妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子

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3話 二度と家族と思わない

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「お父様! どういうことですか!?」

 すぐに私は、お父様がいる執務室に駆け込んだ。
 お父様にこうして自分から話しかけにいくのはとても久しぶりだが、案の定、お父様は露骨に不愉快な表情を浮かべた。

「無駄に部屋を放置するより、可愛い娘の為に使った方が有意義だろう」
「あの部屋はお母様の部屋なんです! お母様との思い出が沢山詰まった、大切な――」
「いつまでもいなくなった者にしがみつくな!」 
「っ! 痛……!」

 強く私の頬を叩くお父様。

「いいか! お前をまだこの家に置いてやっているのは、インテレクト公爵家との約束のためだ! お前がインテレクト公爵の婚約者でなければ、とっくの昔に家から叩き出してやっていた!」

 ローズリカ子爵家とインテレクト公爵家の間には、昔、傾きかけたローズリカ子爵家の財政を助けて貰った恩を返す名目で、娘を一人、インテレクト公爵家に嫁がせる約束があり、その白羽の矢が刺さったのが、私だった。

「……っ、私は、インテレクト公爵様との結婚なんて望んでいません。公爵様との結婚なら、それこそリシャルに譲れば如何ですか? 公爵様との結婚なんて、とても名誉なことでしょう?」

「それが出来るならそうしている。だが、インテレクト公爵は社交界でも有名な、冷酷非情な血の公爵と呼ばれている魔法使いだ。そんな危険な男に、大切な娘を嫁にやれんよ。それに、リシャルにはゼロと結婚して、この家を継いでもらわなければならんからな」

「……私を家族の邪魔者扱いしておきながら、リシャルのために、ローズリカ子爵家の長女として、インテレクト公爵様に嫁がせるんですか? 私はただ……義妹の身代わりのためだけに、ここに置いておかれたんですか?」

「そうだ、お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか、無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」

「そんな……」

 私には幸せを諦めさせておいて、リシャルには、幸せな結婚をさせるというの?

「どうせお前が結婚してここから出て行けば、あの部屋は処分するつもりだったんだから、時期が少し早まったにすぎん」

 お父様がお母様の部屋を残してくれていたのは、少しでも、お母様に愛情があったからだと思っていた。でも違う、そんなもの、初めから無かったんだ。ただ、私をここに縛り付けておくためだけに残しておいただけだった。

「思ったよりも早い段階でゼロとリシャルの婚姻がまとまったからな。お前も、形だけでも姉なのだから、可愛い妹の結婚祝いに、死んだ女の部屋くらい喜んで明け渡せ!」

 ――結局、私の願いはお父様に聞き入れられず、その日の内には、お母様の部屋にあった物は跡形もなく無くなり、リシャルとゼロが新婚生活を送るための新しい家具が運び込まれた。

「うう、お母様……お母様の物、全部、無くなっちゃたよ……!」

 お母様の物は、全て捨てられた。

 お母様の物を部屋の物を外に持ち出すのは禁止されていたから、部屋が無くなった私には、何一つお母様の遺品は手元に残らなかった。これも全て、私が悲しむことを計算してなの? 私が絶望すると分かっていて、わざと、持ち出しを禁止していたの?
 家のために結婚して出て行く私に、お母様の遺品の一つも持ち出すことを許さなかったの?

 酷い。

 私だって貴族の娘に産まれたからには、政略結婚は覚悟していたし、インテレクト公爵様との結婚を了承していた。でも、それは全て、リシャルのためなのでしょう? リシャルの身代わりの花嫁になるために、今まで私をローズリカ子爵家に置いておいたのでしょう? リシャルのためだけに――

「嫌……そんなの、絶対に嫌!」

 私を家族じゃないと言うなら、お父様の娘として、リシャルが、インテレクト公爵家に嫁げばいい。リシャルの身代わりの花嫁なんて死んでも嫌!
 ただ私を妹の身代わりのためだけにこの家に縛り付けたお父様も、冷たい暴言を吐き捨てるお義母様も、私を嘲笑う義妹も、もう、家族じゃない。

「お父様達の思い通りになってたまるもんか……! そんなことになるくらいなら、私から家を出て行ってあげる……!」

 行く宛なんてどこにもないけど、それでも、お父様達の思い通りになるよりマシ。

 自室に戻り、勢いのまま大きめの鞄に少ない荷物をまとめようとしたけど、ふと、気掛かりなことを思い付いた。
 もし、私がいなくなっても、私がインテレクト公爵様の婚約者のままだったら? インテレクト公爵家の力を持ってすれば、私を捜し出すことくらい、容易にやってしまえるかもしれない。そうなれば、私は連れ戻されてしまう。

「……直接お話して、私ではなくリシャルを婚約者に変えてもらえないかしら……」

 お父様は気付かれていないと思っているけど、リシャルが私の異母姉妹だというのは、もう知っている。
 お父様はずっと、お母様に隠れてお義母様と不貞を働いていた。その時に出来た子供がリシャルで、お母様の死後、養女としてローズリカ子爵家に迎え入れた。ずっと、私達を裏切っていたお父様――

 お父様の血を引くのなら、私の代わりにローズリカ子爵家の娘としてのリシャルがインテレクト公爵様に嫁いでも、何も問題が無いはずだ。

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