隣の席の女の子の笑ってる顔が見てみたい。

綾川ふみや

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第15話 チュロスとアルバム

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「さっきの謎解き、面白かったね」
「そうね。まさか最初の説明用の紙をあんな風に使うなんて……よく出来ていたわ」
 中庭のベンチに座って休憩しながら、私と真昼は先ほどの文芸部の出し物の感想を言い合っていた。
 最近の文芸部は謎解きカフェをやるのが恒例となっているが、その完成度たるや市販の謎解きキットをも凌駕するレベルの出来なのだ。今年も十分に楽しませてもらった。
「……でも、頭を使い過ぎて、少し疲れたわね。何か甘いものを摂取したいわ」
「あ、それならチュロス買ってくるよ。すぐそこで売ってるから」
「ええ……そうね、お願いするわ」
 実はうちの学校では衛生上の観点から、飲食系の出し物は原則禁止されていた。例外として、生徒会とボランティアがやっている屋台でだけお菓子が販売されている。ちなみ学食も臨時営業してくれていて、やや混むものの昼食をそこで取ることも可能となっている。
 さっそく生徒会の屋台に並んでチュロスを二本購入し、真昼のもとへと駆け足で戻った。手元からは甘くて香ばしい匂いが立ち込めている。
「お待たせ。シナモンとチョコがあったから、一本ずつ買ってみたんだけど、どっちにする?」
「そうねえ……じゃあ、シナモンの方を貰おうかしら」
「おっけー、はいどうぞ」
 私は右手で持っていたシナモン味のチュロスを真昼に手渡した。
 真昼の隣に腰掛け、チョコ味のチュロスをひと齧りする。香ばしい風味が鼻を突き抜け、ちょうどよい甘みが疲れた脳に染み渡る。
 口元についた砂糖を、真昼は赤い舌先でちろりと舐めとった。その仕草につい目線が行ってしまい、慌てて見ていないふりをした。
 なんてことない所作なのに、なんでこんなにどきっとするんだろ……。
「美味しいわね。でも、チョコ味のも少し食べてみたいわ」
「あ、うん、いいよ。じゃあ私はそっちのをちょっと貰うね」
 人前であーんってする勇気は流石になかったので、それぞれのチュロスを交換して食べることにした。
 私はシナモン味のをひとかけらだけ口に入れて味わう。……そう言えばこれ、間接キスになるのか、一応。
 友達同士だとあんまり気にしなかったけど、真昼が相手となると……なんか妙に気になってしまう。
「こっちもいいわね」「う、うん、そうだね。どっちも美味しいね」
 真昼は特に気にしている様子はなかった。私が意識し過ぎなのかな……。
 一口ずつ齧ったあと、また手持ちのチュロスを交換し合った。
 あまり意識しないようにチュロスをもぐもぐしながら、私は学園祭のパンフレットに視線をやった。
 学生には事前にパンフレットが配られるので、今日の大まかな予定はあらかじめ相談して決めておいた。
 午後の目玉の一つは、演劇部によるオリジナル作品の公演だ。
 どうやら近未来的な世界観で、戦争後に荒廃してしまった街が舞台のようだ。メインは人間の少女と女性型アンドロイドの交流を描いた話らしい。
 開場までまだ時間はあるけど、他の出し物を見に行くほどの余裕もない。中途半端に時間が空いてしまった。
 さてどうしようかななんて思っていると、私たちの方へと近づいてくる見知った人影があった。
「やっほー、お二人さん」
 そう言って手を振っているのは眞理だった。首からは何故かカメラを提げている。写真部でもアルバム委員でもないはずだが、いったいどうしたのだろう。
「眞理、そのカメラは?」
「ああこれ? なんか今日、アルバム委員の人が一人忙しいらしくてさ。ほんとはその人が学園祭の様子を撮影するはずだったんだけど、代わりに写真撮っといてくれないかって頼まれちゃった」
「それって、結構責任重大なんじゃないかしら?」
 と真昼さんが聞くが、眞理はへらへらと笑いながら首を振った。
「そうでもないよ。写真係の人は他にも何人かいるし、あたしの分はいいのが撮れればラッキーくらいの感じだと思う」
「へえ、でも大変だね。展示の方は大丈夫?」
「今は他のメンバーに任せて休憩貰ってる。息抜きがてらちょっと撮るだけだから、大したことないよ。そうだ、もし良かったら二人の写真撮らせてくれない? チュロスを仲良く頬張る女子生徒二人組……うん、これは結構絵になるかも」
「そ、そうかな……まあ、私は別に構わないけど」
 後で使えるかは分からないが、人助けだと思って何枚か素材を提供してあげてもいいかもしれない。
「私も構わないわ」
「よし、それなら決まりね。じゃあ適当にポーズ取ってみて」
 適当に、と言われても何をしたら良いか分からなかったので、取りあえず定番のピース。チュロスを片手にニコニコしている私と、無表情な真昼。割とシュールだ。
 あまりにも表情が硬いので、ほっぺたをつんつんしてふざけて見たり。
 ちょっと肩を寄せて、チュロスを×の字にしてみたり。
 食べさせあいっこ……は、流石に恥ずかしいのでやめとく。
 ともかくそんな感じで何枚か写真を撮ってもらった。
「うんうん、こんだけ撮れれば十分かな。ありがと、助かったよ。ちなみにお二人はこれからどこへ?」
「あ、もうすぐ演劇部の公演があるから、それを見ようと思って」
 隣の真昼も黙ってこくりと頷く。
 まだ開場の時間ではないが、少し早めに並んでもいいかもしれない。
「なるほどね。あたしはもう少し休憩したら展示の方に戻ろうかな」
「そっか。じゃあ、私たちはそろそろ演劇部の方に向かうね」
「ん、分かった」
「よし、いこっか真昼」
「ええ」
 私はチュロスを食べきり、真昼の手を取って立ち上がった。
 演劇部の公演は、三百人ほどの人が収容できる講堂で行われる。
 表情には出ていないけど、真昼が公演を楽しみにしていることは肌を通じて伝わってくる。不思議と分かってしまうものなのだ、そういうのって。
「撮ってもらった写真、アルバムに載るのかな」
「どうかしらね」
 真昼はあまり関心が無さそうな返事だったけど、私は載ってたらいいなあとちょっとだけ思った。
 卒業アルバムを受け取るということは、もちろん高校生活の終わりを意味するわけで。
 高校一年生の私たちにとって、それはまだ遥か先のことのように感じられた。
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