彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

文字の大きさ
148 / 324

龍粋を継ぐ者 1

しおりを挟む
 「白妙・・・・。君に、見て欲しい物がある。」

 宵闇の傍を離れようとしない白妙の元へ神妖の長が訪れたのは、あの日からひと月が経ったころだった。

 半分魂が抜け落ちたような、儚げな瞳で見返してきた白妙の手を取り、長は彼女の心へ直接、その情景を見せた。

 「長・・・・・これは。」
 「龍粋りゅうすいを継ぐ者だよ。彼は今、自らの後継となる者を、育てているんだ。」

 白妙の心に流れ込んできたのは、龍粋が幼い子供に熱心に書を教えている情景だった。
 ひんやりとした含みをもって紡がれた、長のその言葉に、白妙はハッとして目を見開いた。

 「やはり、君は聡い子だね。・・・・分かったのだろう。このことが、一体何を意味しているのかを。」
 「まさか・・・・・・。」

 まるで殴られたかのような衝撃を伴って伝えられた事実に、白妙は混乱し、ひどく眩暈めまいがをおぼえた。

 神妖は、ある程度まで成長すると、そこから先は年齢を止めていられる。
 中には、あえて年齢を縛らず天寿を作り全うする変わった者もあるが、大概の神妖は、老いによる最期をもたない。

 妖月である自分たちも例外ではなく、むしろ界の位の神妖より力が上の者ともなれば、まずなにかに襲われて死ぬということはないため、各々の後を継ぐ者をあえて育てる者は少なかった。

 龍粋に至っては、歴代の神妖のうち最強とも呼ばれているほどの強さをもっている、ほとんど不老不死といっても差支えのない存在だ。
 継ぐ者を育てる必要など、全くないはずだった。

 その龍粋が、自分たちにも伝えることなく、密に継ぐ者を育てているという事実は、たった一つの受け入れがたい答えを、白妙の頭を殴りつけるような衝撃を伴って、乱暴に突きつけてきた。

 「龍粋が・・・・死ぬというのですか?」

 白妙の最後の方の声は、冷たくかすれ、震えていた。

 「榊の占いが示す未来の内の一つだ。違えることはない。・・・・・それでもあきらめきれず、龍粋は独り抗い続けている。お前たち2人のいる未来に、自らも共にありたいと・・・・・。」

 「先日の龍粋の暴走は・・・・・」

 「君の考えている通りで間違いないよ。龍粋は、術の最中に迷いに喰われてしまった。たとえ意思のない生命体へ変容したとしても、生きて共に未来へ進めるなら、と・・・・龍粋は、思わず願ってしまったのだ・・・・・。」

 ・・・・・龍粋は、自分に残された未来が残りわずかである事を知っている。

 彼が、「宵闇や白妙と共にあれるならば、どんな姿になっても構わないと」・・・・願ってしまった結果が、先日の龍粋の暴走だったのだ。

 白妙は、宵闇を道づれに、暴走する龍粋と運命を共にすることを選んだ。

 宵闇は、白妙を生かし、自らが代わりに龍粋と共に逝くことを選んだのだ。

 「長・・・・・しばらくの間。宵闇を頼みます。」

 白妙は、変わらず静かに寝息を立て続けている宵闇の美しい顔を、見ている者の胸をしめつけるような切ない表情で見つめた。

 離れることが耐えがたいというように、愛おしそうに宵闇の滑らかな頬を数度撫でると、白妙は部屋を後にした。

 部屋を出ると、扉のすぐ向こう側で、仮面の子供が静かにたたずんでいた。
 
 白妙が笑顔を向けると、仮面の子供は潤んだ瞳で見つめ返してきた。

 「すまない。お前にも心配をかけてしまったね。・・・・少し出かけてくるから、宵闇を頼むよ。・・・・どうか奴の近くに、いてやっておくれ。」

 そう言って白妙が頭をなでると、仮面の子供は真面目な顔で深くうなずいた。

 「僕。宵闇のそばにいるよ。・・・・なるべく早く帰ってあげて。宵闇は、白妙が一番なんだ。」

 仮面の子供の言葉に、白妙は少し驚いて目を開いたが、苦い笑みを浮かべると、何も言わずその場を後にした。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

天使と狼

トウリン
恋愛
女癖の悪さに定評のある小児科医岩崎一美《いわさき かずよし》が勤める病棟に、ある日新人看護師、小宮山萌《こみやま もえ》がやってきた。肉食系医師と小動物系新米看護師。年齢も、生き方も、経験も、何もかもが違う。 そんな、交わるどころか永久に近寄ることすらないと思われた二人の距離は、次第に変化していき……。 傲慢な男は牙を抜かれ、孤独な娘は温かな住処を見つける。 そんな、物語。 三部作になっています。

【本編完結】契約結婚の後は冒険譚を綴ります

しろやなぎ
ファンタジー
本編完結しました。その後にあたる新章を始めます。 ++++++++++++++++++++++++ 幼い頃に母を亡くした伯爵令息のラファエル。父は仕事の為に外国へ。ひとり残されたラファエルは継母と義弟に虐げられながら育つ。 そんなラファエルはこの国の子供たちが受ける13歳の洗礼の際『魔力量は非常に豊富だが、一切の属性を持っていなかった残念な令息』と診断される。 ラファエルが18歳になった年、臣籍降下した王弟との婚姻を求める書状が届き、断れないまま嫁ぐが、そこで待っていたのは契約結婚だと説明する公爵、コルネリウスだった。 正義感の強い彼は、ラファエルがしていない罪を償わせようとする。一方のラファエルは契約結婚の後を夢みて、新たな生活を始める。 新しい生活では、ラファエルを献身的に使えてくれる侍女のノーラ、コルネリウスが付けた監視役のライアン、遠くからラファエルを気遣う魔道師団副団長のクリストフに支えられて、ラファエルは精霊魔法使いの冒険者を目指して成長していく。 ※表紙の画像はETMで作成しました。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...