ゆかりと恭佳の夏休み。

綾川ふみや

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第7話

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「はい真冬ちゃん、あーん」
 市佳がそう促すと、鍋島さん――もとい、真冬ちゃんは小さな口を目一杯大きく開けた。その中に市佳が、息を吹きかけて冷ましたたこ焼きをつまようじで放り込む。
「……おいしい」
 むぐむぐと何度も咀嚼し飲み込んだあと、真冬ちゃんは素直な感想を一言。
 市佳と真冬ちゃんはさっきからずっとこんな調子だ。というより、二人は今日に限らず、ほぼ毎日こうしてべたべたとくっついている気がする。倦怠期とかないんだろうか。
 しかし、私たちとてあまり人のことは言えない。最近は毎日のように一緒に寝ているし、今日はこんな風に手なんか繋いで歩いちゃってるし。まあ、お祭りの日くらいは少し浮かれてたってばちは当たらないだろう。
 ゆかりはばっちりめかし込んできたようで、まずお召し物の品――つまりは値段が、文字通り桁違いだった。着物に関する審美眼など持ち合わせていないけれど、裏を返せば、そんな素人の私でも一目見て質の違いを感じられるような代物だった。
 縁日の雰囲気に合わせたのか、短めの黒髪に金色の簪をさしている。髪型が大きく変わった訳ではないのに、ワンポイントあるだけで印象がずいぶんと違う。元々顔立ちが綺麗なのは重々承知しているのだが、こうも完璧な晴れ姿を披露されてはただただ感心するほかない。
「……な、なに?」
「え、あ、ああ、ごめん」
 無意識のうちに、ゆかりの顔をまじまじと見つめてしまっていたらしい。私は慌てて弁明する。
「あまりにもゆかりの横顔が綺麗だったから、つい見惚れちゃって」
「も、もうっ、またそうやってからかってっ」
 ぷい、と子供のように拗ねた表情でそっぽを向いてしまうゆかり。今回は八割方本心で言ったんだけどな。普段からかい過ぎていると、肝心なときに大切な言葉が伝わらなくなるらしい。狼少年というやつだ。私の場合は、狼少女なのかもしれないけど。
 ゆかりと戯れている間に、市佳たちは人混みの間をすり抜けて別の屋台に行ってしまったようだ。ぱっと見回しても、二人の姿を確認することはできなかった。
 まあ、電話しようと思えばいつでもできることだし、しばらくは別行動でもいいかもしれない。
 相変わらずゆかりは顔を背けたままだったが、左手の指先はしっかりと私の右手に絡んでいる。こういう、ちょっと徹底しきれていないところがゆかりらしいな、と思わずにやけてしまった。
 参道近くの通りには、やきそば、射的、お面、金魚すくいなど、祭りの屋台としては定番どころがずらりと揃っていた。人出の多さに加えて道幅が狭いこともあり、屋台の通りは人がすれ違うのもやっとといった状況だ。
 そんな光景が続く中、あるお店の前だけ不自然にぽっかりと数人分の隙間が空いていた。心なしか、人の流れもその店を避けるような軌跡を描いている。
「……占い屋さん?」
 ゆかりもその様子が気になったらしく、店の看板を見てぽつりと呟いた。
「みたいだねえ」
 さっさと通り抜けようかとも思ったのだが、ゆかりが足を止めて中の様子を覗こうとするので私も後に続く。
 店の前には、複雑な幾何学模様が印された「いかにも」な感じの黒い垂れ幕が掛かっていた。と言っても、その幕が括り付けられているのは他の店と変わらない極々普通の白いテントなので、あまりありがたみは感じられない。
 私はさして占いに興味がある訳でもなかったが、ゆかりは新しいおもちゃを前にした子供のようにきらきらした瞳で私の顔を見つめてくる。……なんか、こういうの好きそうだもんな。
「そんなに入りたいなら、並ぼっか?」
「うんっ」
 声を弾ませるゆかりに腕をぐいぐい引っ張られ、入口の前へと強制連行される。まあ、ゆかりが楽しんでくれているのならなによりだ。
 黒の垂れ幕を手で払いつつ、いざ中へと突入した。
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