彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

文字の大きさ
280 / 324

光弘の支度 6 ※黒のイラストに着色してみました。

しおりを挟む





 尋常でないほどの強烈なふがいなさに、くろは頭を殴られたような重い衝撃をうけ、ぐらりと眩暈がするほどだった。

 「・・・ごめん。」

 背の痛みすら心地よく感じるほどの罪悪感を味わいながらその言葉をつぶやいたのは、力なく伏せているくろの身体の方だった。

 叶うなら今すぐにでも駆けつけ、光弘みつひろの手をとり、自分の行いを一刻も早く包み隠さず全て打ち明けてしまいたい。
 楓乃子かのこと自分は同じ者なのだと、常に自分は、あなたの傍らにあるのだと・・・・・・。

 そのあまりにも強すぎる後悔は、瞬く間に弾けそうなまでに膨れ上がり、無意識のうちに楓乃子かのこの口元をもかすかに動かしていた。

 「姉さん?」

 不安げに声を掛けられ我に返った楓乃子かのこは、深く息を吐き呼吸を整えた。
 光弘みつひろの小さな白い顔に自らの顔を近づけると、彼の頬についていた細い緑色の糸を丁寧に取ってやる。

 本心をすっかり綺麗に包み隠し、自然に見えるであろう微笑みをどうにか張り付けた楓乃子かのこは、光弘みつひろの着装を丁寧に確認しながら口を開いた。

 「そんなに心配ばかりしないで。なんでもないんだ。少し、考えていただけだよ。・・・そうだね。私に準備は必要ない。ゆいの姿で、君の肩に乗っていたいな。・・・それより、みーくんは本当に大きくなったね。ほら、もう私よりだいぶ、背が高くなってしまった。」

 そういって軽く背伸びをし、楓乃子かのこ光弘みつひろの頭の上に手を乗せた。
 そのほっそりとした白い手首を、光弘みつひろはそっと握りしめる。

 ふいに触れられ、楓乃子かのこはびくりと身体を震わせた。
 心臓がキュッと縮み上がるような動揺を必死で隠しながら、小首をかしげ微笑んで見せる。

 「なんだい?」

 落ち着いた様子を装って覗き込んだ楓乃子かのこの双眸を捉えたのは、酷く哀し気な色を纏った、光弘みつひろの温かい瞳だった。

 「姉さんが・・・もし生きていたなら。ようやく、少しは守れるくらい強くなったのに。・・・凄く・・・悔しいよ。」

 唐突に紡がれた、光弘みつひろの言葉は、あまりにも明け透けすぎた。
 楓乃子かのこは声が揺れそうになるのを懸命にこらえながら、やっとのことで口を開く。

 「・・・・・・ありがとう。その言葉だけで、十分だ。」

 楓乃子かのこは笑顔で答えると、すかさずゆいへと姿を変えた。

 ・・・・・・私はあなたに、狂おしいほど存分に甘やかされ、いつだって守られている。
 今も、昔も・・・・・・。 

 胸の内に大切な想いをひっそりと抱きながら、羽毛がふわりと落ちるような軽やかさで、ゆい光弘みつひろの肩へと舞い降りた。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 最終回まで予約投稿済みです。 毎日8時・20時に更新予定です。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

完 弱虫のたたかい方 (番外編更新済み!!)

水鳥楓椛
恋愛
「お姉様、コレちょーだい」  無邪気な笑顔でオネガイする天使の皮を被った義妹のラテに、大好きなお人形も、ぬいぐるみも、おもちゃも、ドレスも、アクセサリーも、何もかもを譲って来た。  ラテの後ろでモカのことを蛇のような視線で睨みつける継母カプチーノの手前、譲らないなんていう選択肢なんて存在しなかった。  だからこそ、モカは今日も微笑んだ言う。 「———えぇ、いいわよ」 たとえ彼女が持っているものが愛しの婚約者であったとしても———、

断罪予定の悪役令嬢ですが、王都でカフェを開いたら婚約者の王太子が常連になりました

由香
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生していることに気付く。 このままでは一年後の夜会で婚約破棄され、断罪された上で国外追放されてしまう運命だ。 「――だったら、その前に稼げばいいわ!」 前世の記憶を頼りに、王都の裏通りで小さなカフェを開くことにしたエリザベート。 コーヒーやケーキは評判となり、店は少しずつ人気店へと成長していく。 そんなある日、店に一人の青年が現れる。 落ち着いた雰囲気のその客は、毎日のように通う常連になった。 しかし彼の正体は――なんと婚約者である王太子レオンハルトだった!? 破滅回避のために始めたカフェ経営が、やがて運命を変えていく。 これは、悪役令嬢が小さなカフェから幸せを掴む ほのぼのカフェ経営×溺愛ロマンスストーリー。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

処理中です...