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第13話
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「メイド服着て侍女になって欲しいの」
「はあ?」
全く脈絡がなかったので、素っ頓狂な声を上げてしまう。なんなんだ急に。
「高くはないけど、お金は出る」
「はあ」
「じゃ、よろしくー」
「おーい、真冬ちゃーん」
用件を言い終えるとさっさと自分の部屋に戻ろうとしたので、慌てて引き留める。少しはこっちの事情というものも考えて欲しい。
「どしたの?」
「いやいや、どしたのも何も、全然意味分からないんだけど」
「あれー、ゆかりには言っておいたのに」
きょとん、と真冬ちゃんは小首を傾げる。その仕草は実に愛らしいが、話の理解には役立ちそうもない。
「え、ええ? もしかしてさっきの、宮廷の王女様がどうとかいう話?」
「うん、そう」
「御伽話とかじゃなかったんだ、あれ……」
宮廷? 王女様? あまりにも非日常的過ぎる言葉に、ゆかりが空想の話だと判断したのも頷ける。
「しょーがないなー、もっかい話すよ」
一旦ドアの方へと向けた身を翻し、私たちの方へと向き直った。
「んーと、私、実家の手伝いでたまに王女様の侍女をしてるんだけど」
「ストップ」
早速分からん。
「だから、王女様ってなんなの?」
「えー、そこから?」
「そりゃそうでしょうよ」
むしろ、今の説明で分かると思っている思考回路が分からない。
「そーだなあ、メイド喫茶なら分かる?」
「うん、まあそれなら一応」
「うちの実家がやってるのも、そんな感じのお店なの」
その言葉に、ゆかりは得心したような表情を浮かべた。
「……なるほど。つまり、お客さんが『王女様』で、店員さんはその人に仕える侍女、みたいなコンセプトなんだね」
「そーいうこと」
流石ゆかり、飲み込みが速い。
その説明でようやく事情は理解できたが、それにしても話が飛躍し過ぎではないだろうか。
「うーん、接客かあ……」
面倒事が嫌いな私は、早くも及び腰になってくる。変な客に絡まれたりしたら嫌だしなあ。
「じゃあ、ゆかりでもいいや」
「わ、私? む、無理無理! 人見知りだし、知らない人相手なんて……」
「むー」
全力で首を振るゆかりに、真冬ちゃんはぷくーっと頬を膨らませる。使えない面々で大変申し訳ないが、今回は諦めてもらうしかあるまい。
と、思っていると。
「ちなみに、これが仕事着の写真」
真冬ちゃんはどこからともなくタブレット端末を取り出し、一枚の画像を提示してくる。
そこに映し出されていたのは、ちょっと外を出歩くには勇気のいるこてこてのゴスロリ服を着た真冬ちゃんの姿。なんか見覚えがあるなと思ったら、この間ゆかりの家に行ったときに着ていた服だ。あれ、仕事着だったのか。
「う……お洋服はまあ、確かに可愛いけど……でも、私に似合うかな……」
「へーきへーき、ゆかりだったらなんでも似合うよ。それに……」
真冬ちゃんはゆかりの耳元に顔を寄せ、なにやらこしょこしょと碌でもなさそうなことを吹き込み始める。
直後、ゆかりは天からの啓示を受けたかのように目を見開き、それから私の方を一瞥する。その瞳はどことなく、頭の中のイメージを私の上に重ねているような感じだった。悪い予感しかしない。
「きょ、恭佳ちゃんっ」
く、来たな。
「な、なに?」
「私も手伝うから、真冬ちゃんちのお店で一緒に侍女になろう?」
ゆかりの顔が急に目前に迫ってきて、身動きが取れなくなる。瞳には期待に満ちた星がたくさん散りばめられていて、有無を言わさぬ迫力があった。
なんだか真冬ちゃんの手のひらで転がされている気分だが、こうなってしまってはもう降参するしかない。
「はあ……ま、ゆかりがそう言うなら、ちょっとだけ手伝ってみるよ」
「やったあ」
うーん、ゆかりは喜んでいるみたいだけど、自分も接客しなきゃいけないってこと、ちゃんと分かっているのだろうか。少し心配になってくる。
「それじゃ、早速母に連絡してみる」
しめしめ、といった感じの不適な笑みを浮かべながら、その場でお母さんと連絡を取り始める真冬ちゃん。ぽーっとしているように見えて、中身は案外策士なのかもしれない。
さてさて、一体どうなることやら。
***
「まあ、こんなかわいい子たちだったなんてびっくりだわ」
真冬ちゃんのお母さんは、子供のように屈託のない笑顔で出迎えてくれた。その表情はなるほど、真冬ちゃんに重なる部分が数多く見受けられる。よその家の親子とか親戚って、やたらと似ているように見えるものだ。
いや、それにしても……ちょっと、見た目が若過ぎないだろうか。真冬ちゃんを産んだからには、少なくとも三十代後半であるはずなのだが。二十歳くらいで時が止まってしまったんじゃないだろうか、と疑いたくなるくらい若々しい人だった。
それ以上に驚きなのが、店長である真冬ちゃん母その人が、自らこのお店の制服に袖を通していることだった。
前に真冬ちゃんが身にまとっていた、フリルのたくさん付いたかわいらしい白黒調のドレス。スカート部分には朱色で花柄の刺繍が施されていた。見る分にはいいけど、実際にこれを着るとなると結構勇気がいる。自分がこの制服を着て働いている姿をあまりうまく想像できなかった。
「そうねえ……まあ、まずは制服に着替えてもらおうかしら。お店の説明はあとでちゃんとするから。うふふ、どう? この制服かわいいでしょう。私がデザインしたの」
その場でくるりと一回転し、ちゃっかり決めポーズまで取る真冬ちゃん母。本当に全然年齢を感じさせない人だ。
「はいっ、とっても素敵ですっ……!」
ゆかりは手を胸の前で組み、瞳をきらきら輝かせながら答えた。随分張り切ってるなあ。
「よかった、気に入ってくれて。制服は倉庫部屋にあるから……そうね、真冬、案内してあげて」
「らじゃー」
指名された真冬ちゃんは、意気揚々と先頭に立って歩き出した。さながら、気分はメイド長といったところだろうか。
案内された先は、店先の小洒落た西洋風の趣とは無縁の、非常に雑然とした物置部屋だった。どことなく高校の部室を思い起こさせる。お客様の夢は、スタッフの現実によって支えられているという訳だ。
真冬ちゃんがクローゼットの扉を開けた途端、隣から感嘆の溜め息が漏れ聞こえてきた。
「わああ、これがさっきの制服かあっ……!」
ゆかりは棚の前まで駆け寄り、大きめのものと中くらいのものをそれぞれ一着ずつ手に取った。ここまではしゃいでいるゆかりというのも、なかなか珍しいかもしれない。
「恭佳ちゃんには、たぶんこのサイズが合うと思うんだけどっ」
「あ、ありがとう、ゆかり」
Uターンして目の前まで戻ってきたゆかりは、押しつけるように小さい方の制服を手渡してくる。なんでそんな、瞬時に私に合うサイズが判断できるんだ。まさか、私の私服や寝間着を毎日しげしげと観察している訳でもあるまいし。
「じゃあ、さっそく試着してみようか」
「う、うん、そうだね」
鬼気迫るようなゆかりの圧力に、私はたどたどしく返事をすることしかできない。
ところが、いざ荷物を置いて着替えるぞとなった段階で、ゆかりの動作がぴたりと止まってしまった。今日は色々と忙しそうだ。
シャツの袖に手を添えた姿勢で固まり、ちらちらと意味ありげな視線を何度もこちらに送ってくる。心なしか、頬がほんのりと桜色になっているようにも見えた。
仕方ないので、私はいかにもそういうことに無頓着な振りをして、自分の着替えにいそしみ始める。そうしないと、いつまでたってもお互い着替えられなくなりそうだった。
「うーん、やっぱり真冬ちゃん、肌きれー」
「えへへー、市佳もだよー」
背後からは、例の二人の甘々なピロートーク(?)が繰り広げられていた。まあ、市佳と真冬ちゃんは毎日のように一緒にお風呂に入っているとのことだから、お互いの肌を見るのにも慣れているのだろう。
そもそも、私とゆかりだって同じ部屋に住んでいる訳だから、互いの着替えくらい何度も見たことがある。先日だって一緒のプールに入ったばかりだし。あの時は別々のタイミングで着替えをしたから、相手の目の前で服を脱ぐことはなかったけど。
慣れない環境で馴染みのない服を着るという非日常感は、どうしても相手への意識を高めてしまうものなのかもしれなかった。
しばらく、四人分の衣擦れの音が部屋に響く。
一瞬だけ視界に入ってしまったゆかりの背骨のラインが、くっきりと脳内に焼き付いて離れない。
高々着替えくらいでこんなに意識してしまう自分が、なんだか無性に恥ずかしかった。
なるべく視線を目の前の制服にだけ集中させ、自分の着替えに専念する。
けれど、普通にやれば十秒くらいで止められそうなボタンが、何故か指先が定まらずなかなか止められない。一番上のボタンをなんとか締め終えて振り向くと、既に一同着替えを終えて待機していた。
「か、か、か……」
私の姿を認め、意味不明な呻きを発しているのはもちろんゆかり。その目つきはまさに、獲物を狙う猛禽類のそれだ。
「かわいいかわいい! 恭佳ちゃん、死ぬほどかわいいよっ……!」
「どわっ」
ゆかりは急に飛びかかってきて、私の全身を両腕でぎゅうっとくるむ。幾度となく味わった、安心感のある甘い芳香に包まれ、体に力が入らなくなってしまう。
「仲良しさんなのはいいけど、侍女として慎みある行動をとるよーに」
じとーっと真冬ちゃんが睨むと、流石に自らの行動を恥じたのか、素直にゆかりは私から身を離す。肌からすっと熱が逃げていく感覚を、すっかり寂しいと感じるようになってしまった。
その後、真冬ちゃんのお母さんから簡単な仕事内容の説明を受けた。基本はお客さんの対応をするホール係のようだが、問題は接客の仕方。まあ、こればかりは実際やってみないと、どんな感じか正直想像がつかない。
う、うん……まあ、なんとかなるだろう。たぶん。
「はあ?」
全く脈絡がなかったので、素っ頓狂な声を上げてしまう。なんなんだ急に。
「高くはないけど、お金は出る」
「はあ」
「じゃ、よろしくー」
「おーい、真冬ちゃーん」
用件を言い終えるとさっさと自分の部屋に戻ろうとしたので、慌てて引き留める。少しはこっちの事情というものも考えて欲しい。
「どしたの?」
「いやいや、どしたのも何も、全然意味分からないんだけど」
「あれー、ゆかりには言っておいたのに」
きょとん、と真冬ちゃんは小首を傾げる。その仕草は実に愛らしいが、話の理解には役立ちそうもない。
「え、ええ? もしかしてさっきの、宮廷の王女様がどうとかいう話?」
「うん、そう」
「御伽話とかじゃなかったんだ、あれ……」
宮廷? 王女様? あまりにも非日常的過ぎる言葉に、ゆかりが空想の話だと判断したのも頷ける。
「しょーがないなー、もっかい話すよ」
一旦ドアの方へと向けた身を翻し、私たちの方へと向き直った。
「んーと、私、実家の手伝いでたまに王女様の侍女をしてるんだけど」
「ストップ」
早速分からん。
「だから、王女様ってなんなの?」
「えー、そこから?」
「そりゃそうでしょうよ」
むしろ、今の説明で分かると思っている思考回路が分からない。
「そーだなあ、メイド喫茶なら分かる?」
「うん、まあそれなら一応」
「うちの実家がやってるのも、そんな感じのお店なの」
その言葉に、ゆかりは得心したような表情を浮かべた。
「……なるほど。つまり、お客さんが『王女様』で、店員さんはその人に仕える侍女、みたいなコンセプトなんだね」
「そーいうこと」
流石ゆかり、飲み込みが速い。
その説明でようやく事情は理解できたが、それにしても話が飛躍し過ぎではないだろうか。
「うーん、接客かあ……」
面倒事が嫌いな私は、早くも及び腰になってくる。変な客に絡まれたりしたら嫌だしなあ。
「じゃあ、ゆかりでもいいや」
「わ、私? む、無理無理! 人見知りだし、知らない人相手なんて……」
「むー」
全力で首を振るゆかりに、真冬ちゃんはぷくーっと頬を膨らませる。使えない面々で大変申し訳ないが、今回は諦めてもらうしかあるまい。
と、思っていると。
「ちなみに、これが仕事着の写真」
真冬ちゃんはどこからともなくタブレット端末を取り出し、一枚の画像を提示してくる。
そこに映し出されていたのは、ちょっと外を出歩くには勇気のいるこてこてのゴスロリ服を着た真冬ちゃんの姿。なんか見覚えがあるなと思ったら、この間ゆかりの家に行ったときに着ていた服だ。あれ、仕事着だったのか。
「う……お洋服はまあ、確かに可愛いけど……でも、私に似合うかな……」
「へーきへーき、ゆかりだったらなんでも似合うよ。それに……」
真冬ちゃんはゆかりの耳元に顔を寄せ、なにやらこしょこしょと碌でもなさそうなことを吹き込み始める。
直後、ゆかりは天からの啓示を受けたかのように目を見開き、それから私の方を一瞥する。その瞳はどことなく、頭の中のイメージを私の上に重ねているような感じだった。悪い予感しかしない。
「きょ、恭佳ちゃんっ」
く、来たな。
「な、なに?」
「私も手伝うから、真冬ちゃんちのお店で一緒に侍女になろう?」
ゆかりの顔が急に目前に迫ってきて、身動きが取れなくなる。瞳には期待に満ちた星がたくさん散りばめられていて、有無を言わさぬ迫力があった。
なんだか真冬ちゃんの手のひらで転がされている気分だが、こうなってしまってはもう降参するしかない。
「はあ……ま、ゆかりがそう言うなら、ちょっとだけ手伝ってみるよ」
「やったあ」
うーん、ゆかりは喜んでいるみたいだけど、自分も接客しなきゃいけないってこと、ちゃんと分かっているのだろうか。少し心配になってくる。
「それじゃ、早速母に連絡してみる」
しめしめ、といった感じの不適な笑みを浮かべながら、その場でお母さんと連絡を取り始める真冬ちゃん。ぽーっとしているように見えて、中身は案外策士なのかもしれない。
さてさて、一体どうなることやら。
***
「まあ、こんなかわいい子たちだったなんてびっくりだわ」
真冬ちゃんのお母さんは、子供のように屈託のない笑顔で出迎えてくれた。その表情はなるほど、真冬ちゃんに重なる部分が数多く見受けられる。よその家の親子とか親戚って、やたらと似ているように見えるものだ。
いや、それにしても……ちょっと、見た目が若過ぎないだろうか。真冬ちゃんを産んだからには、少なくとも三十代後半であるはずなのだが。二十歳くらいで時が止まってしまったんじゃないだろうか、と疑いたくなるくらい若々しい人だった。
それ以上に驚きなのが、店長である真冬ちゃん母その人が、自らこのお店の制服に袖を通していることだった。
前に真冬ちゃんが身にまとっていた、フリルのたくさん付いたかわいらしい白黒調のドレス。スカート部分には朱色で花柄の刺繍が施されていた。見る分にはいいけど、実際にこれを着るとなると結構勇気がいる。自分がこの制服を着て働いている姿をあまりうまく想像できなかった。
「そうねえ……まあ、まずは制服に着替えてもらおうかしら。お店の説明はあとでちゃんとするから。うふふ、どう? この制服かわいいでしょう。私がデザインしたの」
その場でくるりと一回転し、ちゃっかり決めポーズまで取る真冬ちゃん母。本当に全然年齢を感じさせない人だ。
「はいっ、とっても素敵ですっ……!」
ゆかりは手を胸の前で組み、瞳をきらきら輝かせながら答えた。随分張り切ってるなあ。
「よかった、気に入ってくれて。制服は倉庫部屋にあるから……そうね、真冬、案内してあげて」
「らじゃー」
指名された真冬ちゃんは、意気揚々と先頭に立って歩き出した。さながら、気分はメイド長といったところだろうか。
案内された先は、店先の小洒落た西洋風の趣とは無縁の、非常に雑然とした物置部屋だった。どことなく高校の部室を思い起こさせる。お客様の夢は、スタッフの現実によって支えられているという訳だ。
真冬ちゃんがクローゼットの扉を開けた途端、隣から感嘆の溜め息が漏れ聞こえてきた。
「わああ、これがさっきの制服かあっ……!」
ゆかりは棚の前まで駆け寄り、大きめのものと中くらいのものをそれぞれ一着ずつ手に取った。ここまではしゃいでいるゆかりというのも、なかなか珍しいかもしれない。
「恭佳ちゃんには、たぶんこのサイズが合うと思うんだけどっ」
「あ、ありがとう、ゆかり」
Uターンして目の前まで戻ってきたゆかりは、押しつけるように小さい方の制服を手渡してくる。なんでそんな、瞬時に私に合うサイズが判断できるんだ。まさか、私の私服や寝間着を毎日しげしげと観察している訳でもあるまいし。
「じゃあ、さっそく試着してみようか」
「う、うん、そうだね」
鬼気迫るようなゆかりの圧力に、私はたどたどしく返事をすることしかできない。
ところが、いざ荷物を置いて着替えるぞとなった段階で、ゆかりの動作がぴたりと止まってしまった。今日は色々と忙しそうだ。
シャツの袖に手を添えた姿勢で固まり、ちらちらと意味ありげな視線を何度もこちらに送ってくる。心なしか、頬がほんのりと桜色になっているようにも見えた。
仕方ないので、私はいかにもそういうことに無頓着な振りをして、自分の着替えにいそしみ始める。そうしないと、いつまでたってもお互い着替えられなくなりそうだった。
「うーん、やっぱり真冬ちゃん、肌きれー」
「えへへー、市佳もだよー」
背後からは、例の二人の甘々なピロートーク(?)が繰り広げられていた。まあ、市佳と真冬ちゃんは毎日のように一緒にお風呂に入っているとのことだから、お互いの肌を見るのにも慣れているのだろう。
そもそも、私とゆかりだって同じ部屋に住んでいる訳だから、互いの着替えくらい何度も見たことがある。先日だって一緒のプールに入ったばかりだし。あの時は別々のタイミングで着替えをしたから、相手の目の前で服を脱ぐことはなかったけど。
慣れない環境で馴染みのない服を着るという非日常感は、どうしても相手への意識を高めてしまうものなのかもしれなかった。
しばらく、四人分の衣擦れの音が部屋に響く。
一瞬だけ視界に入ってしまったゆかりの背骨のラインが、くっきりと脳内に焼き付いて離れない。
高々着替えくらいでこんなに意識してしまう自分が、なんだか無性に恥ずかしかった。
なるべく視線を目の前の制服にだけ集中させ、自分の着替えに専念する。
けれど、普通にやれば十秒くらいで止められそうなボタンが、何故か指先が定まらずなかなか止められない。一番上のボタンをなんとか締め終えて振り向くと、既に一同着替えを終えて待機していた。
「か、か、か……」
私の姿を認め、意味不明な呻きを発しているのはもちろんゆかり。その目つきはまさに、獲物を狙う猛禽類のそれだ。
「かわいいかわいい! 恭佳ちゃん、死ぬほどかわいいよっ……!」
「どわっ」
ゆかりは急に飛びかかってきて、私の全身を両腕でぎゅうっとくるむ。幾度となく味わった、安心感のある甘い芳香に包まれ、体に力が入らなくなってしまう。
「仲良しさんなのはいいけど、侍女として慎みある行動をとるよーに」
じとーっと真冬ちゃんが睨むと、流石に自らの行動を恥じたのか、素直にゆかりは私から身を離す。肌からすっと熱が逃げていく感覚を、すっかり寂しいと感じるようになってしまった。
その後、真冬ちゃんのお母さんから簡単な仕事内容の説明を受けた。基本はお客さんの対応をするホール係のようだが、問題は接客の仕方。まあ、こればかりは実際やってみないと、どんな感じか正直想像がつかない。
う、うん……まあ、なんとかなるだろう。たぶん。
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