貧乏男爵令嬢のシンデレラストーリー

光子

文字の大きさ
1 / 26

1話 プロローグ

しおりを挟む
 


 私の家は、貧乏な男爵家だった。
 ツギハギだらけの服、履き潰した靴、穴の空いた靴下、一日一食しか出ない食事……でも、私は優しい義両親と、笑顔の可愛い義弟に囲まれて、幸せだった。


 ――――たとえ、家の為に働きに出ている勤め先で、どんな理不尽な目に合おうと、私は家族のために一生懸命働いていた。


「あはは。ごめんなさぁいキアナ。手が滑っちゃったの」

 ポタポタと滴り落ちる雫。
 私が仕えるミルドレッド侯爵家のご令嬢であるアシュリーお嬢様は、私の顔に、何をどう滑ったのか、コップに入った水をぶちまけた。

「怒りました?」
「……いえ、滅相もありません」
「本当にごめんなさい。キアナが怒っていなくて良かったぁ。あ、でもぉ、貧乏で働きにでるしかない男爵令嬢は、私に逆らってお金が貰えなくなったら大変ですから、怒りたくても怒れませんよね」

「……」

 貧乏でも、私は胸を張って生きていたし、こんな私の傍にいてくれる、大切な幼馴染のマックスもいた。
 彼は私を貧乏だからと見下さず、ずっと、私と仲良くしてくれていた。
 彼が騎士になった時には、一緒になって喜んだ。
 王宮の騎士になるのはとても名誉なことで、少し、手の届かない存在になったことを悲しくも思ったけど、彼が幸せになるなら応援しようと、例え、私の想いが届かなくても、幼馴染の友人でいれるなら、それでいいと思った。

 それなのに、彼は『キアナに虐められている』と言うアシュリーお嬢様の言い分を信じて、私を強く非難した。

「嘘をつくな!自分の家が貧乏な男爵家だからと、お金持ちの侯爵令嬢であるアシュリーが妬ましくなったんだろ!恥を知れ!」

 ……酷いよ、マックス。
 私と過ごして来た時間は一体なんだったの?私よりも、アシュリーお嬢様を信じるの?アシュリーお嬢様を……好きになったの?


 貧乏でも、不幸だと思ったことなんて無い。
 本当の両親を失い、孤独になった私を引き取ってくれた優しい義両親や義弟に囲まれて、私は幸せ。だけど……ほんの少しだけ、悔しいと……思ってしまった。

 あの人達を見返したい……誰か、助けて欲しい。なんて、思ってしまったの。



 まさかその願いが、現実に叶うとは思いもしなかったのに――




「ごきげんよう、アシュリーお嬢様……いえ、ミルドレッド侯爵令嬢、アシュリー様」

 ツギハギだらけの服、履き潰した靴、穴の空いた靴下とは違う、いかにも高級で綺麗なドレスは、私だけに作られた一点もの。シンデレラのガラスの靴のような光輝く靴に、身につけるのはどれも希少で珍しい宝石達で作られたアクセサリー。

 いつもと違う私の装いを見たアシュリー様は、目を丸くして、体を震わせていた。

「な……なんなんですか、その格好は……!どうして、キアナが……貴女なんて、ただの、貧乏男爵令嬢だったのに―――!」

 そうですね。以前までの私は、確かに貧乏男爵令嬢でした。
 お金の為に務めていたミルドレッド侯爵家では、私を貧乏男爵令嬢と見下し、陰湿な嫌がらせを沢山されたものです。アシュリーお嬢様にも、水を頭からかけられたり、熱湯をかけられそうになったり、服を切られたり……私の好きな人に、ありもしない話を吹き込んで、私から奪ったり。
 悪気が無いフリをしながら、私を攻撃する。

 確か、貧乏人は住む世界が違うんでしたっけ?身分の高い自分に従うのは当然とも言っていましたよね。
 その理屈で言うと、今度は貴女が私に従うべきですね。


「今日ここに、我が息子フィンと、エメラルド公爵令嬢キアナとの婚約を発表する!」

「嘘……フィン殿下と……婚約?!」


「キアナが公爵令嬢……!」

 私の昔の友人マックスに、私を散々見下していたアシュリーお嬢様。
 貧乏な男爵令嬢は、エメラルド公爵令嬢、そして、第二王子であるフィン殿下の婚約者になって、貴方達とは住む世界が違ってしまいました。
 どうぞ、私には二度と関わらないで下さい。

 そして――――罪を認め、心から反省して下さい。


 私はこのまま、華麗なシンデレラストーリーを歩んでいきます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾
恋愛
「魔法の無駄遣いだ」 そう言われて婚約を破棄され、南方の辺境へ追放された元・聖女エオリア。 けれど本人は、まったく気にしていなかった。 暑いならエアコン魔法を使えばいい。 甘いものが食べたいなら、全自動チョコレート製造魔法を組めばいい。 一つをゆっくり味わっている間に、なぜか大量にできてしまうけれど―― 余った分は、捨てずに売ればいいだけの話。 働く気はない。 評価されても困る。 世界を変えるつもりもない。 彼女が望むのは、ただひとつ。 自分が快適に、美味しいものを食べて暮らすこと。 その結果―― 勝手に広まるスイーツブーム。 静かに進む元婚約者の没落。 評価だけが上がっていく謎の現象。 それでもエオリアは今日も通常運転。 「魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ」 頑張らない。 反省しない。 成長もしない。 それでも最後まで勝ち続ける、 アルファポリス女子読者向け“怠惰ざまぁ”スイーツファンタジー。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...