8 / 28
8話 婚約の利点
しおりを挟む***
「体は大丈夫ですか? ローズリカ子爵令嬢」
「はい、アクト様がかけて下さった癒しの魔法のおかげで、痛みはありません」
アクト様が乗ってきた馬車に乗り込み、インテレクト公爵邸に着くと、アクト様は私をいつもの応接室に通した。
「助けて頂いてありがとうございました、アクト様。アクト様が来なければ、私はあのまま、結婚まで監禁されていたでしょう」
「サラリと惨いことを言いますね」
「事実です」
私を家族の邪魔者だと厄介者扱いしていたお父様なら、家のために、お金のために、愛するリシャルのために、それくらい平然とする。
「まさか貴女がそんな扱いを受けているとは知りませんでした。こちらこそ謝罪します、気付くのが遅れて申し訳ありませんでした」
「アクト様が謝ることではありません」
「いいえ、貴女の婚約者なのですから、助けるのは当然です」
「……あの、どうしてですか?」
「どうしてとは?」
「その……今まで一度も、会いに来られたこともないのに」
アクト様は私に興味が無いから、会いにも来ない。正直、私もお父様達と同じことを思っていた。それなのに、こうして私を助けに来てくれて、困惑している。
「会いに行かなかったのはすみません、仕事が忙しかったこともですが、結婚後は嫌でも会えるのだから、無理に会う必要は無いと思っていました。会いたければ、そちらから来られるだろう、と」
「そう……ですか」
公爵家にこちらから会いに行くのは中々勇気がいるものですし、普通は、男性の方からお誘いが来るものなんですよ、とか、普通の婚約者同士は、結婚前も会って会話をして、親交を深めていくものだと思います。とは、口に出さずに飲み込んだ。
「手紙は? 私、アクト様に一度、手紙を書いたのですが」
「手紙? ローズリカ子爵令嬢から手紙が届いたことはありません」
「……そうですか」
手紙は、家の使用人に出して欲しいとお願いした。きっと、リシャルあたりが嫌がらせ目的で使用人に命じて、出す前に破棄させたのでしょう。
それをそのまま、手紙の返事が無かったことが、アクト様の答えだと受け取ってしまった。
「だから私が会いに行った時は、快くお会いして下さったんですね」
「ええ、あれ以降、仕事が立て込んでいてお会い出来ずにいましたが」
……確かに会えなかったけど、インテレクト公爵邸に行けば必ず、今みたいに温かいお茶や、高級そうなお茶菓子を出して迎え入れてくれた。彼の言葉に嘘は無い、私を避けてはいなかった。
「婚約者である貴女に興味が無いわけではありません。寧ろ、これから色々なことを知っていきたいと思っていますよ。折角、婚約者になったのですから」
「……アクト様……」
こんな風に人に想われるのは、いつぶりだろう。こんな風に誰かに守られるのは――いつぶりだろう。
「貴女の様子がおかしかったので、クロード――執事に頼んでローズリカ子爵家のことを調べさせたら、なにやら不穏な様子があると耳にしたので会いに行ったのですが、正解でしたね」
「感謝しています」
「いえいえ、ところで、お話と言うのは? まさかまた、婚約破棄の件ですか?」
「あ……」
そうだ、私、アクト様に婚約破棄をお願いしていたんだ。
「貴女が俺との婚約を破棄したい理由は、何となく理解しました。ですが、俺は貴女と婚約破棄をするつもりはありません。なので、俺との婚約の利点を提示しようと思います」
「利点?」
「一つ、インテレクト公爵家と皇室魔法騎士団長である俺の全ての力を持って、盾となり貴女を守ることを誓いましょう。二つ、それらの力を使い、剣となって貴女のために戦うことを誓います。三つ、偽物の家族の不幸を望むのでしたら、全力で力をお貸します。四つ――」
「ま、待って下さい!」
聞き間違いであって欲しいような、破格の利点に聞こえる。
「どうして、私との婚約をそこまで望まれるのですか? 自分で言うのも何ですが、私との結婚が対価になるとは思えません」
私はただのローズリカ子爵令嬢であり、魔法も使えない、どこにでもいる一般的な令嬢だ。しかも、家族に邪魔者扱いされている、問題のある令嬢。そんな私にアクト様が婚姻を望まれる理由が分からない!
「知っての通り、俺は冷酷非情、血の公爵と噂されている男です。貴女との婚約を逃したら、別の婚約者が見付かるとは限らないでしょう?」
「それは皆さんがアクト様を誤解しているからです。きちんとアクト様とお会いすれば、誤解は解けます」
アクト様の普段のご様子は知らないけど、今、ここにいる彼は、冷酷非情な冷たい人には見えない――――婚約者を放置するような人だけど、きっと、悪気はない。
聞いたところ、社交界にあまり出られていないようだし、社交界に出たら、一瞬で評価が覆ると思う。現に、リシャルのアクト様を見る目は、キラキラ輝いていた。
「俺の事を過大評価し過ぎですよ」
「そんなことありません! こんなにアクト様はお優しいのですから、冷酷非情なんて言われるのはおかしいです! ……そう思いますよね?」
傍に控えていた執事のクロードさんに同意を求めてみたのだが、満面の笑みが返ってくるだけで、返事はなかった。
570
あなたにおすすめの小説
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~
朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。
婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」
静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。
夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。
「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」
彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる