死に戻り令嬢は愛ではなく復讐を誓う

光子

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35話 拒絶

 

「――失礼しました、ケント様」

「お気になさらず」

 いや、少しは気にした方が良いと思いますよ。カスターニア子爵邸に着いてから三十分、屋敷の中に通されることもなく、私とグレイブ兄様のいざこざを見せられたんですよ? 今さら、応接室に通されて良いお茶や茶菓子を出されたとしても、ケント様は文句の一つや二つ言った方が良いと思う。

「それで? グラスウール伯爵家への援助を止めて欲しい、と?」

「うん」

「それは勿論、離婚を視野に入れていると考えていいんだな?」

「……ええ」

「そうか……分かった! すぐに手配する!」

 事の経緯を話すと、グレイブ兄様は喜んでグラスウール伯爵家の融資の停止や、私の離婚の準備まで手配しに外に出た。心から私とエルビス様との離婚を望んでいたんだろうな。
 グラスウール伯爵家は今、カスターニア子爵家の融資で賄っているから、融資が止まれば大打撃になる。それに、少し持ち直した信頼も、私がいなくなりカスターニア子爵家から見放されたとなれば、また地に落ちることになるだろう。
 私がいなくなれば、彼等はその身を持って体感する。

(エルビスの部屋に入ることも出来たけど、結局、毒らしき物は見当たらなかった)

 屋敷の至る所を探索したつもりだけど、見つからない。屋敷の中にはない? だとしたら――毒を持っているのは、アイラ?

 暫く実家にお世話になることが決まったので、少ない荷物はヘルシアが部屋に運んでくれた。
 私の部屋は、結婚後もいつ帰ってきてもいいように残してくれていて、定期的に掃除もされていて埃もなく、ベッドも綺麗にメイキングされていた。

(……懐かしい)

 平和だけど、どこか退屈だと感じていた日常が、今は恋しくて懐かしい。
 何も知らないあの頃に戻れたら――いいえ、戻れても結局はエルビス様に騙され、子供を奪われて殺されるだけ。何も知らない頃には戻れない、永遠に。許せない、絶対に地獄に落としてやる。

 私が生き戻ったのは、復讐するためだ。

 その為には、私の全てを懸けてもいいと思った。幸せにならなくていい、未来がなくてもいい。私の命を懸けても、彼等を地獄に落とす。
 私と離婚することになれば、あの人達は何か行動を起こすと思った――――

 ◇

「イリア、お願いだ! 離婚は考え直してくれ!」

 数日後、思ったよりも早く根を上げたエルビス様とお義母様とお義父様、婚家の皆様は、私を連れ戻すためにカスターニア子爵邸に来た。

「私よりもアイラを選んだくせに、よくそんな世迷い事が言えるわね。絶対にお断りよ」

「選んだなんてそんな……ただ俺は、アイラとも仲良くして欲しいと思っただけで」

「仲良く? 貴方の浮気相手と私が仲良くなれると、本気で思ってるの?」

 否定する前に、今まで集めた不貞の証拠を見せつけるようにその場にばら撒いた。

「こ、これは……!」

「結婚式の日にも浮気してるとか、私を馬鹿にし過ぎじゃない?」

「イ、イリア! 夫の浮気の一つや二つ見逃すのが、本妻の器のでかさだぞ!」
「そうよ、イリアさん!」

 磯巾着のように引っ付いてきたお義父様とお義母様がここぞとばかりに援助するけど、完全に逆効果。

「前グラスウール伯爵と夫人は、妹を馬鹿にしてるんですか!?」

 同席していたお兄様が強く睨み付けると、二人はすぐに黙り込んだ。
 今や立場が逆転し、優位になっているカスターニア子爵に逆らうのは愚の骨頂だと、流石に理解しているんだろう。

「こ、これはその……」

 言い訳出来ないでしょ? 結婚した日から今日まで、徹底的に不倫の証拠を集めたもの。

「離婚の手筈はお兄様と、ケント様も協力して進めてくれています」

「ガルドルシア公爵様も……!」

「覆すのは不可能だと思いますよ」

 この国の貴族の離婚は明確な理由が必要とされているが、不貞はその理由に当てはまる。これは貴族間の血筋を重視するこの国ならではで、不貞により貴族の血が外に出るのを防ぐためでもある。
 離婚の理由は完璧、複雑な手続きも、ケント様の力を使えば容易いだろう。

「ま、待ってくれ! 本当に愛してるのは君だけなんだ!」

「愛してる? 私が子供を産んだら取り上げて、その女と仲良く家族ごっこをしようとしてたのに? 笑わせないで」

「ど、どうしてそれを――」

 愚かなエルビス様。二度も、同じ手が成功すると思わないで。

「エルビスとアイラには慰謝料を請求するし、グラスウール伯爵家に融資していたお金も全額返金して頂きます」

「そんなっ、お願いだイリア! 許してくれ!」

「下賤な女に触れた手で私に触らないでくれる? 私が貴方に触れられるたび、どれだけ気持ち悪かったか分かる?」

 縋るように掴む手を、冷たく払い除ける。
 今まで我慢して触れられていたから、こうしてハッキリと拒絶することが出来て、清々するわ。

「話は終わりよ、帰って。今度は離婚届けに署名する時に会いましょう」

 大嫌いなエルビス様に、お義父様にお義母様。
 散々見下していた私に拒絶される気分はいかが? プライドだけは無駄に高い貴方達には、許せないでしょう?

 

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