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5話 アクト様
「――お待たせしました」
「っ!」
冷酷非情、血の公爵なんて呼ばれているから、どんな怖い人が来るのかと、ドキドキしていた。
「アクト=インテレクトです。ようこそ、婚約者様」
透き通るような青い瞳――見つめられるだけで射貫かれてしまいそうな鋭い瞳だけど、想像していたのとは全く違う。綺麗な銀の髪に細身の体。もしかしなくても、とてつもなく格好良い人なんじゃ……! 思わず見惚れてしまう。どうしてこんな人が、ローズリカ子爵家の娘との婚姻を望んだの? いくら冷酷非情な血の公爵と言われていようと、アクト様なら選り取り見取りでしょうに!
「ローズリカ子爵令嬢?」
「あ……は、初めまして、セルフィ=ローズリカです。お会い出来て光栄です」
「…………どうも、で、ご用件は何でしょう? 急にお願いがあると尋ねて来られて、こう見えて驚いているんですよ」
「!」
そうだ、私は、アクト様との婚約を破談にしてもらうために、ここに来た。
アクト様がどうであれ、アクト様と結婚すれば、結果的にリシャルの身代わりで結婚したことになる、そんなの嫌。
私はもう二度と、あの人達を家族だとは思わない。あの人達を助けたりしない。
「お願いがありますアクト様…………私との婚約を破棄して下さい」
だからこれは、私がする、お父様達への最初の反抗。私は身代わりの花嫁になんてならない、アクト様の婚約者を、止める。
「……それはそれは、予想だにしなかったお話です」
私の発言に、場の空気が一瞬で凍り付いたのが分かった。
これで怒りを買い、例え首をはねられたとしても、後悔はない。私がいなくなれば、きっと私の代わりにリシャルが嫁ぐことになるでしょう。私の死の代償に、いつ首をはねられるか分からない恐怖の中で生きていけばいい。
「この婚約が家同士の約束であることは、貴女も重々承知していたと思うのですが?」
「はい、勿論です。ですから、公爵であるアクト様の方から、子爵であるお父様に婚約破棄を告げて欲しいのです。そして、今度はリシャルに婚約を打診して下さい」
婚約者にも関わらず、私達がこうして面と向かって会うのは、婚約破棄をお願いする今日が初めて。それくらい、私達はお互いに興味が無く、初めから愛なんてなかった。ローズリカ子爵家の娘との婚約を望むのなら、相手が妹でも構わないはずだ。
「わざわざ結婚前に会いに来るから何の用かと思えば、馬鹿らしい。他に好きな男でも出来ましたか? それなら結婚後、隠れて交際を続けてもらって構いません」
「違います、そんなんじゃありません!」
「では何故ですか? 今までは納得されていたでしょう?」
「……私ではアクト様に相応しくありません、私は、お父様の……ローズリカ子爵の娘ではありません」
「娘ではない?」
私はもうお父様の娘であることを止めた。
偽物の家族のために、妹の身代わりの花嫁になんてなりたくない。私がいなくなって、リシャルの婚約だって滅茶苦茶になってしまえばいい!
「残念ですが、俺は、貴女以外と婚約する気はありません」
「どうしてですか? ローズリカ子爵家の娘との婚姻なら、リシャルでも問題が無いはずです!」
「貴女がローズリカ子爵の娘ではないと言われる根拠がよく分かりませんが、俺の婚約者は貴女だけです」
取り付く島もなく、拒否される。
どうして? 家では家族として認めてもらえなくて、辛くて悲しい思いをしているのに、どうして、婚約破棄は認めてもらえないの? 私は――ローズリカ子爵家の家族じゃないの、あの人達は全員、他人なの。なのに、ローズリカ子爵家の娘として、政略結婚の道具にされるの? リシャルの……身代わりの花嫁になるしかないの?
「……っぅ」
「! 何故、泣いて……」
「諦めません、また、お願いに来ます。だから――」
――私との婚約を破棄して、リシャルと婚約して下さい。
最後の言葉は、とてもとても小さく、涙と一緒に出た掠れた声だった。なんて身勝手なお願いだろう。でも、殺されてもいい、そう思うまで、私の心は追い詰められていた。
涙を隠すことも拭うこともせず、立ち上がり一礼し、逃げるようにこの場を去った。
「……クロード、ローズリカ子爵家でのセルフィの様子を調べておけ」
「かしこまりました」
アクトは先程までセルフィがいた場所を見つめながら、クロードに命じた。
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