彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

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リコ

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  都古みやこの後について歩きながら、俺は小学校1年生の頃にあった出来事を思い出していた。 

 入学して最初の、まだ俺としょうと都古が知り合って間もないころに行われた授業参観でのことだ。 
 その時、教室でひときわ存在感を放ち注目を浴びていたのは、児童の誰かでも担任の先生でもなく、『都古の父』その人だった。 

 「すみません。ちょっと失礼します。」 

 そう言いながら、他の保護者をかきわけ、教室の奥へと入っていった一人の男の姿に、教室の中がどよめいた。 

 一体何が起きたんだ? 
 振り向いた俺は、窓辺で都古と視線を交わし小首をかしげ微笑んでいる一人の人物にくぎ付けになった。 

 こんな父親、反則だろう・・・・・。 

 すらりとした長身に長い手足。 
 抜けるように白くきめの細かい肌に、整った顔立ち。 
 涼やかな立ち居振る舞いと、都古と話す優しさに満ちた深く柔らかく響く声に、その場にいる誰もが魅了され夢見心地になっていた。 
 窓から射す日の光のせいか、都古の父の周りだけ空気が澄んで輝いているようにすら見える。 
 保護者から『ベテランで落ち着いてる』と好評の担任が、授業を始めるのを忘れて、見とれてしまっていたくらいだ。 

 授業参観が終わり数日たっても、まだ都古の父はクラスの話のまとだった。 
  中でも、当時からかわいいと学校中の評判だった宮下リコは、特に都古の父にご執心だった。 
 あの手この手を使ってあっという間に都古との距離を近づけると、「家に遊びに行かせてくれ」と毎日せがみ始めるようになったのだ。 

 そしてついに、夏休みの前日。 
 「休みの間に都古の家に遊びに行けることになった」と、リコが教室で嬉しそうに話しているのを耳にしたのだが・・・・・。 

 夏休みが明けてみると、リコはなにも覚えてなかった。 
 あれほど執着していた都古の父のことを何一つとして覚えていなかったのである。 
 そればかりか、都古のことまでまとめて全部きれいさっぱり忘れていた。 

 都古は都古で、ただ表情を暗くするばかりで、とても話を聞き出せる雰囲気ではない。 
 俺は、都古へのイジメでも始まったのかと警戒した。 
 だが、リコの取り巻き連中が「都古の家に行くと、リコちゃんみたくキオクソウシツになるよ」と言いふらしていたのを見る限り、信じがたいことだが、本当にリコは、都古や都古の父のことをすっかり忘れてしまったようなのだ。 

 その後都古の父が学校に来るようなことは一度もなかったため、この妙な噂もすぐに忘れ去られていった。 

 俺、都古、勝の3人は、まるでそうなることが自然なことであるかのようにどんどん仲良くなっていったが、そんな俺たちにでさえ、都古は家のことをほとんど口にした事がなかったし、俺たちを家に呼ぶようなことも、今までは一度もなかったのだ。 
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