彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

文字の大きさ
281 / 324

光弘の支度 7

しおりを挟む
 光弘みつひろはその場に座りこみ、膝の上に静かにゆいを招く。

 「手を、出して。」

 癒がはかなげなふわふわの前脚を差し出すと、光弘みつひろは自らの髪をくくっている白く細い髪紐の、ひらひらと踊る極めて長い尾を捕まえ、それをゆいの細い足に丁寧に結わいた。

 「ごめんね。・・・癒に似合う飾りを、何か持っていたならよかったのに・・・・・・。」

 「いいの?」

 「これしか持っていないんだ。だからそのセリフは、きっと俺が言うべきものだよ。」

 光弘みつひろは酷く困った様子で小さく笑ってから、続きを口にした。

 「嫌じゃなければ、これをつけておいて。」

 「・・・嫌なわけないよ。」

 白い蝶の形に整えた髪紐の尾を光弘みつひろが適当な長さに切ると、ゆいはひらりと光弘みつひろの肩に飛び上がった。
 柔らかな身体を酷く心地よさそうに、何度も何度も彼の首筋に摺り寄せる。

 「ありがとう。」

 「飛びにくかったら、すぐに外して。危ないから。」

 光弘のその言葉に、癒はわずかに顎をあげ首を小さく横に振った。

 「大丈夫。もし、これが無くなってしまったら、違う意味で飛べなくなってしまうかもしれないけどね。・・・・・・だってこんなに、幸せなんだ。」

 光弘みつひろは嬉しそうに目を細め、小さなゆいの頭をそっと撫でる。
 片方だけ少し短くなってしまった光弘みつひろの長い髪紐に、ゆいはそっと視線をやった。

 「長さが少し、違ってしまったね。」

 「・・・いいんだ。これで。」

 ゆいは嬉しくてたまらないという弾け飛んでしまいそうな言葉の変わりに、ふわふわの小さな頭を、柔らかく微笑んでいる光弘みつひろの白く滑らかな首筋にギュッと埋める。

 それに応えるように、光弘みつひろが優しく頬を寄せ、かすかに頬ずりをすると、ゆいのしなやかな三本の尾が、ゆったりと幸せそうに揺れた。

 ゆいはひとしきり光弘みつひろに身体を寄せてから、極めて名残惜しそうに口を開いた。

 「行こうか。」


 **************************

 光弘みつひろ楓乃子かのこが草原に戻ると、しょうが苦く笑っているのが目に入った。

 それもそのはずで、楓乃子かのこの行き過ぎた溺愛ぶりを、つい今しがた、これ以上ないほど楽し気に笑っていたはずのあおのことなのだが、なんのことはない、見事なまでに楓乃子かのこと同じ穴の狢であったのだ。

 考えてみれば、すっかり二人の世界に浸りきり、極めて慎重に海神の支度を整えているあおのことだ・・・。

 海神わだつみの肌を人目にふれさせようとしないなどのことは至極当然のことだった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

48歳主婦の宅建試験挑戦―そして年下彼がくれた勇気と恋

MisakiNonagase
恋愛
「お母さん」でも「奥さん」でもない、私の名前を呼び止めたのは、26つも年下の彼だった。 「48歳、主婦。私が手に入れたのは、資格(ライセンス)と、甘く切ない自由だった。」 スーパーのパートに明け暮れる平凡な主婦・中西京香、48歳。 目的もなく始めた宅建試験への挑戦が、枯れかけていた彼女の人生を激変させる。 インスタの勉強垢で出会ったのは、娘よりも年下の22歳大学生・幸正。 「不倫なんて、別の世界の出来事だと思っていた――」 そんな保守的で、誰より否定的な考えを持っていたはずの京香が、孤独な受験勉強の中で彼と心を通わせ、気づけば過去問演習よりも重い「境界線」を越えていく。 資格取得、秘めた大人の恋。そして再スタート、 50歳を迎えた彼女が見つけた、自分だけの「地平線」とは。 不動産、法学、そして予期せぬ情熱が交錯する、48歳からの再生と自立の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

公爵家の伝統だと思っていたら、冷徹公爵様の溺愛でした

星乃和花
恋愛
(毎日21:30更新ー全8話) 家族にも周囲にもあまり顧みられず、 「私のことなんて、誰もそんなに気にしない」 と思って生きてきたリリアナ。 ある事情から、冷徹と噂されるヴァレントワ公爵家で働くことになった彼女は、 当主エドガーの細やかな気づかいに驚かされる。 温かいお茶、手袋、外出時のエスコート。 好みの食事までさりげなく用意されて―― けれど自己評価の低いリリアナは、それらすべてを 「これが公爵家の伝統……!」 「さすが名門のお作法……!」 と盛大に勘違い。 一方の冷徹公爵様は、そんな彼女にだけ少しずつ甘さをこぼし始めて……? これは、 “この家の作法”だと思っていたら、 どうやら冷徹公爵様の溺愛だったらしい やさしくて甘い勘違いラブコメです。

追放先で気づいた。この世界の精霊使いは全員、聞き方を間違えている~最安もふもふ白狐と始めた、問いかけの冒険~

Lihito
ファンタジー
精霊と暮らす世界で、ノエルはギルドを追い出された。処理ミスは誰より少ない。でも「やりづらい」の一言で、理由には足りた。 手元に残ったのは、最安で契約した手のひらサイズの白い子狐だけ。言葉はたどたどしいし、力もない。誰が見ても「使えない」と笑う精霊だ。 たどり着いた町では疫病が広がっていた。高額な精霊が三度探して見つからない薬草。ノエルは最弱の白狐と半日で見つけ出す。 力で勝ったんじゃない。聞く範囲を絞り、段階を分け、小さな鼻に合った問いを重ねただけ。 ——なぜこの世界では、誰も精霊への「聞き方」を知らないのか。 その違和感が、ノエルの旅を動かしていく。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...