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412 和の空間にゴツゴツ黒甲冑
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佐野みずきは目を伏せた。ガルドが目をあける。
床を流れる水を冷却水代わりにしながら、佐野みずきと繋がるコードが巨大な専用送信機から宙の衛星へ、衛星からまた地上へ、そして海を這うファイバのコードへ、最後に日本へとガルドを運ぶ。タイムラグはない。全てが同一の時間の中だ。
ガルドは大量の出来事から必要なものだけを見ようとした。晃五郎の姿、彼の部下、車、ホテル内にあるという日本料理店の個室の輪郭だけが見える。だが見えるのは情報だけだ。ラベルと記号が並び、無機質な黒い線で部屋のサイズだけが分かり、そこがどんな床でどんな椅子があるのかなどは見えない。
人にはたくさんのラベルが貼られている。稼働中のアプリの名前、送受信しているメッセージの件名、見ているネットの番地、ウザい広告、家族写真、そして生身の肉体がたまに電気を帯びて凸凹して見えた。セキュリティの高いラベルは目を凝らしてもよく読めないが、ガルドが指で擦れば解像度が上がり読めるようになる。そうして元総理の私服警備スタッフがつけている無線機や、脳波コンにしていない情興庁職員の端末を縄のイメージで一つにくくりつけていく。
縄の先には、夜叉彦とメロがネットから拾ってきた晃五郎の声紋生成アプリをつけている。自動でそれらしい言葉遣いを吐き、こちらの指示通りに彼らを動かすことができる。もちろん違法だ。
高級料亭の和を全面に出した上品な通路を、黒い甲冑姿の大男が歩く。普段の歩行音と同じだと感じるのは、聞こえているのがガルドだけだからだろう。普段通り、ただフィールドが間接照明に照らされた純和風の店なだけだ。脳波コンを持つ情興庁職員が突き当たりで二人、無言で立っている。彼らが電子上で立ち話していることも分かる。耳を澄ませて聞き取るが、政治的な、ガルドには興味もないことを早口で話していた。
気付かれる前に。ガルドは、自分の頭の上を見る。天井には、木目の目地に合わせて一緒に進んできていた黒いアメーバがいた。バックヤードに紛れ込ませた段ボールから一本ずっと続いている。総量にして30kg、職員七名を昏倒させるには十分だった。
目線を上に向けてから視線を大剣にうつし、叩きつけるように振るう。その攻撃意思がほぼオートで黒ネンドの繊毛を操作した。剣の軌道と黒ネンドの放物線が重なる。飛びかかっていったネンドは親指の爪程度の量だが、職員達のこめかみにびったりと張り付き、動きを止めた。
彼らは半強制的に眠るような信号を与えられ、夢遊病に近い感覚で立ち尽くしている。ガルドは颯爽とその脇を抜けて先に進んだ。歩みは遅いのではない、天井の黒ネンドが進める最大速度に合わせている。
「やろうと思えば彼らを傀儡にして動かせそうだが」
「やめておこう。後でバレた時、脳波コンの心象がもっと悪くなる」
佐野みずきはロボットアームの上に腰かけ直し、再び目を閉じた。
床を流れる水を冷却水代わりにしながら、佐野みずきと繋がるコードが巨大な専用送信機から宙の衛星へ、衛星からまた地上へ、そして海を這うファイバのコードへ、最後に日本へとガルドを運ぶ。タイムラグはない。全てが同一の時間の中だ。
ガルドは大量の出来事から必要なものだけを見ようとした。晃五郎の姿、彼の部下、車、ホテル内にあるという日本料理店の個室の輪郭だけが見える。だが見えるのは情報だけだ。ラベルと記号が並び、無機質な黒い線で部屋のサイズだけが分かり、そこがどんな床でどんな椅子があるのかなどは見えない。
人にはたくさんのラベルが貼られている。稼働中のアプリの名前、送受信しているメッセージの件名、見ているネットの番地、ウザい広告、家族写真、そして生身の肉体がたまに電気を帯びて凸凹して見えた。セキュリティの高いラベルは目を凝らしてもよく読めないが、ガルドが指で擦れば解像度が上がり読めるようになる。そうして元総理の私服警備スタッフがつけている無線機や、脳波コンにしていない情興庁職員の端末を縄のイメージで一つにくくりつけていく。
縄の先には、夜叉彦とメロがネットから拾ってきた晃五郎の声紋生成アプリをつけている。自動でそれらしい言葉遣いを吐き、こちらの指示通りに彼らを動かすことができる。もちろん違法だ。
高級料亭の和を全面に出した上品な通路を、黒い甲冑姿の大男が歩く。普段の歩行音と同じだと感じるのは、聞こえているのがガルドだけだからだろう。普段通り、ただフィールドが間接照明に照らされた純和風の店なだけだ。脳波コンを持つ情興庁職員が突き当たりで二人、無言で立っている。彼らが電子上で立ち話していることも分かる。耳を澄ませて聞き取るが、政治的な、ガルドには興味もないことを早口で話していた。
気付かれる前に。ガルドは、自分の頭の上を見る。天井には、木目の目地に合わせて一緒に進んできていた黒いアメーバがいた。バックヤードに紛れ込ませた段ボールから一本ずっと続いている。総量にして30kg、職員七名を昏倒させるには十分だった。
目線を上に向けてから視線を大剣にうつし、叩きつけるように振るう。その攻撃意思がほぼオートで黒ネンドの繊毛を操作した。剣の軌道と黒ネンドの放物線が重なる。飛びかかっていったネンドは親指の爪程度の量だが、職員達のこめかみにびったりと張り付き、動きを止めた。
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「やろうと思えば彼らを傀儡にして動かせそうだが」
「やめておこう。後でバレた時、脳波コンの心象がもっと悪くなる」
佐野みずきはロボットアームの上に腰かけ直し、再び目を閉じた。
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