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11話、デザート対決(7)

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「ラーナ持っていってもらっていい?」
「はーい!」
「ソフィアとアンは自分で取りに来てね!」
「運んでくれてもいいじゃないか」
「イヴァに運ばせるのは不安なのよ」
「なんじゃとー!」

 リリは一皿、ラーナが三皿持ってクラウディア達へと渡す。

(あれ? クリスタがクラウディアの後ろの定位置に戻ってる、ちゃっかりしてるなぁ)

 二人はお皿を置くと、自分たちの席に戻る。

「雲のパンケーキです、どうぞ……」

 リリの声は微かに震えていた。

(かしこまって出すと、反応が怖いー、始めての素材だし、慣れない器具だし、無茶苦茶な要求だし……)

「大丈夫、かな?」

 リリは横にいるラーナにすら、聞こえないぐらい声量でボソッと不安を溢す。
 そして周りを見渡した。
 それぞれが一様に不思議そうな顔や不安そうな顔をしている。

(そりゃそうよね、生地はまだしも、見るからにサンドワームたっぷりだし、見たことない液体が掛かってるし)

 リリの不安を他所に、ラーナとソフィアだけは気にも留めず食べ始めた。

「いただきま~す」
「それじゃあ頂こうかな? ナイフとフォークが用意してあるということは、切って食ればいいのかいっ?」
「っえ、えぇ」

 ドギマギと答えるリリ。
 ラーナがさっそく大きく切った一口目を、口へと運ぶ。

「うっまー! フワフワだね、すっごく甘いね! 美味しい! 本当に雲を食べてるみたい、しあわせ~」

 ラーナは満面の笑みで頬張ると次も口へと運ぶ。
 フォークを手に持ったまま、ほっぺに手を添える仕草が、とても可愛らしい。

「へぇこうなるんだねぇ、生地はフワフワでモチモチだねっ、そこにサンドワームのプチプチと面白い! この香りは……」

 ソフィアも満足しているようだ。
 うんうんと頷きながら食べている。
 二人の反応を見て、ようやくクラウディアも口へと運ぶと、リリに聞いた。

「隠し味はニガヨモギ、ナツメグとコリアンダー。そしてこの一段と強めのフレーバーはシナモンですわね?」

 ベルモットの材料を当てたあたり、クラウディアはお酒にも詳しそうだ。

(お見事! まぁ隠しては無いんだけどっ!)

 リリが感心して驚いた顔を見せると、クラウディアは更に言葉を続けた。

「全体的に甘めに仕上げた生地とトッピング、この甘ったるさを締めるために、ベルモットを入れたんですね?」
「その通りです! 爽やかでいてスパイシーなベルモットは合うと思ったんですよー」
「あんなに砂糖を入れたら随分と甘いものになると思っていましたが……」

 クラウディアがトーンダウンする、なにか思うところがあったのだろう。

(クラウディア、そんなに私たちの作るとこ見てたの? 気づかなかったわ!)

「食前酒とデザートの組み合わせったぁ、なかなか粋な演出じゃないかい。あんた達はどう思う?」

 アンも軽く感想を述べると、クラウディア達へと質問をした。
 しかしディアナとエマは手を付ける気配すらない。

(あの二人、わたし達のこと嫌いすぎじゃない?)

 その横で夢中にパクパクと食べているクリスタは、口をナプキンで丁寧に拭き、喋りだした。

「そうですね、皆様がそれぞれ感想を言ってくださったので、クリスタが気になった点を二つお聞きしても?」

 勢いよく皿の中身を平らげてはいるクリスタ。
 しかし表情には笑顔一つ無く、リリは不安になった。
 リリをじーっと見るクリスタ。

(怖いってこの子、表情筋が仕事してないじゃない)

「どっどうぞ?」

 クリスタはフォークでお皿からアーモンドをすくい上げ食べ、無表情のまま質問を続けた。

「1つ目はこのアーモンドですが、なぜこのような香りになるのですか? アーモンドの香りだけではないようですが……」
「っあ、それはソフィアにもらった、サンドワームの肝油に浸したの!」

 リリの予想外の返答に、クラウディアたちが固まる。
 クリスタは目をパチクリとさせた後、すぐに続きを聞き出した。

「2つ目はこの奇っ怪な蜜です、こんな独特な甘さの蜜は始めて食べました」

 箇条書きのような感想。
 だが恐らくは事情を知らない、全員が思っていたことであろう。
 リリはこれもさらっと答えた。

「それはジャイアントスコーピオンの体液よ?」

 ガタガタッ!!

 リリの言葉を聞いて、ディアナとエマが立ち上がり罵声を放つ。

「この亜人共、クラウディア様になんてものを!」
「ついに、本性を表しましたわね!」

(っえ! なになに!?)

 豹変した二人、エマに至っては戦斧を構え臨戦態勢だ。
 リリは理解ができずに、ただただオロオロと体を振るのみだった。
 見かねたラーナが、声を上げる。

「こんなにおいしーのに、いらないの?」

(ラ、ラーナ!?)

「いらないなら、ボクが食べてあげるー!」

(助けてくれたの? いやっ違う、マジで食べたいだけだ)

 ラーナの言葉はいつもよりもルンルンと小躍りしている。
 聞いていたクラウディアは立ち上がる。
 そして、二人の皿を持ってリリとラーナの前に立った。
 リリの喉が、ゴクリと音を鳴らす。

(えぇ、なになになにー!)

「えぇどうぞ、わたくしの従者が失礼を働いたお詫びですわ」

 クラウディアはニコリと笑い、皿を置いた。
 喧嘩にならなかったことに、リリは胸を撫で下ろした。

「クラウディアお嬢様!?」
「こんな所で毒を盛るなんてこと、あり得ないわ」

(っあ! なるほど!)

 ジャイアントスコーピオンと聞いて、ディアナとエマは、毒と勘違いをしたらしい。
 まぁ普通に考えれば、無理もないだろう。

「亜人に常識なんて、分かるわけないじゃないですか!」
「エマ、あなた……」
「私に命じてください、この者たちを討伐しろと」
「冷静になりなさい! クリスタが毒味は済ませているのだから、あなた達がとやかく言うことではないわ」
「なんでこんな無表情で、クラウディア様に尊敬もないメイド風情がここまで……」

 エマはクリスタを軽く睨むと、席に座る。
 睨まれた本人は、素知らぬ顔でパンケーキを食べている。
 クラウディアも席へと戻った。

「失礼しましたわね」
「いえいえー」

(喧嘩っ早い護衛を連れて大変ねー、気持ちは分かる)

 リリは返事をしつつも同情した。

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