3 / 28
3話 二度と家族と思わない
「お父様! どういうことですか!?」
すぐに私は、お父様がいる執務室に駆け込んだ。
お父様にこうして自分から話しかけにいくのはとても久しぶりだが、案の定、お父様は露骨に不愉快な表情を浮かべた。
「無駄に部屋を放置するより、可愛い娘の為に使った方が有意義だろう」
「あの部屋はお母様の部屋なんです! お母様との思い出が沢山詰まった、大切な――」
「いつまでもいなくなった者にしがみつくな!」
「っ! 痛……!」
強く私の頬を叩くお父様。
「いいか! お前をまだこの家に置いてやっているのは、インテレクト公爵家との約束のためだ! お前がインテレクト公爵の婚約者でなければ、とっくの昔に家から叩き出してやっていた!」
ローズリカ子爵家とインテレクト公爵家の間には、昔、傾きかけたローズリカ子爵家の財政を助けて貰った恩を返す名目で、娘を一人、インテレクト公爵家に嫁がせる約束があり、その白羽の矢が刺さったのが、私だった。
「……っ、私は、インテレクト公爵様との結婚なんて望んでいません。公爵様との結婚なら、それこそリシャルに譲れば如何ですか? 公爵様との結婚なんて、とても名誉なことでしょう?」
「それが出来るならそうしている。だが、インテレクト公爵は社交界でも有名な、冷酷非情な血の公爵と呼ばれている魔法使いだ。そんな危険な男に、大切な娘を嫁にやれんよ。それに、リシャルにはゼロと結婚して、この家を継いでもらわなければならんからな」
「……私を家族の邪魔者扱いしておきながら、リシャルのために、ローズリカ子爵家の長女として、インテレクト公爵様に嫁がせるんですか? 私はただ……義妹の身代わりのためだけに、ここに置いておかれたんですか?」
「そうだ、お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか、無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」
「そんな……」
私には幸せを諦めさせておいて、リシャルには、幸せな結婚をさせるというの?
「どうせお前が結婚してここから出て行けば、あの部屋は処分するつもりだったんだから、時期が少し早まったにすぎん」
お父様がお母様の部屋を残してくれていたのは、少しでも、お母様に愛情があったからだと思っていた。でも違う、そんなもの、初めから無かったんだ。ただ、私をここに縛り付けておくためだけに残しておいただけだった。
「思ったよりも早い段階でゼロとリシャルの婚姻がまとまったからな。お前も、形だけでも姉なのだから、可愛い妹の結婚祝いに、死んだ女の部屋くらい喜んで明け渡せ!」
――結局、私の願いはお父様に聞き入れられず、その日の内には、お母様の部屋にあった物は跡形もなく無くなり、リシャルとゼロが新婚生活を送るための新しい家具が運び込まれた。
「うう、お母様……お母様の物、全部、無くなっちゃたよ……!」
お母様の物は、全て捨てられた。
お母様の物を部屋の物を外に持ち出すのは禁止されていたから、部屋が無くなった私には、何一つお母様の遺品は手元に残らなかった。これも全て、私が悲しむことを計算してなの? 私が絶望すると分かっていて、わざと、持ち出しを禁止していたの?
家のために結婚して出て行く私に、お母様の遺品の一つも持ち出すことを許さなかったの?
酷い。
私だって貴族の娘に産まれたからには、政略結婚は覚悟していたし、インテレクト公爵様との結婚を了承していた。でも、それは全て、リシャルのためなのでしょう? リシャルの身代わりの花嫁になるために、今まで私をローズリカ子爵家に置いておいたのでしょう? リシャルのためだけに――
「嫌……そんなの、絶対に嫌!」
私を家族じゃないと言うなら、お父様の娘として、リシャルが、インテレクト公爵家に嫁げばいい。リシャルの身代わりの花嫁なんて死んでも嫌!
ただ私を妹の身代わりのためだけにこの家に縛り付けたお父様も、冷たい暴言を吐き捨てるお義母様も、私を嘲笑う義妹も、もう、家族じゃない。二度と家族と思わない。
「お父様達の思い通りになってたまるもんか……! そんなことになるくらいなら、私から家を出て行ってあげる……!」
行く宛なんてどこにもないけど、それでも、お父様達の思い通りになるよりマシ。
自室に戻り、勢いのまま大きめの鞄に少ない荷物をまとめようとしたけど、ふと、気掛かりなことを思い付いた。
もし、私がいなくなっても、私がインテレクト公爵様の婚約者のままだったら? インテレクト公爵家の力を持ってすれば、私を捜し出すことくらい、容易にやってしまえるかもしれない。そうなれば、私は連れ戻されてしまう。
「……直接お話して、私ではなくリシャルを婚約者に変えてもらえないかしら……」
お父様は気付かれていないと思っているけど、リシャルが私の異母姉妹だというのは、もう知っている。
お父様はずっと、お母様に隠れてお義母様と不貞を働いていた。その時に出来た子供がリシャルで、お母様の死後、養女としてローズリカ子爵家に迎え入れた。ずっと、私達を裏切っていたお父様――
お父様の血を引くのなら、私の代わりにローズリカ子爵家の娘として妹のリシャルがインテレクト公爵様に嫁いでも、何も問題が無いはずだ。
あなたにおすすめの小説
ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。
そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。
そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。
彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。
ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。
それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。