頑張っていたのも晃五郎だ。老体に鞭打ちながらとアナウンサーが褒める声と、北海道特有の澄んだ空気、そして日帰り銭湯の床を思い出す。
「晃五郎は晃九郎に見逃されていた。それは晃九郎も晃五郎の意図を理解していたからだと思う。この辺は……」
チラリとガルドが目だけ動かすと、隣に座る榎本が頷いた。
「俺とガルドでぷっとんにカマかけた時、そんなニュアンスのこと言ってたからな。まず間違いなく晃九郎は、五郎の関与を知ってた。そうだガルド、お前の方で外部データ見れないか? 晃五郎と研究所とのやりとりとか」
「ない。真っ先に探した。かけらもなかった」
「直接やりとりは無い、のか」
「あったとしてもデジタルデータじゃ無いかもね。通話か紙か口頭じゃないかな」
「証拠があったところで警察も五郎の言いなりじゃない?」
「やっぱ陽太郎くんたちの戦法に倣うのが良さげ?」
メロと夜叉彦が言うが、ガルドは首を振る。
「いいや、足りない。もっと徹底的に」
「と言っても、中からだと限度あるだろ」
「……『俺たちと同じ目に合わせてやろう』。可哀想だが」
「ぬ?」
ジャスティンが言った言葉を繰り返す。
「陽太郎、外部の仲間に連絡。日電じゃない別企業の、侵襲デバイスの研究者がいるって」
「います! はや、えーっと林元のお姉さん!」
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「え?」
「何、手術台!?」
「……読めたぞ、ガルド。奴に脳波コン埋め込んでしまえば、確かに身動きは取れなくなる」
「ゲェッ! また拉致被害者増やすのかよ!」
「で、それを中継する。いやしなくても勝手にマスコミは動く……陽太郎たちが動いてくれていたおかげで、もうマークされてるからな」
「え、えへへ」
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「俺らの活動、無駄じゃなかったんですね……聞いてるかオマエら。俺ら、頑張ったよな……」
黒いアヒルは目を細めていた。
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