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宵闇の心 2
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突然現れた宵闇に、水神殿に仕える神妖たちがざわめく。
主を呼びに行こうと慌てて駆けだした神妖を、宵闇は指先ひとつを動かすことで引き止めた。
「お前。どこへ行く。・・・・余計な真似はするなよ。」
そう言うと、宵闇は赤く目を光らせた。
宵闇の影の中から、闇が無数の細い帯となってあふれ出し、不気味な衣擦れの音と共に恐怖におびえるその神妖へ襲い掛かる。
まるで毒蛇のような艶めかしいうねりを見せながら、闇色の帯は一瞬で大きな繭を作り上げ、内に神妖を閉じ込めた。
宙に浮く繭はあまりにも闇の色が強すぎるために、まるで宙を墨で丸く塗りつぶしたように見える。
包まれている神妖の叫び声のひとつすら聞こえないことが、逆にゾワリとした底知れない恐怖を伴って、見ている者の動きを止めさせた。
束の間の沈黙の後。
宵闇が帯を解いた後に、神妖の姿はなかった。
白い枯れ木のようなたくさんの棒と、丸みを帯びた歪な形のものが、カラカラと音を立てて地におち、足元へ散らばっていく。
それが、先ほどの神妖の成れの果てであると、そこにいた者たちが理解した瞬間。
水神殿に戦慄が走った。
だが、彼らの口から悲鳴が吐き出されることも、助けを呼ぶ声が叫ばれることもなかった。
彼らの足元の影から、先ほどと同じ闇色の帯が無数に湧き出し、そこにいた神妖たちを一瞬で闇色の繭の中へと閉じ込めてしまったからだ。
静まり返った水神殿の広間に、乾いた衣擦れの音が不気味に響き渡り、ガラガラとにぎやかな音を立て、無数の骨が散らばった。
「・・・・・宵闇?・・・・お前なのか?」
白妙の震える声が神殿の方角から響いてきた。
白妙と海神が寄り添うようにたたずんでいるのを横目で睨みながら、宵闇の心は焼き尽くされそうなほどの嫉妬に燃える。
宵闇が自らを封じた時、まだ幼子だった海神は、青年と呼ぶにふさわしい、瑞々しい力に満ちた年ごろへと成長していたのだ。
二つの嫉妬から、宵闇が殺意をむき出した瞳をぎらつかせ身体を向けると、海神が白妙をかばう様にして彼女の前に半歩歩み出た。
「なぜ・・・・・貴様がそれをする!」
宵闇は海神に向けて、闇色の帯を無数に伸ばした。
その威力は彼の心の叫びのまま、猛烈な勢いで瞬時に海神の視界を塞ぐ。
「やめろ!!」
白妙が海神をかばい、とっさに前へ出た。
闇色の布は、彼女の身体から一寸も満たないところで、ピタリをその動きを止めた。
「白妙・・・・。」
衣擦れの音と共に、影の中へ滑らかに帯が納まっていく。
そこに広がる惨劇の後を見て、白妙は顔色を紙のように白くし、震える声で宵闇に問いかけた。
「宵闇・・・・全て、お前が?」
「・・・・そうだ。」
「・・・宵闇・・・・お前っ!!」
激情に囚われ、思わず宵闇に駆け寄ろうとする白妙の腕を、海神は強くつかんで離そうとしなかった。
「白妙・・・・・行くな。あれはもはや、神妖ではない。穢れ落ちてしまっている。」
表情を険しくして、頑なに白妙を離そうとしない海神の姿に、宵闇の心は血が吹き出るような生々しい痛みに心をさらされながら、凶暴な牙をむき出した。
海神の足元から闇色の帯を吐き出し、彼の足を掴む。
「足から切り落としてやろう。・・・・お前は、ただでは死なせない。」
「・・・・・それは、やめておいた方がいい。君は・・・・白妙にだけは、嫌われたくないはずだろう。」
自分の言葉に続いて聞こえた甘い響きを持つ声に、宵闇はビクリと身体を硬くした。
いつの間に間合いに入られたのか、気づくことすらできなかった・・・・・。
宵闇が手を伸ばせば触れられるほどの近さに・・・・黒衣を身にまとった、美し過ぎるその妖鬼は存在していた。
主を呼びに行こうと慌てて駆けだした神妖を、宵闇は指先ひとつを動かすことで引き止めた。
「お前。どこへ行く。・・・・余計な真似はするなよ。」
そう言うと、宵闇は赤く目を光らせた。
宵闇の影の中から、闇が無数の細い帯となってあふれ出し、不気味な衣擦れの音と共に恐怖におびえるその神妖へ襲い掛かる。
まるで毒蛇のような艶めかしいうねりを見せながら、闇色の帯は一瞬で大きな繭を作り上げ、内に神妖を閉じ込めた。
宙に浮く繭はあまりにも闇の色が強すぎるために、まるで宙を墨で丸く塗りつぶしたように見える。
包まれている神妖の叫び声のひとつすら聞こえないことが、逆にゾワリとした底知れない恐怖を伴って、見ている者の動きを止めさせた。
束の間の沈黙の後。
宵闇が帯を解いた後に、神妖の姿はなかった。
白い枯れ木のようなたくさんの棒と、丸みを帯びた歪な形のものが、カラカラと音を立てて地におち、足元へ散らばっていく。
それが、先ほどの神妖の成れの果てであると、そこにいた者たちが理解した瞬間。
水神殿に戦慄が走った。
だが、彼らの口から悲鳴が吐き出されることも、助けを呼ぶ声が叫ばれることもなかった。
彼らの足元の影から、先ほどと同じ闇色の帯が無数に湧き出し、そこにいた神妖たちを一瞬で闇色の繭の中へと閉じ込めてしまったからだ。
静まり返った水神殿の広間に、乾いた衣擦れの音が不気味に響き渡り、ガラガラとにぎやかな音を立て、無数の骨が散らばった。
「・・・・・宵闇?・・・・お前なのか?」
白妙の震える声が神殿の方角から響いてきた。
白妙と海神が寄り添うようにたたずんでいるのを横目で睨みながら、宵闇の心は焼き尽くされそうなほどの嫉妬に燃える。
宵闇が自らを封じた時、まだ幼子だった海神は、青年と呼ぶにふさわしい、瑞々しい力に満ちた年ごろへと成長していたのだ。
二つの嫉妬から、宵闇が殺意をむき出した瞳をぎらつかせ身体を向けると、海神が白妙をかばう様にして彼女の前に半歩歩み出た。
「なぜ・・・・・貴様がそれをする!」
宵闇は海神に向けて、闇色の帯を無数に伸ばした。
その威力は彼の心の叫びのまま、猛烈な勢いで瞬時に海神の視界を塞ぐ。
「やめろ!!」
白妙が海神をかばい、とっさに前へ出た。
闇色の布は、彼女の身体から一寸も満たないところで、ピタリをその動きを止めた。
「白妙・・・・。」
衣擦れの音と共に、影の中へ滑らかに帯が納まっていく。
そこに広がる惨劇の後を見て、白妙は顔色を紙のように白くし、震える声で宵闇に問いかけた。
「宵闇・・・・全て、お前が?」
「・・・・そうだ。」
「・・・宵闇・・・・お前っ!!」
激情に囚われ、思わず宵闇に駆け寄ろうとする白妙の腕を、海神は強くつかんで離そうとしなかった。
「白妙・・・・・行くな。あれはもはや、神妖ではない。穢れ落ちてしまっている。」
表情を険しくして、頑なに白妙を離そうとしない海神の姿に、宵闇の心は血が吹き出るような生々しい痛みに心をさらされながら、凶暴な牙をむき出した。
海神の足元から闇色の帯を吐き出し、彼の足を掴む。
「足から切り落としてやろう。・・・・お前は、ただでは死なせない。」
「・・・・・それは、やめておいた方がいい。君は・・・・白妙にだけは、嫌われたくないはずだろう。」
自分の言葉に続いて聞こえた甘い響きを持つ声に、宵闇はビクリと身体を硬くした。
いつの間に間合いに入られたのか、気づくことすらできなかった・・・・・。
宵闇が手を伸ばせば触れられるほどの近さに・・・・黒衣を身にまとった、美し過ぎるその妖鬼は存在していた。
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