彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

文字の大きさ
284 / 324

冥府は怖いとこ? 2

しおりを挟む
 真也しんやしょうあおにしがみついていた腕を気まずそうにほどくと、都古みやこもぎゅっとつかんでいた真也しんやの衣をひっそりと離した。

 海神わだつみが少し呆れた様子であおを見上げれば、彼と視線を交わしたあおは子供たちに気づかれないよう、いたずらに成功した幼子のように小さく舌を出してみせる。

 「さて、すぐ先に足湯があるんだ。まずはそこに寄ってみようか。」

 あおはくすりと小さく笑ってから、海神わだつみの手をとり石段を下り始めた。

 真也しんやたちにとって、冥府の重みのある空気は今まで生きてきて初めて経験する異様なものだった。

 あおの結界に穢れがまとわりついたりしないよう護られているとはいえ、それでも肌に感じる空気の流れはさわりと心の奥を波立たせ、どうしようもなく胸の奥をざわつかせている気がする。

 緊張でわずかに汗ばんだ手を握りしめ、真也しんやたちはところどころ苔むした広い石段へと、恐る恐る足を下した・・・・・・。

 見事なまでに年輪を重ねた重厚な樹々に鳥居のごとく囲われた石段はなかなか神秘的なものである。
 緊張がとけてきた一行にその情景を楽しむ余裕がようやく出てきたころ、にわかに景色が変わった。

 煌びやかな木造の建物が各々の美しさを主張しながら、眼下へ向かい、気持ちいいほど果てしなく連なっている。

 酷くなまめかしい紅い輝きをじんわりと放つ提灯飾りが、ピタリと一定の間隔で非常に行儀よくつるされている。
 一見まとまりのない個性豊かな華やかさに、品の良い規則的なその輝きは、繊細な統一感を作りだしていた。

 一歩進むごとに徐々に活気を増す街並みは、美しい着物を纏うたくさんの女たちでにぎわっている。

 「おやまぁ。かわいいぼうやだねぇ。」

 店先を通り過ぎていく男たちに愛想よく声をかけていた女の一人が、真也しんやたちを目ざとく見つけ、声をかけてきた。
 縦に裂けたような瞳孔を細め、女は値踏みする様に一行を見つめている。

 「暇なら遊んでおゆきよ。安くしとくからさ。」

 長い髪をなびかせながら、女は、光弘みつひろに目をとめにっこりと笑った。

 「綺麗なぼうやだね。あんたなら、金はいらないよ。・・・むしろあたしのところで一緒に働かないかい?あたしが全部・・・教えてやるからさぁ。」

 光弘みつひろの柔らかそうな頬に触れようと伸ばした、あまりに艶めかしい女の手は、だがしかし、結局そこに触れることはできなかった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

あやかし夫(予定)の溺愛~真夏の雪

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
元カレとやり合った日。 私を助けてくれたのは7つ年上の健太郎さん。彼と一夜を共にしたら子を授かりました。 中絶の同意書にサインを求めたら、「結婚してほしい」と言われてしまい――。 どうやら彼は「あやかし」と呼ばれる人とは異なる力を持つ存在のようでした。 クールで仕事ができる男だと思っていた健太郎さんですが、とにかく私を溺愛してくるのです。 ※3万字弱の短編になる予定

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

【本編完結】契約結婚の後は冒険譚を綴ります

しろやなぎ
ファンタジー
本編完結しました。その後にあたる新章を始めます。 ++++++++++++++++++++++++ 幼い頃に母を亡くした伯爵令息のラファエル。父は仕事の為に外国へ。ひとり残されたラファエルは継母と義弟に虐げられながら育つ。 そんなラファエルはこの国の子供たちが受ける13歳の洗礼の際『魔力量は非常に豊富だが、一切の属性を持っていなかった残念な令息』と診断される。 ラファエルが18歳になった年、臣籍降下した王弟との婚姻を求める書状が届き、断れないまま嫁ぐが、そこで待っていたのは契約結婚だと説明する公爵、コルネリウスだった。 正義感の強い彼は、ラファエルがしていない罪を償わせようとする。一方のラファエルは契約結婚の後を夢みて、新たな生活を始める。 新しい生活では、ラファエルを献身的に使えてくれる侍女のノーラ、コルネリウスが付けた監視役のライアン、遠くからラファエルを気遣う魔道師団副団長のクリストフに支えられて、ラファエルは精霊魔法使いの冒険者を目指して成長していく。 ※表紙の画像はETMで作成しました。

処理中です...