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光弘の家 2
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「光弘・・・・」
俺がためらいがちに声をかけると、光弘は濡れた瞳をまっすぐこちらへ向けてきた。
「俺は、また姉さんを見捨てた・・・・。守られるばかりで、何もできない。・・・・・黒のことも。・・・どうして俺は・・・・こんなにも弱い。」
「お前・・・・」
光弘は一度、楓乃子を失っているのだ・・・・。
あの場に楓乃子を置いてきたことで、光弘の心に残る深すぎる傷はバックリと口を開き、真っ赤な血を噴き出しながら、慟哭を抱いたかすれ声を光弘の口からこぼれさせていた。
光弘は俺たちに隠れ、これ以上ないほど自分を追い込み、修練し続けている・・・・。
そのことに気づいている俺には、光弘にかける言葉がみつからなかった。
光弘は俺たちの中では確かに群を抜いて強力だったが、本人の言う通り神妖たちや黒と比べると、とても太刀打ちのできるレベルではないのだ。
気づいた時には、俺は嗚咽に震える光弘の頭をうなじへ引き寄せ、きつく抱きしめていた。
「・・・・真也。俺はもう、何も失いたくないよ。・・・・大切な人たちを守れるなら、俺は、バラバラにされて消えてしまっても、構わないんだ。」
耳元で響く光弘の言葉に、憤りにも似た焦りが、熱となって一瞬で全身を巡った。
「光弘っ・・・」
「馬鹿を言うな!そんなこと、もう二度とさせるものか!」
俺は一瞬、ぎょっとして固まった。
自分の口から吐き出されるはずだった言葉が、都古の口から悲鳴となって響き渡っていた。
その時。
ふいに、ひどく澱んだ・・・何かが腐ったような潮の香りが、俺の鼻をかすめた。
一瞬、隣の部屋に置かれていた水槽のことが頭をよぎったが、居間の空気が清涼としていたことを思い出し、背中をゾクリと戦慄が走る。
「おい・・・・。」
「ああ。」
勝と都古も気づき、視線を鋭くした。
光弘は俺の腕を離れ、黒を守る様に、彼の傍らにピタリと身体を寄せる。
黒の横たわるベッドの下から、親指くらいの大きさの何かが1つ、サカサカとはい出てきた。
多くの人が嫌う、例の黒い虫が出たのかとドキリとしたが、特徴的な長い触角はついていないように見える。
「フナムシか・・・・・。」
勝の落ち着いた声にホッとしたのも束の間・・・・・ベッドの下から無数の虫が、バケツでまかれた水が広がるようにゾワゾワと湧き出し、瞬きのうちに床を黒く染め上げ始めた。
足の上を這いあがってくるおぞましい感触に、頭皮がゾワリと戦慄し、全身が粟立った。
身体の奥底から込み上げてくる強烈な震えと吐き気を、グッと胃の奥へ押し戻し、俺は意識を無理矢理集中させて、気配をさぐった。
これは、ただのフナムシだ。
放っておいても害はない。
むしろ・・・・・。
『浮かべ』
俺はベッドの隙間から黒の枕元に伸びた細い触手の主にむけて、言霊を放った。
宙につるされたそれは、小さなタコだった。
華やかな模様をまとうそのタコは、祭の時に勝を襲ったあの巨大なサメと同じように、赤黒い靄に包まれ、頭の後ろには小さな刻印が刻まれていた。
俺がためらいがちに声をかけると、光弘は濡れた瞳をまっすぐこちらへ向けてきた。
「俺は、また姉さんを見捨てた・・・・。守られるばかりで、何もできない。・・・・・黒のことも。・・・どうして俺は・・・・こんなにも弱い。」
「お前・・・・」
光弘は一度、楓乃子を失っているのだ・・・・。
あの場に楓乃子を置いてきたことで、光弘の心に残る深すぎる傷はバックリと口を開き、真っ赤な血を噴き出しながら、慟哭を抱いたかすれ声を光弘の口からこぼれさせていた。
光弘は俺たちに隠れ、これ以上ないほど自分を追い込み、修練し続けている・・・・。
そのことに気づいている俺には、光弘にかける言葉がみつからなかった。
光弘は俺たちの中では確かに群を抜いて強力だったが、本人の言う通り神妖たちや黒と比べると、とても太刀打ちのできるレベルではないのだ。
気づいた時には、俺は嗚咽に震える光弘の頭をうなじへ引き寄せ、きつく抱きしめていた。
「・・・・真也。俺はもう、何も失いたくないよ。・・・・大切な人たちを守れるなら、俺は、バラバラにされて消えてしまっても、構わないんだ。」
耳元で響く光弘の言葉に、憤りにも似た焦りが、熱となって一瞬で全身を巡った。
「光弘っ・・・」
「馬鹿を言うな!そんなこと、もう二度とさせるものか!」
俺は一瞬、ぎょっとして固まった。
自分の口から吐き出されるはずだった言葉が、都古の口から悲鳴となって響き渡っていた。
その時。
ふいに、ひどく澱んだ・・・何かが腐ったような潮の香りが、俺の鼻をかすめた。
一瞬、隣の部屋に置かれていた水槽のことが頭をよぎったが、居間の空気が清涼としていたことを思い出し、背中をゾクリと戦慄が走る。
「おい・・・・。」
「ああ。」
勝と都古も気づき、視線を鋭くした。
光弘は俺の腕を離れ、黒を守る様に、彼の傍らにピタリと身体を寄せる。
黒の横たわるベッドの下から、親指くらいの大きさの何かが1つ、サカサカとはい出てきた。
多くの人が嫌う、例の黒い虫が出たのかとドキリとしたが、特徴的な長い触角はついていないように見える。
「フナムシか・・・・・。」
勝の落ち着いた声にホッとしたのも束の間・・・・・ベッドの下から無数の虫が、バケツでまかれた水が広がるようにゾワゾワと湧き出し、瞬きのうちに床を黒く染め上げ始めた。
足の上を這いあがってくるおぞましい感触に、頭皮がゾワリと戦慄し、全身が粟立った。
身体の奥底から込み上げてくる強烈な震えと吐き気を、グッと胃の奥へ押し戻し、俺は意識を無理矢理集中させて、気配をさぐった。
これは、ただのフナムシだ。
放っておいても害はない。
むしろ・・・・・。
『浮かべ』
俺はベッドの隙間から黒の枕元に伸びた細い触手の主にむけて、言霊を放った。
宙につるされたそれは、小さなタコだった。
華やかな模様をまとうそのタコは、祭の時に勝を襲ったあの巨大なサメと同じように、赤黒い靄に包まれ、頭の後ろには小さな刻印が刻まれていた。
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