157 / 324
宵闇の告白
しおりを挟む
龍水の暴走を止めた宵闇が、長い眠りから目覚めた時・・・・・。
『白妙は龍粋の元にいる』・・・・たったそれだけの事実が、猛烈な哀しみと嫉妬で宵闇の身の内をたぎらせ、激流となって瞬く間に彼の心を支配した。
視界を真っ赤に染め上げられ、頭の芯が揺らぎ足元が浮ついて、自分が何者かすらわからないようになってくると、宵闇の意識は抗えない強烈な力に連れ去られ、闇の底へと沈みこんでいった。
ようやく意識を取り戻した時・・・・。
宵闇は妖鬼の群れの中で、空気を切り裂くようなけたたましい笛の音を、白妙に向けて吹き鳴らしていた。
この不吉な笛の音は、神妖の精神を狂わせ、力を奪う。
そのことに気づいた宵闇の全身は、耐えがたい恐怖に凍えた。
意識を失い崩れ落ちていく白妙が目に移り、その細い身体をとっさに腕の中へ抱き止めると、彼女の口元がわずかに動いた。
「宵・・・闇。」
白妙が自分の名を呼ぶ切ないその声に、宵闇の心は引き裂かれるように激しく痛んだ。
自分を取り巻いていた妖鬼の群れが、白妙を狙い襲い掛かってくる。
宵闇は白妙を片腕にしっかり抱いたまま、空いている方の手で印を汲んだ。
宵闇の影から無数の闇色の帯が雷光のごとく飛び出し、先陣を切って躍り出た集団を瞬きの間に切り刻む。
優雅に舞い踊る闇色の帯に恐れをなした妖鬼たちが足を止めると、今度はその足元の影が不気味にうごめき、粘りをもった黒い液体が包み込むように彼らをからめとった。
恐怖におののく妖鬼たちの絶叫は、一瞬のうちにかき消され、身体とともに闇にのまれる。
沈黙の後に吐き出されたのは、魂を失った妖鬼たちの屍だった。
宵闇は強力な力で、彼女を狙い襲い掛かってくる妖鬼の全てを、ことごとく祓いながら、何よりも大切な温もりを二度と話したくないと言うように、きつく胸に抱き続けていた。
だが、瞬く間に邪悪を消し去った宵闇を待ち構えていたのは、一筋の光すら射さない絶望だった。
無数に転がる神妖たちの亡骸には、一切の抵抗のあとが見られなかったのだ。
恐らく、身動きが取れず戦うことすら許されないままに一方的に蹂躙され、目を引き抜かれ、殺されていった・・・・。
結界は破られ、龍粋の気配はどこにも感じることができない・・・・つまり彼は、もう・・・・。
・・・・俺の笛の音が、神妖界の結界を壊し、神妖たちの命を奪い・・・龍粋を・・・・殺したっていうのか・・・・・。
あまりにも重すぎる非情な現実に、宵闇は打ちのめされた。
もう、二度と・・・・・白妙の元へは戻れない。
こんなことをした自分が、戻っていいはずがない。
俺は白妙に、触れるべきじゃなかった・・・・。
眼前に広がる無残な情景に絶望を確かめさせられながら、宵闇は数刻もの間、意識のない白妙を腕に抱き、彼女を狙う妖鬼を滅ぼし続けた。
周囲から妖鬼の存在を消し尽くすと、宵闇は白妙の温もりと彼女の存在を確かめるように、力を失って重くなったその身体を、凍える身体で強く抱きしめた。
白妙の首筋に顔をうずめ、清涼とした彼女の甘く懐かしい香りをゆっくりと胸に含み、心の奥深くでかみしめる。
「白妙・・・・。俺は・・・・君の傍で生きたかったよ。・・・・本当は君と、つがいになりたかった。・・・ただそれだけを、ずっと・・・ひたすら望んでいたんだ。」
宵闇は柔らかな地面を選び、そこへそっと白妙を横たえた。
どうしても白妙のそばを離れる決心がつかず、宵闇は彼女の美しい顔を揺れる瞳で見つめ、つややかな長い髪を手で手繰る。
「こんな時でも・・・・君は本当に・・・・美人さんだね・・・・・。」
宵闇は、桜色に色づく形の良いふっくらとした白妙の唇へ、そっと自分の唇を重ねた・・・・・。
「君のことが、死ぬほど好きなんだ。」
白妙の唇を優しく指でなぞり、ようやく宵闇は立ち上がった。
「・・・・・さようなら。」
背を向けた宵闇が、白妙の頬を流れ落ちる涙に、気づくことはない・・・・。
告げられた宵闇の言葉は、樹々の中にひっそりと置き去りにされ、誰も知ることのないまま消えていった。
『白妙は龍粋の元にいる』・・・・たったそれだけの事実が、猛烈な哀しみと嫉妬で宵闇の身の内をたぎらせ、激流となって瞬く間に彼の心を支配した。
視界を真っ赤に染め上げられ、頭の芯が揺らぎ足元が浮ついて、自分が何者かすらわからないようになってくると、宵闇の意識は抗えない強烈な力に連れ去られ、闇の底へと沈みこんでいった。
ようやく意識を取り戻した時・・・・。
宵闇は妖鬼の群れの中で、空気を切り裂くようなけたたましい笛の音を、白妙に向けて吹き鳴らしていた。
この不吉な笛の音は、神妖の精神を狂わせ、力を奪う。
そのことに気づいた宵闇の全身は、耐えがたい恐怖に凍えた。
意識を失い崩れ落ちていく白妙が目に移り、その細い身体をとっさに腕の中へ抱き止めると、彼女の口元がわずかに動いた。
「宵・・・闇。」
白妙が自分の名を呼ぶ切ないその声に、宵闇の心は引き裂かれるように激しく痛んだ。
自分を取り巻いていた妖鬼の群れが、白妙を狙い襲い掛かってくる。
宵闇は白妙を片腕にしっかり抱いたまま、空いている方の手で印を汲んだ。
宵闇の影から無数の闇色の帯が雷光のごとく飛び出し、先陣を切って躍り出た集団を瞬きの間に切り刻む。
優雅に舞い踊る闇色の帯に恐れをなした妖鬼たちが足を止めると、今度はその足元の影が不気味にうごめき、粘りをもった黒い液体が包み込むように彼らをからめとった。
恐怖におののく妖鬼たちの絶叫は、一瞬のうちにかき消され、身体とともに闇にのまれる。
沈黙の後に吐き出されたのは、魂を失った妖鬼たちの屍だった。
宵闇は強力な力で、彼女を狙い襲い掛かってくる妖鬼の全てを、ことごとく祓いながら、何よりも大切な温もりを二度と話したくないと言うように、きつく胸に抱き続けていた。
だが、瞬く間に邪悪を消し去った宵闇を待ち構えていたのは、一筋の光すら射さない絶望だった。
無数に転がる神妖たちの亡骸には、一切の抵抗のあとが見られなかったのだ。
恐らく、身動きが取れず戦うことすら許されないままに一方的に蹂躙され、目を引き抜かれ、殺されていった・・・・。
結界は破られ、龍粋の気配はどこにも感じることができない・・・・つまり彼は、もう・・・・。
・・・・俺の笛の音が、神妖界の結界を壊し、神妖たちの命を奪い・・・龍粋を・・・・殺したっていうのか・・・・・。
あまりにも重すぎる非情な現実に、宵闇は打ちのめされた。
もう、二度と・・・・・白妙の元へは戻れない。
こんなことをした自分が、戻っていいはずがない。
俺は白妙に、触れるべきじゃなかった・・・・。
眼前に広がる無残な情景に絶望を確かめさせられながら、宵闇は数刻もの間、意識のない白妙を腕に抱き、彼女を狙う妖鬼を滅ぼし続けた。
周囲から妖鬼の存在を消し尽くすと、宵闇は白妙の温もりと彼女の存在を確かめるように、力を失って重くなったその身体を、凍える身体で強く抱きしめた。
白妙の首筋に顔をうずめ、清涼とした彼女の甘く懐かしい香りをゆっくりと胸に含み、心の奥深くでかみしめる。
「白妙・・・・。俺は・・・・君の傍で生きたかったよ。・・・・本当は君と、つがいになりたかった。・・・ただそれだけを、ずっと・・・ひたすら望んでいたんだ。」
宵闇は柔らかな地面を選び、そこへそっと白妙を横たえた。
どうしても白妙のそばを離れる決心がつかず、宵闇は彼女の美しい顔を揺れる瞳で見つめ、つややかな長い髪を手で手繰る。
「こんな時でも・・・・君は本当に・・・・美人さんだね・・・・・。」
宵闇は、桜色に色づく形の良いふっくらとした白妙の唇へ、そっと自分の唇を重ねた・・・・・。
「君のことが、死ぬほど好きなんだ。」
白妙の唇を優しく指でなぞり、ようやく宵闇は立ち上がった。
「・・・・・さようなら。」
背を向けた宵闇が、白妙の頬を流れ落ちる涙に、気づくことはない・・・・。
告げられた宵闇の言葉は、樹々の中にひっそりと置き去りにされ、誰も知ることのないまま消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません
藤原遊
恋愛
「私は処刑される運命の悪役令嬢――そう信じて、死を望んでいた。
けれど、幼なじみの騎士は『この命に代えても守る』と離してくれなくて……?」
侯爵令嬢アメリアは、幼い頃から「悪役令嬢」として囁かれてきた。
その冷たい視線と噂の中で、彼女は静かに己の役目を受け入れていた――。
けれど、すべてを遠ざけようとする彼女の前に現れたのは、まっすぐに想いを示す幼なじみの騎士。
揺らぐ心と、重ねてきた日々。
運命に逆らえないはずの未来に、ほんの少しの希望が灯る。
切なく、温かく、甘やかに紡がれる悪役令嬢物語。
最後まで見届けていただければ幸いです。
※ 攻略対象の叔母である悪役令嬢に転生したけれど、なぜか攻略対象の甥に激重に愛されてます
にて、親世代の恋愛模様を描いてます。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる