彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

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夏休み 4

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 家のすぐ隣に建っている作業場の中では、すでにスイカをみがく機械の音がグオングオンと鳴り響いていた。 

 父さんと一緒に、俺としょうは、収穫してきたばかりのスイカをトラックから降ろす作業に取り掛かる。 
 俺がトラックの荷台から手渡した大きなスイカを勝が機械の入口に1つずつゆっくりと吸い込ませていく。 
 ピカピカにみがきこまれたスイカが機械の出口からゴロンゴロンと吐き出され、それを父さんがサイズや品質別に分け、作業場の中に整列させていった。 

 光弘みつひろ都古みやこも、それぞれスイカを手渡したり、シールを貼ったりとすぐに手伝いに入ってくれた。 
 軽トラック2台分に山とつみあげられていたスイカが、あっという間に磨き終わっていく。 

 最後にズドンと出てきた15キロ以上ある巨大なスイカをならべ終えると、父さんは手ごろなスイカをひとつ選び、ザクザク切り分けた。

「いつもありがとな。これ食って休んでくれ。俺、ちょっくら飯食ってくるわ。」

 笑顔で礼を言ってから、父さんは家の中に入っていった。 

 今年のスイカの出荷が始まって以来、遊びの合間に手伝いをするのは、俺たち4人の日課になっていた。 

 はじめのうちは、 
 「子供たちにそんなことをさせるわけにはいかない。真也と遊んでやってもらってるだけでありがたいのだから。」 
 と、かたくなに断っていた俺の両親だったが、勝の両親から 
 「スイカの出荷なんて貴重な体験、そうそうできるものじゃない。邪魔にならないのであれば、ぜひとも手伝わせてやってほしい。」 
 そう満面の笑みで頼まれ、ありがたく手伝いをお願いすることにしたのだった。 
 そして、そんな話を聞いた都古と光弘が黙っているわけもなく、 
 「自分たちもダメか?」 
 と、切なげな表情で言い募ってきた2人ももれなく加わることとなり、現在にいたるのである。  

 スイカを食べ終えた俺たちは、今度は箱詰めにとりかかった。 
 手伝いを始めて1カ月以上ともなれば、みんなさすがに慣れたものだ。 
 都古と勝が包丁でひとつひとつ丁寧にスイカのツルを切り落とし、手先の器用な光弘は箱を作り、俺はスイカの最終チェックをして箱に詰めていく。 

 都古と勝は手を動かしながら、今度行われる剣道の試合で次に勝つのは自分だとかなんだとか言って盛り上がっている。 
 そんな2人のやり取りを横目に、俺は何気ない風を装いながら光弘に問いかけた。 

 「そういや、光弘。今朝見た嫌な夢ってどんなだったんだ?」 

 光弘は、ギクリと動きをとめた。 

 「・・・悪い。覚えてないんだ。」 

 一瞬のぎこちなさの後、光弘は普段通りの様子で答えた。 

 「そっか。ならいいんだ。」 

 やはり聞かれたくないことなのだ。 
 そう考え、それ以上追及せずにきびすをかえそうとした俺の目に、震えている光弘の手が飛び込んできた。 
 俺は思わずその手を強くつかんでしまった。 

 光弘の手の、氷のような冷たさに胸が騒ぐ。 
 光弘は驚き目を見開いたが、すぐに笑顔で首をかしげてきた。 
 光弘の作られた笑顔から「これ以上何も聞かないでくれ。」と強く拒絶されていることが伝わってきて・・・・・。 
 俺は、つかんでいた手をゆっくりと離した。 

 「悪い・・・・・。」 

 「・・・・・。」 

 光弘は、貼り付けた笑顔を崩さないまま再び作業を始めた。 

 俺は光弘の紙のように白い横顔から、そっと視線をはずした。 
 何もできない自分の無力さに奥歯を強くかみしめる。 
 光弘は、苦しい時や辛い時、今のように無理矢理笑顔を作ろうとするのだ。 
 時折見せる光弘の本当の笑顔を知ってしまった今では、偽りのものだということがはっきりと分かる。 
 俺は、光弘にこんな笑顔をさせたくはない。
 追い詰めたくなんかないんだ。 

 今朝、遅れてやってきた光弘の目元が、うっすら赤く染まっていることに気づいていたのは、俺だけじゃない。 
 勝と都古も気づいているに違いなかった。 
 その証拠に、ついさっきまでふざけていた勝は、ごまかしているつもりなのか、調子っぱずれの歌を歌いながらちらちらと様子をうかがっているし、都古もこちらを心配そうに見ている。 

 光弘は、俺たちに話すことができない『なにか』を抱え続けているのだ。 

 俺は、光弘のことが気がかりでたまらなかった。 
 だが、だからこそ俺は何もできないのだ。 
 もし光弘の心を無理矢理こじあけ、土足で踏み込むような真似をすれば、光弘はきっと、手の届かない所へ行ってしまう。 
 そんな漠然とした恐怖が、俺を縛り付けていた。 

 「みんな、ちょっといいか。」 

 その時、唐突にかけられた都古の呼びかけに、俺たちは手を止めて顔を上げた。 
 都古の張りつめた様子に、ブーブーとうなり声をあげる扇風機の音までもが、緊張して震えているかのように聴こえる。 
 
「今日、3人とも・・・・・私の家に来ないか。」 

 都古は震える声で、だがしかしはっきりと言った。 

「え・・・?」 

 俺は驚きのあまり思わず声を上げてしまった。 
 自分の家に友達を誘う・・・たったそれだけのことで、なぜ都古がこれほどまでに張りつめた表情をしているのか。
 俺には思い当たることがあったからだ。 

 「なんだってんだぁ?やぶから棒によー。」 

 勝は、汗で重くなったTシャツのすそをパタパタと手ではためかせながら、都古に怪訝けげんな表情を向けている。 

 「大丈夫なのか?急に行っても。」 

 都古のただならぬ様子に戸惑いを見せながら、光弘がたずねる。 

 「大丈夫だ。みんなが来るかもしれないと伝えてある。」 

 都古の返事に、俺たちはお互い目くばせをするとうなずいた。 

 「それじゃ、今日は予定変更して、都古のお宅訪問だな!」 

 俺は親指を立てて明るく答えたが、その胸中は穏やかではなかった。 

 都古。いいのか?本当に・・・俺たちを家に連れていって。 

 俺は、のど まで出かかった疑問の言葉を無理矢理飲み込んだ。 
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