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8話 婚約の利点
***
「体は大丈夫ですか? ローズリカ子爵令嬢」
「はい、アクト様がかけて下さった癒しの魔法のおかげで、痛みはありません」
アクト様が乗ってきた馬車に乗り込み、インテレクト公爵邸に着くと、アクト様は私をいつもの応接室に通した。
「助けて頂いてありがとうございました、アクト様。アクト様が来なければ、私はあのまま、結婚まで監禁されていたでしょう」
「サラリと惨いことを言いますね」
「事実です」
私を家族の邪魔者だと厄介者扱いしていたお父様なら、家のために、お金のために、愛するリシャルのために、それくらい平然とする。
「まさか貴女がそんな扱いを受けているとは知りませんでした。こちらこそ謝罪します、気付くのが遅れて申し訳ありませんでした」
「アクト様が謝ることではありません」
「いいえ、貴女の婚約者なのですから、助けるのは当然です」
「……あの、どうしてですか?」
「どうしてとは?」
「その……今まで一度も、会いに来られたこともないのに」
アクト様は私に興味が無いから、会いにも来ない。正直、私もお父様達と同じことを思っていた。それなのに、こうして私を助けに来てくれて、困惑している。
「会いに行かなかったのはすみません、仕事が忙しかったこともですが、結婚後は嫌でも会えるのだから、無理に会う必要は無いと思っていました。会いたければ、そちらから来られるだろう、と」
「そう……ですか」
公爵家にこちらから会いに行くのは中々勇気がいるものですし、普通は、男性の方からお誘いが来るものなんですよ、とか、普通の婚約者同士は、結婚前も会って会話をして、親交を深めていくものだと思います。とは、口に出さずに飲み込んだ。
「手紙は? 私、アクト様に一度、手紙を書いたのですが」
「手紙? ローズリカ子爵令嬢から手紙が届いたことはありません」
「……そうですか」
手紙は、家の使用人に出して欲しいとお願いした。きっと、リシャルあたりが嫌がらせ目的で使用人に命じて、出す前に破棄させたのでしょう。
それをそのまま、手紙の返事が無かったことが、アクト様の答えだと受け取ってしまった。
「だから私が会いに行った時は、快くお会いして下さったんですね」
「ええ、あれ以降、仕事が立て込んでいてお会い出来ずにいましたが」
……確かに会えなかったけど、インテレクト公爵邸に行けば必ず、今みたいに温かいお茶や、高級そうなお茶菓子を出して迎え入れてくれた。彼の言葉に嘘は無い、私を避けてはいなかった。
「婚約者である貴女に興味が無いわけではありません。寧ろ、これから色々なことを知っていきたいと思っていますよ。折角、婚約者になったのですから」
「……アクト様……」
こんな風に人に想われるのは、いつぶりだろう。こんな風に誰かに守られるのは――いつぶりだろう。
「貴女の様子がおかしかったので、クロード――執事に頼んでローズリカ子爵家のことを調べさせたら、なにやら不穏な様子があると耳にしたので会いに行ったのですが、正解でしたね」
「感謝しています」
「いえいえ、ところで、お話と言うのは? まさかまた、婚約破棄の件ですか?」
「あ……」
そうだ、私、アクト様に婚約破棄をお願いしていたんだ。
「貴女が俺との婚約を破棄したい理由は、何となく理解しました。ですが、俺は貴女と婚約破棄をするつもりはありません。なので、俺との婚約の利点を提示しようと思います」
「利点?」
「一つ、インテレクト公爵家と皇室魔法騎士団長である俺の全ての力を持って、盾となり貴女を守ることを誓いましょう。二つ、それらの力を使い、剣となって貴女のために戦うことを誓います。三つ、偽物の家族の不幸を望むのでしたら、全力で力をお貸します。四つ――」
「ま、待って下さい!」
聞き間違いであって欲しいような、破格の利点に聞こえる。
「どうして、私との婚約をそこまで望まれるのですか? 自分で言うのも何ですが、私との結婚が対価になるとは思えません」
私はただのローズリカ子爵令嬢であり、魔法も使えない、どこにでもいる一般的な令嬢だ。しかも、家族に邪魔者扱いされている、問題のある令嬢。そんな私にアクト様が婚姻を望まれる理由が分からない!
「知っての通り、俺は冷酷非情、血の公爵と噂されている男です。貴女との婚約を逃したら、別の婚約者が見付かるとは限らないでしょう?」
「それは皆さんがアクト様を誤解しているからです。きちんとアクト様とお会いすれば、誤解は解けます」
アクト様の普段のご様子は知らないけど、今、ここにいる彼は、冷酷非情な冷たい人には見えない――――婚約者を放置するような人だけど、きっと、悪気はない。
聞いたところ、社交界にあまり出られていないようだし、社交界に出たら、一瞬で評価が覆ると思う。現に、リシャルのアクト様を見る目は、キラキラ輝いていた。
「俺の事を過大評価し過ぎですよ」
「そんなことありません! こんなにアクト様はお優しいのですから、冷酷非情なんて言われるのはおかしいです! ……そう思いますよね?」
傍に控えていた執事のクロードさんに同意を求めてみたのだが、満面の笑みが返ってくるだけで、返事はなかった。
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