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34話 帰宅
強がってみせてるけど、ずっと口の中は痛い、血が止まらない、ズキズキする。でも、こんな怪我の一つや二つで地獄に落とせるなら、いくらでもしてあげる。
「ふふ、大丈夫って声をかけてくれたのはヘルシアだけね。ありがとう」
最後まで離婚はしたくない、融資は続けて欲しい、と謝罪の言葉を口にしていたが、私の怪我を心配する人は、グラスウール伯爵家には誰もいなかった。彼等が気にかけているのは、カスターニア子爵家からのお金だけ。分かってる、今更、この程度で傷付いたりしない。
「いっそ清々しくて、思う存分、地獄に落とせるわ」
止まらない血を拭いながら、再度、復讐を違う。私の全てを懸けて、地獄に落としてやる。
◇
「久しぶりだね、イリア」
「……お久しぶりです、ケント様」
ケント様のところへ通わなくなって一か月。久しぶりにガルドルシア公爵家の研究所に来たけど、ケント様は変わらずに私を迎えてくれた。
いつも殺伐とした気の休まらない空間にいるから、やっぱりここに来ると、ホッとしてまう。
「イリア、怪我してるのか!?」
「あ、はい。ケント様には、この怪我の診断書も書いて頂ければと思いまして」
「……怪我をさせられたのか?」
「はい」
「――あいつ等――」
静かに怒るケント様。ひとたびグラスウール伯爵家を離れたら、こうして私のために怒ってくれたり心配してくれる人がいて、心配をかけて申し訳ない反面、嬉しいとも思う。
「痛みはどう?」
「ケント様のおかげで、大分楽になりました」
私の怪我は思っていたよりも深く、縫うほどの大怪我だったが、ケント様は丁寧に治療して下さった。暫くは痛みが残るけど、綺麗に治るとのこと。
「次からは怪我をしないように」
「――はい」
事の経緯を話す過程で自分から怪我を負ったことを話すと、ケント様は眉をひそめた。
ケント様の言葉に頷いたけど、ごめんなさい。きっと、また同じようなことがあったら、私はまた口に入れると思う。
「イリアはこれからカスターニア子爵家に帰るのか?」
「はい、あの人達にはもう言っても無駄だと思いますから、行動で示すことにしました」
この期に及んで私よりもアイラを優先するなんて、馬鹿げてる。
「そっか、丁度良かった」
「丁度良かった?」
「僕もカスターニア子爵家――グレイブに用があるんだ。一緒に帰ろうか、送るよ」
「え」
ケント様とわざと距離を置いていたのに、一緒に帰る?
「何か不都合がある? まさか、最近姿を見せなかったのは、意図的に僕を避けてたとかじゃないよね?」
「ち、違います!」
「なら問題ないな」
慌てて否定したけど、勘の良いケント様のことだから、私が避けていたことに気付いているんだろう。頼っていて避けるなんて、身勝手だと自分で思う。
「行こう、イリア」
「……はい」
差し出された手も向けられた笑顔も、いつもと何も変わらない。心優しくて頼りがいのあるケント様。
復讐がなければ、避けようとは絶対に思わない。でも復讐がなければ、出会うこともなかった。二度目の人生でケント様と出会えたことは、不幸中の幸運。この手を取ったことを後悔しても、出会わなければ良かったとは、絶対に思わない。
◇
カスターニア領――
久しぶりに戻って来たカスターニア領は見違えるほどの進化を遂げていて、ボロボロだった診療所や学校も綺麗に建て直され、作物が育たなかった広大な畑も、ヤツリグサ草を除去したことで本来の実りあるものに変化を遂げていた。
「わぁ……凄い」
生まれ変わった故郷の姿に、思わず歓喜の声が漏れる。
「グレイブは想像以上に優秀だよ、前カスターニア男爵も持ち前の人の良さから領民達の人望が厚いし、領民達と協力してグレイブの力になっているよ」
最大の変化は、作物の他に、薬草の栽培や近隣の森林に生えている薬草の採取など、新たな事業が産まれたことだろう。心なしか領民達の顔にも活気が見られて、これがお父様と、新しくカスターニア子爵家当主となったグレイブ兄様の功績だと思ったら、何だか誇らしい。
「イリア、どうしたんだ!?」
「ただいま、グレイブ兄様」
カスターニア子爵邸に到着し馬車から降りると、すぐにグレイブ兄様と出くわした。
ケント様の姿に驚いた素振りが無かったから、ケント様が仰っていた通り、グレイブ兄様に用があったのは本当だったんだろう。
「エルビス様に何かされたのか!? 離婚か!? やっと離婚か!? 速攻離婚しよう! すぐに手配するからな!」
「グレイブ兄様! 落ち着いて下さい!」
勢いが激し過ぎて怖い!
「まだあの最低男と離婚しないのか!? イリアの男を見る目は正気か!? あんな男のどこがいいんだ!?」
耳が痛い! 一度目の人生の私に聞いて下さい!
エルビス様がどれだけ最低なのか、私の男を見る目がどれだけないかを怒涛の勢いで話し終えたグレイブ兄様は、やっと正気に戻り、体裁を取り戻すように咳払いをした。いや、もう無理だよ! ケント様の前で激しく取り乱してたから!
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