隣の席の女の子の笑ってる顔が見てみたい。

綾川ふみや

文字の大きさ
19 / 19

第18話 彼女の匂い

しおりを挟む
「香水、首の後ろでいいかしら?」
「う、うん」
 私が頷くと、真昼は背後に回って私の後ろ髪をかき上げた。
 ぷしゅっと霧吹きみたいな音が聞こえて、うなじの辺りが一瞬ひんやりとする。
 先ほど嗅いだ香水の匂いがふわりと漂った。
「これくらいでいいと思うわ。ねえ、私にも同じ場所にかけてくれない?」
「うん、いいよ」
 香水の瓶を手渡すと、真昼はくるりと向きを変えて私に背を向けた。長い黒髪が遠心力で翻る。
「こうすると見えるかしら?」
 真昼は自分の両手でさらさらした髪をかき上げ、うなじを露出させる。
 普段見ることのない場所が目の前に晒されていて、何か見てはいけないものを直視しているような気分になった。
 私は震える手で香水をひと吹きし、「これでいいかな」と声を掛ける。
「ええ、いいと思うわ、ありがとう」
 真昼はこちらを振り返りながら、少しはにかんだような表情を浮かべた。
「あの、みつは……」
 続きを言いにくそうに、口をつぐむ。
 何を言いたいのか、なんとなく分かってしまう。
 だけどそれはお互いあまりにも気恥ずかしくて、本当に口にしてしまっていいのか迷う。
 でも、その甘美な誘惑にはけっして抗えない。
「……いいよ。匂い、確かめる?」
「そうね、確かめたいわ」
 今度はまた私が真昼に背を向ける。
 程なくして、後ろからひしと真昼に抱きしめられた。
 首の後ろに顔をうずめられる感触。
 首筋に彼女の鼻先が触れて、少しくすぐったい。
「ん……みつは、いい匂い」
 無防備に自らのうなじを晒す。
 何故か背徳感に満たされて、だけど……たまらなく気持ちよかった。
 真昼と付き合い始めて、私はどこか変になってしまったのかもしれない。
 ただそれは悪いことではなく、我慢しなくていいものを一つ教えてもらった気分だった。
「やっぱりいいよね、この香水」
「ええ。でも、みつはの匂いともよく合ってるわ」
「私の匂いもするの?」
「しないとでも思った?」
 途端、頬がかあっと熱くなる。
 私の匂い、するものなんだ……。
 逆の立場で考えれば、確かにそうなんだろうという気はするけれど。
 自分がその立場に立ってみると、やっぱりこそばゆい。
「ねえ、あんまり嗅がれると……」
「分かったわ。じゃあ交代しましょう」
 腕の力を緩めながら、真昼はさらっとそんなことを口にする。
 交代。それが意味することは、つまり。
「……私もいいの?」
「もちろんよ。背、届く?」
「うん」
 くるりと振り返った真昼の背中に飛びつくように、彼女を後ろから抱きしめ返す。
 さらさらの髪の束に、迷うことなく思いっきり顔をうずめた。
 同じ香水のはずなのに、自分から漂う香りとは全然違う。
 フローラルな香りの中に、真昼自身の匂いが確かに混ざっているのだ。
「すっごくいい匂い……」
「そう? 良かったわ」
「うん……もっと嗅ぎたい」
「ふふ、いいわ。好きなようにして」
 そんなことを言われたものだから、私は細い首筋に鼻を押し当てて、遠慮なく思いっきり深呼吸をした。
 彼女の匂いは鼻を突き抜けて、脳に直接届くような感覚がする。
 動物的な本能に働きかける、甘くて危険な香り。
 暴れだしそうになる本能を、かろうじて残っている理性で必死に抑え込む。
「好きにしてとは言ったけど……確かにこれ、恥ずかしいわね」
 後ろを振り返った真昼の頬には、さっと朱が差していた。
「そうでしょ? でも……やっぱり真昼、いい匂いする」
「みつはもいい匂いだったわ」
「香水つけるの、ハマっちゃいそうだね」
 私たちはくすくすと笑い合う。真昼の笑顔を見れるだけで、大げさでなく、ああ生きててよかったなって思える。
 なんだか、二人で秘密の悪い遊びをしているみたいな気分だった。
 でも、真昼と一緒だったらどんな遊びでも楽しめてしまう気がした。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

2021.09.05 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。