71 / 324
光弘の物語>葛藤 3
しおりを挟む
都古に案内されてやってきたこの見知らぬ世界で、不思議な出来事に心をゆさぶられながらも、俺は不思議に思っていた。
都古はなぜ突然ここへ俺たちを招いたりしたのだろう。
都古の目的が何なのか分からず、俺は戸惑いを覚えた。
だがそれでも、今朝出した答えが変わることはない。
悪夢の中の青年を解放し、真也たちを巻き込まないようにするには、俺が悪夢を受け入れ、誰にも近寄らなければいい。
迷うことは何もなかった。
それなのに、そんな俺の心をこの世界は妖しく揺らし始めた。
水端の門をくぐり、雪みたいな白い階段を滑るように移りながら、俺は姉さんのことを思い出していた。
俺はどうしようもなく高いところが苦手だ。
姉さんはそんな俺でも楽しめるような場所を探し、色々な所へ連れ出してくれた。
中でも特に、あるテーマパークの暗がりを走るジェットコースターは、俺のお気に入りになった。
真っ白な眩しい世界の中で、なぜかその時の高揚とした気持ちが鮮明に湧きあがってくる。
水端をくぐり、次に訪れた命逢という世界。
柔らかに色づくこの世界は、俺に大きな動揺を与えた。
都古の手に乗る小さな生き物から、なぜか目が離せない・・・・・。
鎖骨に刻まれた印が・・・・・熱い。
独りになることを決めた俺にとって、この出会いは残酷なものでしかなかった。
かといって、放っておくことなどできるはずがない。
白妙から渡された綿に液体を含ませ、俺は癒と呼ばれている小さな生き物の傷口に静かに当てた。
その瞬間立ち上った白い煙と、こわばった癒の身体に驚いた俺は、思わず声を上げてしまった。
「痛むのか!?」
俺が言葉を口にした途端、鎖骨の印が熱くうずいた。
癒が俺と一緒にいたいと強く願っていることが印を通して流れ込んできた。
哀しい想いが一気に膨れ上がり、俺の胸の中をふさいでいく。
きっと、俺の声が持つ忌まわしい力が、癒の心を惑わせてしまっているのだ。
「異界で生きる者の中に、まれにだが、契約を交わし主従関係を築く者がいる。己の主を守り抜いて一生を添い遂げる道を選ぶ者だ。癒が君の元へ行こうとするのは、その契約を望んでのことだろう。」
久遠の話に耳を傾けていた俺は、その言葉を聞いた途端、心の中が凍てついていくのを感じた。
「それは・・・・・・こいつを俺に縛り付け、死ぬまで俺のことを守らせる。そういうことですか。」
俺は久遠に問いかけた。
この能力が、癒の全てを俺に縛りつけてしまう。
俺は自分を許せなかった。
だが、久遠に代わって俺に向けられた白妙の言葉に、俺は自分が間違えていることを思い知らされた。
「一つ。神妖との主従契約・・・・・これは、我ら神妖から請われた者のみが可能とすることだ。人が我らに求めて叶うというものではない。二つ。この命逢は、強固な力によって護られている、ここにいる神妖が他世界からの干渉を受け洗脳される心配はない。・・・・・お前ならば、これが何を意味するか分かるだろう。」
白妙が何を言いたいのか、俺にははっきりと分かった。
ここで暮らしている癒は、俺の能力を含め、誰かによる洗脳などの影響は一切受けていないと言っているのだ。
誰の干渉も受けていない、癒だけの強く一途な願いなんだ・・・・・。
「癒の願いを聞き届けるか否か、その選択権はお前にのみある。他の者がかかわれる問題ではない。ただ一つ、私の名に誓って言う。主を定め契約を乞う時、我ら神妖はその者に魂をかけて尽くすことを狂おしいほど強く望んでいるのだ。それだけは忘れてくれるな。」
白妙の言葉は聴いていて苦しくなるほど、切なさに満ちていた。
だが・・・・・あの悪夢は癒を見逃したりはしないだろう。
俺が近づけば、きっと癒を傷つけることになってしまう。
どうしてよいか分からず、俺は癒を抱きしめたまま白妙を見つめた。
そんな俺を更に惑わせることが起きた。
いつの間にか、俺たちの左手首に、文字のような絵のような不思議な空色の文字が描かれていたのだ。
俺は息をするのも忘れ、目を見開いて固まった。
見れば、都古まで俺と同様に驚いている。
都古にとってもこれは予想外のできごとだったようだ。
俺に刻印されていた呪いの印とは違い、祓と呼ばれるこの印は、俺に小さな希望を与えてくれた。
彼呼迷軌の力を借りて使うこの刻印は何かを俺に縛り付けてしまうことはなかった。
しかもこの力は俺が言葉を口にしなくても、頭に思い描いた時点で能力を発動出来そうだった。
しばらく乗っていなかった自転車に久しぶりに乗ったような懐かしい感覚が全身に染み渡るように伝わってくる。
祓を夢の中で使うことができたなら、例え誰かが悪夢に囚われても逃すことができるのに・・・・・・。
守ることができるのに・・・・・。
そんなことを考えながら、癒を肩に乗せ祓で移動した俺は、真也の姿に目を止め、不確かな希望にすがろうとした自分を笑った。
今は考えるのを止めよう。
ありのままの自分で、思いのままに全てのものと向き合っていたい。
独りにかえるその時まで・・・・・・。
周りをぐるぐる走り回る勝と都古の姿を目で追っていた俺は、言霊を使わずに祓で移動してみた。
イメージさえしっかりしていれば、やはり言霊を使わずに移動できるんだ。
川の水をすくい上げ、真也の真後ろへ再び移動した俺は、恐る恐る振り返った真也の顔へ、手を水鉄砲にして思い切り水をかけた。
真也は今までにみせたことのない表情をして驚いている。
そんな真也と水をかけ合いながら、俺はどうしようもないくらい嬉しくて、楽しくて・・・・・それと同じくらい寂しかった。
都古はなぜ突然ここへ俺たちを招いたりしたのだろう。
都古の目的が何なのか分からず、俺は戸惑いを覚えた。
だがそれでも、今朝出した答えが変わることはない。
悪夢の中の青年を解放し、真也たちを巻き込まないようにするには、俺が悪夢を受け入れ、誰にも近寄らなければいい。
迷うことは何もなかった。
それなのに、そんな俺の心をこの世界は妖しく揺らし始めた。
水端の門をくぐり、雪みたいな白い階段を滑るように移りながら、俺は姉さんのことを思い出していた。
俺はどうしようもなく高いところが苦手だ。
姉さんはそんな俺でも楽しめるような場所を探し、色々な所へ連れ出してくれた。
中でも特に、あるテーマパークの暗がりを走るジェットコースターは、俺のお気に入りになった。
真っ白な眩しい世界の中で、なぜかその時の高揚とした気持ちが鮮明に湧きあがってくる。
水端をくぐり、次に訪れた命逢という世界。
柔らかに色づくこの世界は、俺に大きな動揺を与えた。
都古の手に乗る小さな生き物から、なぜか目が離せない・・・・・。
鎖骨に刻まれた印が・・・・・熱い。
独りになることを決めた俺にとって、この出会いは残酷なものでしかなかった。
かといって、放っておくことなどできるはずがない。
白妙から渡された綿に液体を含ませ、俺は癒と呼ばれている小さな生き物の傷口に静かに当てた。
その瞬間立ち上った白い煙と、こわばった癒の身体に驚いた俺は、思わず声を上げてしまった。
「痛むのか!?」
俺が言葉を口にした途端、鎖骨の印が熱くうずいた。
癒が俺と一緒にいたいと強く願っていることが印を通して流れ込んできた。
哀しい想いが一気に膨れ上がり、俺の胸の中をふさいでいく。
きっと、俺の声が持つ忌まわしい力が、癒の心を惑わせてしまっているのだ。
「異界で生きる者の中に、まれにだが、契約を交わし主従関係を築く者がいる。己の主を守り抜いて一生を添い遂げる道を選ぶ者だ。癒が君の元へ行こうとするのは、その契約を望んでのことだろう。」
久遠の話に耳を傾けていた俺は、その言葉を聞いた途端、心の中が凍てついていくのを感じた。
「それは・・・・・・こいつを俺に縛り付け、死ぬまで俺のことを守らせる。そういうことですか。」
俺は久遠に問いかけた。
この能力が、癒の全てを俺に縛りつけてしまう。
俺は自分を許せなかった。
だが、久遠に代わって俺に向けられた白妙の言葉に、俺は自分が間違えていることを思い知らされた。
「一つ。神妖との主従契約・・・・・これは、我ら神妖から請われた者のみが可能とすることだ。人が我らに求めて叶うというものではない。二つ。この命逢は、強固な力によって護られている、ここにいる神妖が他世界からの干渉を受け洗脳される心配はない。・・・・・お前ならば、これが何を意味するか分かるだろう。」
白妙が何を言いたいのか、俺にははっきりと分かった。
ここで暮らしている癒は、俺の能力を含め、誰かによる洗脳などの影響は一切受けていないと言っているのだ。
誰の干渉も受けていない、癒だけの強く一途な願いなんだ・・・・・。
「癒の願いを聞き届けるか否か、その選択権はお前にのみある。他の者がかかわれる問題ではない。ただ一つ、私の名に誓って言う。主を定め契約を乞う時、我ら神妖はその者に魂をかけて尽くすことを狂おしいほど強く望んでいるのだ。それだけは忘れてくれるな。」
白妙の言葉は聴いていて苦しくなるほど、切なさに満ちていた。
だが・・・・・あの悪夢は癒を見逃したりはしないだろう。
俺が近づけば、きっと癒を傷つけることになってしまう。
どうしてよいか分からず、俺は癒を抱きしめたまま白妙を見つめた。
そんな俺を更に惑わせることが起きた。
いつの間にか、俺たちの左手首に、文字のような絵のような不思議な空色の文字が描かれていたのだ。
俺は息をするのも忘れ、目を見開いて固まった。
見れば、都古まで俺と同様に驚いている。
都古にとってもこれは予想外のできごとだったようだ。
俺に刻印されていた呪いの印とは違い、祓と呼ばれるこの印は、俺に小さな希望を与えてくれた。
彼呼迷軌の力を借りて使うこの刻印は何かを俺に縛り付けてしまうことはなかった。
しかもこの力は俺が言葉を口にしなくても、頭に思い描いた時点で能力を発動出来そうだった。
しばらく乗っていなかった自転車に久しぶりに乗ったような懐かしい感覚が全身に染み渡るように伝わってくる。
祓を夢の中で使うことができたなら、例え誰かが悪夢に囚われても逃すことができるのに・・・・・・。
守ることができるのに・・・・・。
そんなことを考えながら、癒を肩に乗せ祓で移動した俺は、真也の姿に目を止め、不確かな希望にすがろうとした自分を笑った。
今は考えるのを止めよう。
ありのままの自分で、思いのままに全てのものと向き合っていたい。
独りにかえるその時まで・・・・・・。
周りをぐるぐる走り回る勝と都古の姿を目で追っていた俺は、言霊を使わずに祓で移動してみた。
イメージさえしっかりしていれば、やはり言霊を使わずに移動できるんだ。
川の水をすくい上げ、真也の真後ろへ再び移動した俺は、恐る恐る振り返った真也の顔へ、手を水鉄砲にして思い切り水をかけた。
真也は今までにみせたことのない表情をして驚いている。
そんな真也と水をかけ合いながら、俺はどうしようもないくらい嬉しくて、楽しくて・・・・・それと同じくらい寂しかった。
0
あなたにおすすめの小説
王都一番の魔導修理屋
あめとおと
ファンタジー
魔法と魔導具が当たり前の世界。
だが、それらを扱えるのはほとんどが貴族だけだった。
王都の片隅で暮らす平民の青年 リクト は、魔力量が少なく魔法もろくに使えない。
そのせいで魔導学院を落第し、いまは貧乏な魔導具店の雑用係。
だがリクトには、誰も気づいていない才能があった。
それは――
「魔導具の構造が、なぜか全部わかる」
壊れた魔導具を直し、
効率を上げ、
誰も作れなかった道具を作る。
やがてその技術は、王都の貴族社会や魔導師団を巻き込み、
世界の魔導理論さえ揺るがしていく。
これは――
魔法が使えない平民が、魔導の常識を塗り替える物語。
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
最終回まで予約投稿済みです。
毎日8時・20時に更新予定です。
『まて』をやめました【完結】
かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。
朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。
時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの?
超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌!
恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。
貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。
だから、もう縋って来ないでね。
本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます
※小説になろうさんにも、別名で載せています
完 弱虫のたたかい方 (番外編更新済み!!)
水鳥楓椛
恋愛
「お姉様、コレちょーだい」
無邪気な笑顔でオネガイする天使の皮を被った義妹のラテに、大好きなお人形も、ぬいぐるみも、おもちゃも、ドレスも、アクセサリーも、何もかもを譲って来た。
ラテの後ろでモカのことを蛇のような視線で睨みつける継母カプチーノの手前、譲らないなんていう選択肢なんて存在しなかった。
だからこそ、モカは今日も微笑んだ言う。
「———えぇ、いいわよ」
たとえ彼女が持っているものが愛しの婚約者であったとしても———、
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
断罪予定の悪役令嬢ですが、王都でカフェを開いたら婚約者の王太子が常連になりました
由香
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生していることに気付く。
このままでは一年後の夜会で婚約破棄され、断罪された上で国外追放されてしまう運命だ。
「――だったら、その前に稼げばいいわ!」
前世の記憶を頼りに、王都の裏通りで小さなカフェを開くことにしたエリザベート。
コーヒーやケーキは評判となり、店は少しずつ人気店へと成長していく。
そんなある日、店に一人の青年が現れる。
落ち着いた雰囲気のその客は、毎日のように通う常連になった。
しかし彼の正体は――なんと婚約者である王太子レオンハルトだった!?
破滅回避のために始めたカフェ経営が、やがて運命を変えていく。
これは、悪役令嬢が小さなカフェから幸せを掴む
ほのぼのカフェ経営×溺愛ロマンスストーリー。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる