妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子

文字の大きさ
9 / 28

9話 魅力的で力強い言葉

 

「それで? 如何ですか? 婚約破棄、撤回して頂けますか?」

「……」

 リシャルの身代わりとして、私をアクト様の花嫁にと望んだお父様。どうせ愛されないと、大切にされるわけがないと、私の不幸を犠牲に、家族の幸せを望んだ。
 お父様達の思惑通りになるのが嫌でアクト様との婚約破棄を望んだけど、アクト様が力になってくれるというなら、話は違う。

 アクト様の後ろ盾は、私の強力な力になる。

「……はい、これからもよろしくお願いします」

「では婚約続行です、どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。ローズリカ子爵令嬢――セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」

「……アクト様を利用しているみたいで、とても心苦しいのですが……」

「構いませんよ、そもそも、愛のない政略結婚でしょう? 今まではローズリカ子爵達だけが得をする婚約だったのが、セルフィに代わっただけです。結婚する本人に得がないとね」

「そう言って頂けると助かります」

 私の罪悪感を薄める言い方をしてくれるアクト様に、優しさを感じ――余計に、アクト様を騙していたお父様に嫌悪感を感じた。

「アクト様、お父様はインテレクト公爵家から援助されたお金を、私利私欲のために散財しています」

 どこかおかしいとは感じていた。
 ローズリカ子爵家は、そんなに裕福な家じゃない。屋敷だって、それなりの広さはあるが、たまにどこかで水漏れして都度修理するような、そんな古びた家だった。なのに、お父様やお義母様、リシャルの部屋に置かれている家具や身に着けているドレスや宝石は、ローズリカ子爵家には不相応な高価な物で揃えられていた。

「みたいですね、改めてローズリカ子爵家を調べて発覚しました」

「本当に……申し訳ございません」

 表向きは、ローズリカ子爵家の財政難の援助として受け取っていたから、屋敷だけは、あのまま綺麗に建て直すこともせずにいたのでしょう。

 アクト様が評判通りの冷酷非情、血の公爵だったとしても、自分達が贅沢を続けるために、私をアクト様の元に嫁がせる必要があった。それで私がどんな目に合おうが、不幸になろうが、気にもとめずに。

「多額の援助をしていたのは確かですから、少しくらい贅沢に使うのは構わないと容認していたのですが、想像以上に酷いもので驚きました。それに、まさかセルフィには少しも使っていないとはね」

「あ……」

 何も考えていなかったけど、そう言えばアクト様に会うというのに、ボロボロのつぎはぎだらけのワンピース姿で来てしまっていた。

「お見苦しい姿で、重ね重ね申し訳ございません」

「そんなことをセルフィが気にする必要はありませんよ。そうだ、今度、俺にプレゼントさせて下さい」

「え……と、ただでさえ、お父様のお金の使い込みが発覚したのに、プレゼントを頂くわけにはいきません」

「お気になさらず、貴女の婚約者はお金持ちなので」

 そう言い切られてしまえば、言葉が出ない。

「それで? セルフィは俺に何を望みますか?」

「え?」

「言ったでしょう? セルフィの力になると。なんでも貴女の望み通りにしますよ、ご希望をどうぞ、俺の婚約者様」

 なんて魅力的で力強い言葉。
 今でもまだ、アクト様が私の味方になってくれたことが、夢のように感じる。

「……では、お願いがあります」

 身代わりの花嫁は、アクト様の力を得ることを条件に、正式に婚約を受けた。
 私を犠牲に幸せになんかしてあげない。今度は私が、お母様を裏切った分まで、いっぱい、傷付けてあげる。


 *****


 ローズリカ子爵邸――

「ただいま戻りました」
「セルフィ!」

 帰宅後、すぐにお父様とお義母様は、私の帰宅を険しい表情で迎え入れた。
 今までは私の帰宅なんて気にしたことが無かったクセに、今か今かと私の帰りを待ちわびていたかと思うと、滑稽ね。

「お前、よくもまぁ平気な顔で戻ってこれたものだな!」
「この疫病神! 本当に余計な真似しかないわね! だからお前みたいな娘、嫌だったのよ!」

 相も変わらず、強い言葉で私を攻撃する二人。まだご自身の立場が、私の立場が分かっていないのね。

「来い! これ以上余計な真似をしないよう、結婚までの間、手錠と首輪をつけて、閉じ込めておいてやる!」
「食事だって満足に与えられると思わないことね! 可哀想に、リシャルちゃんはショックで部屋に閉じこもってしまったのよ!」

 そう言って性懲りもなく強く私の腕を掴むお父様に、私は笑顔で、答えた。

「へぇ、の婚約者である私に、お父様は乱暴を働くのね」
「――っ!」

 力強く掴まれた手が、動揺で揺れる。

「アクト……など、お前ごときが馴れ馴れしく敬称もつけずに名前を呼ぶなどっ!」

「駄目だとでも? アクトが許可してくれたのに?」

「馬鹿なっ!」

「婚約者という特別な関係なのだから、別に問題ないでしょう?」

「調子に乗るんじゃありません! インテレクト公爵様が、お前みたいな女を大切にしてくれるとでも思っているの!? 今回のは、たまたま目に入っただけしょう! 今まで一度もお前の顔すら見に来なかった相手なのよ!」

 動揺から言葉に詰まるお父様に代わって、お義母様が怒り任せに声を張り上げた。

「そ、そうだ! インテレクト公爵様が、お前のような娘に興味を持つはずがない!」

 お義母様の言葉に背中を押されたのか、再度、腕を掴んだ手の力が強まる。


あなたにおすすめの小説

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。 三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。 やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。 するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。 王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。