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白妙と海神と妖鬼蒼
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蒼い衣の神妖は、健やかな寝息を立てる海神をしばらく抱きしめていたが、心の底から愛おしくてたまらないという表情を浮かべたまま海神の額に口づけると、ようやく白妙の腕に小さな幼子を託した。
胸が押しつぶされそうなほど切な過ぎる瞳を海神に向けているその神妖の姿に、白妙は戸惑いを覚えながらも、腕の中の海神の温もりに対し、礼の言葉を口にした。
「・・・・・感謝する。」
「やめておけ。ボクは誓約により、その刀の主を喰った。礼はべきじゃない。」
小さくゆっくりと横に首を振りながら、苦し気に瞳を潤ませ、絞り出すように吐き出された彼女のその言葉に、白妙は身を硬くした。
龍粋を・・・・喰った?
なぜ・・・・?
この者は・・・・龍粋の仇なのか・・・・?
だが、海神をなでるその手や眼差しからは、誰が目にしてもハッキリとわかるほどに、切なさと慈しみがあふれ出ていて・・・・白妙の疑惑は、砂でできた城を崩すようにあっさりと壊されてしまう。
女神妖は、白妙を強い力のこもった瞳で真っ直ぐ見つめると、印を組んだ。
彼女の姿は淡い光に包み込まれ、一瞬で姿を変えていく。
そこにたたずんでいたのは、青い衣を身にまとった恐ろしく美しい、男型の妖鬼だった。
青い妖鬼は、泣き出してしまいそうな笑顔を浮かべ、白妙に残酷な言葉を吐き出した。
「そいつには、ボクの話はするなよ。幸か不幸か、ボク達は同じ顔をしていたんだ。余計なことは言わず、お前が一緒に過ごしていたことにすればいい。」
海色の瞳をした青い衣の妖鬼は、白銀の髪をなびかせ宙を駆けあがると、一度もふり返ることなくそのまま姿を消した・・・・・。
白妙は、龍粋の形見となってしまった美しく冷たい刀と、海神の温もりを腕に抱いたまま、その場に崩れ落ちた。
胸に空いてしまった大きな穴に、冷たく澄んだ風が音もなく吹きすさび、全身が凍ったように痺れ、震えが止まらない。
「龍粋・・・・・・・・龍粋っ・・・・・・・・龍粋っ!!」
応える者のいない世界で、白妙は彼の名を何度も叫び続けた・・・・。
**********************
海神を水神殿へ連れてくると、白妙は彼を寝台に寝かせ、布団をかけてやった。
さきほどの、青く美しい妖鬼を思い出しながら、白妙は一体の妖鬼の名を口にした。
「”蒼”・・・・か。」
他に思い当たるものはいない。
彼は、妖鬼の王を倒したという、蒼と呼ばれる妖鬼に他ならないだろう。
どういった経緯があって、龍粋を喰らい、海神を託してくることになったのかはわからなかったが、白妙は彼を呪う気にはなれなかった。
自分が姿を現した時、彼は傷ついたような表情をしていた・・・・。
誰も迎えが来なければ、蒼は自分が海神と過ごすことを、決意していたのかもしれない。
そして、恐らく彼は・・・・そうなることを望んでいたのだ。
「不器用なのだな・・・・。」
龍粋の刀を差し出してきた蒼の腕は・・・・微かに震えていた。
龍粋の形見を繭にしまい袂へ納めた白妙は、寝台に腰掛け、健やかな寝息を立てる海神の頬に手を当てた。
今の自分には、この子しか残されていない。
龍粋の忘れ形見である海神を、守り育てなければ・・・・・。
白妙は彼の顔を見つめたまま、静かに口を開いた。
「海神。私の魂にかけて誓う・・・・。お前がひとりで生きられるようになるまで、私がお前を護り・・・導く。」
もはやそれは龍粋から託されたものではない。
その誓いは、白妙自身の望みだった。
胸が押しつぶされそうなほど切な過ぎる瞳を海神に向けているその神妖の姿に、白妙は戸惑いを覚えながらも、腕の中の海神の温もりに対し、礼の言葉を口にした。
「・・・・・感謝する。」
「やめておけ。ボクは誓約により、その刀の主を喰った。礼はべきじゃない。」
小さくゆっくりと横に首を振りながら、苦し気に瞳を潤ませ、絞り出すように吐き出された彼女のその言葉に、白妙は身を硬くした。
龍粋を・・・・喰った?
なぜ・・・・?
この者は・・・・龍粋の仇なのか・・・・?
だが、海神をなでるその手や眼差しからは、誰が目にしてもハッキリとわかるほどに、切なさと慈しみがあふれ出ていて・・・・白妙の疑惑は、砂でできた城を崩すようにあっさりと壊されてしまう。
女神妖は、白妙を強い力のこもった瞳で真っ直ぐ見つめると、印を組んだ。
彼女の姿は淡い光に包み込まれ、一瞬で姿を変えていく。
そこにたたずんでいたのは、青い衣を身にまとった恐ろしく美しい、男型の妖鬼だった。
青い妖鬼は、泣き出してしまいそうな笑顔を浮かべ、白妙に残酷な言葉を吐き出した。
「そいつには、ボクの話はするなよ。幸か不幸か、ボク達は同じ顔をしていたんだ。余計なことは言わず、お前が一緒に過ごしていたことにすればいい。」
海色の瞳をした青い衣の妖鬼は、白銀の髪をなびかせ宙を駆けあがると、一度もふり返ることなくそのまま姿を消した・・・・・。
白妙は、龍粋の形見となってしまった美しく冷たい刀と、海神の温もりを腕に抱いたまま、その場に崩れ落ちた。
胸に空いてしまった大きな穴に、冷たく澄んだ風が音もなく吹きすさび、全身が凍ったように痺れ、震えが止まらない。
「龍粋・・・・・・・・龍粋っ・・・・・・・・龍粋っ!!」
応える者のいない世界で、白妙は彼の名を何度も叫び続けた・・・・。
**********************
海神を水神殿へ連れてくると、白妙は彼を寝台に寝かせ、布団をかけてやった。
さきほどの、青く美しい妖鬼を思い出しながら、白妙は一体の妖鬼の名を口にした。
「”蒼”・・・・か。」
他に思い当たるものはいない。
彼は、妖鬼の王を倒したという、蒼と呼ばれる妖鬼に他ならないだろう。
どういった経緯があって、龍粋を喰らい、海神を託してくることになったのかはわからなかったが、白妙は彼を呪う気にはなれなかった。
自分が姿を現した時、彼は傷ついたような表情をしていた・・・・。
誰も迎えが来なければ、蒼は自分が海神と過ごすことを、決意していたのかもしれない。
そして、恐らく彼は・・・・そうなることを望んでいたのだ。
「不器用なのだな・・・・。」
龍粋の刀を差し出してきた蒼の腕は・・・・微かに震えていた。
龍粋の形見を繭にしまい袂へ納めた白妙は、寝台に腰掛け、健やかな寝息を立てる海神の頬に手を当てた。
今の自分には、この子しか残されていない。
龍粋の忘れ形見である海神を、守り育てなければ・・・・・。
白妙は彼の顔を見つめたまま、静かに口を開いた。
「海神。私の魂にかけて誓う・・・・。お前がひとりで生きられるようになるまで、私がお前を護り・・・導く。」
もはやそれは龍粋から託されたものではない。
その誓いは、白妙自身の望みだった。
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