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ジュエリーミミック(3)“実食パート”

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【一品目:ジュエリーミミックのファルシ~宝石風~】

「じゃあボクはまずはこの詰め物から食ーべよっと」

 ラーナが炭をよけ鍋の蓋を開けると、熱気と共にジャスミンの香りがブワーッと辺り一面に立ち昇る。
 二人はその空気を胸いっぱいに吸い込むと、思わず感嘆の声を上げた。

「良い香りーーー」
「美味しそーーー」
「楽しみね!」
「うん! そうだねぇ」

 覗き込んだ鍋の中には紅く輝く光沢を持ったミミック。
 水分が表面を覆い、まるで本物の宝石の様にキラキラと光っている、ラーナは満面の笑みを浮かべ、一段と小さなナイフで切り分ける。

「うわぁーー!!」

 先程よりも大きく感嘆の声を上げると、切り分けた身をナイフで突き刺し、自慢の大きな口に運ぶ。

(さっきはすっごい、えぐかったけど大丈夫かな?)

 リリはその姿を不安そうに横目でチラチラと見ては、反応を気にしていた。

「あーーん、モグモグ……」

(だ、大丈夫かしら……ゴクリ)

 一瞬でクリクリとした目が見開き、ラーナの真っ赤な瞳がいつもよりキラキラと輝く。

「美味しぃーー!!」
「っえ、ほんとぉ?」

(自分で作っといてなんだけど……あのえぐ味よ? ラーナは毒でも食べられるからそう思うだけなんじゃ)

 まだ訝しげな表情をしたリリ、対してラーナは明るく「騙されたなぁ」と言った。

「騙されたって、何がよ?」
「リリがすっごく怒ってたから、どうなのかと思ったけど、美味しいじゃんかー」
「生だとそうだったの!」
「そんなこと言ってぇ、リリはいつも大げさだからなぁ」

 ラーナはリリの頬を突きながら言う。

「つつかないでよ、わたしには、ラーナ、の……指は、大きい! のよ!」
「フフッ、ごめんね!」

 興奮冷めやらぬラーナは、指を両手で抑え抵抗するリリに謝ると、ジュエリーミミックを切り分け始めた。
 手際よく準備をされてしまったので、リリには覚悟を決めて食べるしか選択肢が残されてはいない。

「本当に大丈夫?」
「スパイシーで最高だよ?」
「それは中の詰め物がでしょ?」
「大丈夫だよー、自分で作ったんでしょ?」
「まぁ、それはそうだけど……」

 生の時のえぐみが忘れられず、本当に嫌そうにミミックを見るリリ。
 目をつぶり、思い切って口に入れ、苦々しい表情のまま噛み締める。

『プチッッ! ジュワー!』

 口の中で響く音が心地いい!
 その後に、パン粉からは香ばしく焼けた香りと、スパイスのエスニックな香りが一気に鼻を抜ける。

(んー、香り最高!)

 噛めば噛むほどプリップリッと心地のよい食感が口の中で弾ける。
 生の時とのあまりのギャップに、リリは目をパチクリとさせながら呟く。

「……あれ? ……お、美味しい……わ」
「でしょー、ボクももう一口たーべよ!」

 ラーナはリリを覗き込むと満面の笑顔で答え、また食べる。

「んんーーーー!!」

 手足をバタバタさせて体全体で美味しさを表現する。

「相変わらず可愛い反応するわね!」

 リリはいつもラーナの反応を見ては、心が温かくなりほっこりしているのは内緒だ。
 フフフッと笑い、自分も改めて口に運ぶ。

「んー、美味しい! 今回は当たりね!」

(ちゃんと食べるとマテ貝の味がするわ、砂漠で貝が食べられるなんてちょっと感動ー)

 心の中で歓喜を上げるリリ、横ではパクパクと勢い止まらず食べ進めるラーナ。
 あまりの勢いに、リリが気づいた時にはジュエリーミミックの宝石は無くなっていた。

「リリつぎつぎー! どんどん食べるぞー」

 ラーナは小柄だが、見た目に似合わず用意した分を全て食べる化け物級の大食漢。
 今回も備蓄の殆ど費やしたというのに、その食欲はとどまることを知らない。

(保存食の意味って……ま、いっか)

「クエストも終わったし、なんとかなるでしょ」

 リリはラーナの気持ちのいい食べっぷりを横から眺めることにした。
 

【2品目:ジュエリーミミックのブイヤベース】

「スープ、スープー」

 鼻歌交じりにスープの入った鍋に手を伸ばすラーナに、流石にリリは軽く諫めた。

「そんなに焦ると、のどに詰まらせちゃうわよ?」
「ダメだよー」
「なにがダメなの?」
「はやく食べなきゃー」
「ご飯は消えて無くなったっりしないんだから、ゆっくり食べればいいじゃない」
「いーや、出来立ての美味しさは減っちゃうじゃん」

 叱るように答えるラーナ、それを聞いてリリは少し感動した。

「っえ? それって……」
「せっかくリリが美味しくなるように考えて作ってくれたんだから、一番美味しい状態で食べたいんだよ、ボクは」
「ラーナ」

(そんな風に思ってたのね、嬉しくなっちゃうわ)

 リリの顔はとろけてしまいそうなほど、にやけていた。

「そんな風に思って食べてくれるのは、ほんとーに嬉しいわ!」

 今度はラーナがえへへっと恥ずかしそうに笑い、頭を掻く。
 リリはラーナに対しては気持ちをそのまま口に出すと決めていた。
 それはラーナの過去や生い立ちに関係するのだが、これもまた別のお話。

「でも落ち着いて食べてね」
「うん!」
「じゃあどーぞ!」
「ありがとう、いただきまーす」

 ズズズッっとスープを飲む、そのまま無言でミミックをスプーンで掬い口に運ぶ。

「うん、薄いね」
「あれっ? そんなに?」

 先程までの優しさは何処に行ったのか、真顔でリリを見たラーナは、素直に感想を言う。

「塩味しかしないよ」
「身の味は?」
「ミミックの味は何もしない」
「焼いても、煮てもだめかー」
「期待してたのにー」
「ごめんね」

 辛辣な感想だが、未知の生き物に未知の味ばかりのこの世界である。
 食べられる物なのか、それすら疑わしい数々のモンスターで料理を考えてきたリリにとって、素直な反応をしてくれるラーナほど助かるものはない。

(まじかー、失敗かー、まぁ食べてみるか)

 ラーナの感想をしっかりと胸に止め、リリも食べてみることにする。

(んん? 出汁が出てない……これじゃ香り付けした塩味薄めのスープじゃない)

「やっぱりジュエリーミミックの身は、味がないのかなぁ?」

 リリは首を傾げながらも淡々と食べ、呟く。

「宝石は美味しかったから作り方じゃない?」
「確かに、なら……」

(食べられなくもないけど、食感も噛み終わったガムみたいなのよねぇ)

 リリの頭の中では地球で学んだ調理知識、更にはこの世界《ドラコニス大陸》で得た数少ない経験、全てを頭の中でフル回転するが、結論は出なかった。

「これは失敗ね!」

 リリはテヘッと言い、ペロッと舌を出す。

(改善の余地しかないけど……今回はまぁしょうがない)

「残念だねぇ」
「今までもっと酷いものはあったし、食べられる分マシなほうよ」
「ボク達も贅沢な悩みを持つようになったねぇ」

 どんな過去を思い出したのか、二人は顔を見合わせ、ハハハと乾いた声で笑う。

「リリはおかわりいる?」
「わたしはもう満腹
「じゃあ残りは、ボクが食べちゃうね」

 失敗したスープも、ラーナの胃の中にあっという間に収まってしまった。

(よく食べるなぁ、あれで太らないんだからずるいわよねぇ)

 リリは明後日な事を考え両手で頬杖をつく、そして満点の星空の下、ラーナの気持ちのいい食べっぷりをニコニコと眺めていた。



 生き物は食べていかなければ生きていけない。
 そんな当たり前のことを現実で意識したものがどんなにも少ないのであろうか。

 食べる事に、呪われた生き物である『人』。
 腐ったブドウからワインを作り、毒のある根のジャガイモを食べ、だだの菌であるキノコを食べる。
 美味しいものが食べたい、という欲求が抑えられないのであろう。

 ある偉人はこう言った

「新しいご馳走の発見は、人類の幸福にとって天体の発見以上のものである」

 本人達は絶対に思っていないし認めないだろうが、モンスターを食べ続ける彼女達は、もっとも幸福な生き方をしているのかもしれない。

 ふとしたことで異世界に転生してしまった不幸で不憫な妖精リリ。
 彼女の欲望にまみれた、楽しい楽しいサバイバル旅が、いま始まる!!
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