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連載
92話 新婚旅行
*****
ファンファンクラン領は、帝国では地方に位置する場所にあるが、周りは海と隣接し、陸から見える夕日の沈む景色は素晴らしいと絶賛される、知る人ぞ知る観光地ーーー。
残念ながら、近年、不出来な領主が領地を治めていたため、魔物の被害が多発し、人々の足が遠のいたが、新しくファンファンクラン子爵になったクラウド様は、ルーフェス公爵家とより良い関係を築きたいと、正式にルーフェス公爵家に仕えますと、跪き忠誠を誓った。
ルーフェス公爵家の力を得たファンファンクラン領は、魔物被害が激減し、安全にバカンスを過ごせるようになり、近い将来、人気の観光地になることは間違いない。
「わぁ……とても綺麗ですね」
船から見える海の景色に、思わず感動の声が漏れる。
「ルエルは海は初めて?」
「はい」
家族旅行なんて私だけ置いてけぼりは当たり前だったし、マルクス伯爵家に嫁いでからは仕事に追われてそんな余裕無かったし……ああ、でも、カイン達も私を置いて旅行に行っていましたね。『他人を連れて旅行に行っても楽しくない』でしたっけ。私が稼いだお金で旅行に行っていたくせに、本当に厚かましい一家でした。
ファンファンクラン領の観光の運営は、そのままクラウド様が引き継ぐことになったけど、視察も兼ねて、私とメトは一度、ファンファンクラン領に足を運ぶ形になった。
ーーーそしてその流れで、クラウド様が、私にとっての爆弾発言を投下した。
『お二人は新婚旅行がまだなのですよね?よろしければ、是非ファンファンクラン領を旅行先にお選び下さい。歓迎しますよ』
ーーーなんて、満面の笑顔を浮かべたクラウド様に言われてしまったのだ。
『おおーついに新婚旅行か!いよいよだなー!ファイト!』
『まぁ。良いですわね!海を見ながら愛を育むなんて素敵ですわ』
『まぁまぁまぁ。海ーいいわねー美味しいわよねー』
『いいなぁ。僕も一緒に行きたいなぁ』
『行ってらっしゃいッス!』
ラット、ベール様、フィーリン様、シャイン、ヴェルデにサンス。全員が心から賛同してくれて、私達は急遽、こうして新婚旅行(視察付き)に行く事になった。
新婚旅行に行く。
そう決定して真っ先に思ったことーーーそれはーーー心の準備期間、すっかり忘れてたーーー!!!!
メトが好き。自覚しました。認めました→覚悟出来てない→メトが新婚旅行まで準備期間をくれました→ファンファンクラン子爵問題が発生して、それどころじゃ無くなりました→急遽、新婚旅行に来ました。今、ここ!!
仕事や復讐で頭がいっぱいになると、恋愛が疎かになるタイプが私です!!なので、一切、心の準備が出来ないまま、こうして新婚旅行を迎えました。救いは、まだファンファンクラン領の視察という仕事があること。それが無かったら、今頃アワアワしてる。目が泳いでる!声が震えてる!メトを意識し過ぎて挙動不審になってる!!
初恋か!って自分で思う!こんなにドギマギして……初恋なの?!私、再婚なのに!!!
「……ルエル、面白い顔してるよ」
「え?!ほ、本当ですか?」
仕事のことを考えて平常心を保つように努力しているつもりなのですが、やっぱりこうして新婚旅行に来てしまうと、どうしても考えてしまう!
「期待してる?」
「き、期待?」
「別に初日から取って食ったりするつもりはなかったんだけど、そんなに期待してるなら、期待に応えてあげてもーー」
「してません!全くしてません!」
全力で否定するのもおかしいんだけど、慌てて否定する。
分かってますよ、新婚旅行ですもの!そうなってもおかしくない!てか、普通です!勿論、勿論、私はメトが好き……だし、嫌ではないです…けど……!
「冗談だったけど、即、否定されるのもムカつくね」
「ご、ごめんなさい」
言葉ではムカつく。なんて言っているけど、その顔は怒っているように見えない。寧ろ、機嫌が良さそうに見える。
……メトも……新婚旅行が楽しみ……で、いてくれてるのかしら?もしそうならーーー嬉しい。
船が岸に着くと、直ぐに見知った人物が手を振って私達を出迎えてくれた。
「お久しぶりです、ルーフェス様ーーいえ、メト様、ルエル様」
正式にファンファンクラン子爵を受け継いだクラウド様。
ーー私を窮地に追い込んだ張本人!!ーー
「調子はどう?クラウド」
「お陰様で順調です。メト様には、何から何まで助けて頂き、感謝してもしきれません」
魔物の襲撃にあい、多大な被害を受けたファンファンクラン領だが、ルーフェス公爵家から資金援助と、復興の為の人手も派遣され、ゆっくりと以前の姿に戻りつつあった。
「それに、父のことも……重ね重ね、父がご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございません」
「?元・ファンファンクラン子爵が、また何かしたのですかーー?」
「構わない。今後、借りは返してもらう」
意味が分からず尋ねてみるも、メトは華麗に私の問いを無視した。ほう……私には聞かせたくない。と。
「…ああ、了解しました」
クラウド様も、メトの意思を汲み取りましたね。これでは、クラウド様からも聞き出すのは不可能。
いいですよ、別に。私は空気が読めますから、聞かないことにします。きっと、私が知らなくてもいい話なのでしょう。
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