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9話 魅力的で力強い言葉
「それで? 如何ですか? 婚約破棄、撤回して頂けますか?」
「……」
リシャルの身代わりとして、私をアクト様の花嫁にと望んだお父様。どうせ愛されないと、大切にされるわけがないと、私の不幸を犠牲に、家族の幸せを望んだ。
お父様達の思惑通りになるのが嫌でアクト様との婚約破棄を望んだけど、アクト様が力になってくれるというなら、話は違う。
アクト様の後ろ盾は、私の強力な力になる。
「……はい、これからもよろしくお願いします」
「では婚約続行です、どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。ローズリカ子爵令嬢――セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」
「……アクト様を利用しているみたいで、とても心苦しいのですが……」
「構いませんよ、そもそも、愛のない政略結婚でしょう? 今まではローズリカ子爵達だけが得をする婚約だったのが、セルフィに代わっただけです。結婚する本人に得がないとね」
「そう言って頂けると助かります」
私の罪悪感を薄める言い方をしてくれるアクト様に、優しさを感じ――余計に、アクト様を騙していたお父様に嫌悪感を感じた。
「アクト様、お父様はインテレクト公爵家から援助されたお金を、私利私欲のために散財しています」
どこかおかしいとは感じていた。
ローズリカ子爵家は、そんなに裕福な家じゃない。屋敷だって、それなりの広さはあるが、たまにどこかで水漏れして都度修理するような、そんな古びた家だった。なのに、お父様やお義母様、リシャルの部屋に置かれている家具や身に着けているドレスや宝石は、ローズリカ子爵家には不相応な高価な物で揃えられていた。
「みたいですね、改めてローズリカ子爵家を調べて発覚しました」
「本当に……申し訳ございません」
表向きは、ローズリカ子爵家の財政難の援助として受け取っていたから、屋敷だけは、あのまま綺麗に建て直すこともせずにいたのでしょう。
アクト様が評判通りの冷酷非情、血の公爵だったとしても、自分達が贅沢を続けるために、私をアクト様の元に嫁がせる必要があった。それで私がどんな目に合おうが、不幸になろうが、気にもとめずに。
「多額の援助をしていたのは確かですから、少しくらい贅沢に使うのは構わないと容認していたのですが、想像以上に酷いもので驚きました。それに、まさかセルフィには少しも使っていないとはね」
「あ……」
何も考えていなかったけど、そう言えばアクト様に会うというのに、ボロボロのつぎはぎだらけのワンピース姿で来てしまっていた。
「お見苦しい姿で、重ね重ね申し訳ございません」
「そんなことをセルフィが気にする必要はありませんよ。そうだ、今度、俺にプレゼントさせて下さい」
「え……と、ただでさえ、お父様のお金の使い込みが発覚したのに、プレゼントを頂くわけにはいきません」
「お気になさらず、貴女の婚約者はお金持ちなので」
そう言い切られてしまえば、言葉が出ない。
「それで? セルフィは俺に何を望みますか?」
「え?」
「言ったでしょう? セルフィの力になると。なんでも貴女の望み通りにしますよ、ご希望をどうぞ、俺の婚約者様」
なんて魅力的で力強い言葉。
今でもまだ、アクト様が私の味方になってくれたことが、夢のように感じる。
「……では、お願いがあります」
身代わりの花嫁は、アクト様の力を得ることを条件に、正式に婚約を受けた。
私を犠牲に幸せになんかしてあげない。今度は私が、お母様を裏切った分まで、いっぱい、傷付けてあげる。
*****
ローズリカ子爵邸――
「ただいま戻りました」
「セルフィ!」
帰宅後、すぐにお父様とお義母様は、私の帰宅を険しい表情で迎え入れた。
今までは私の帰宅なんて気にしたことが無かったクセに、今か今かと私の帰りを待ちわびていたかと思うと、滑稽ね。
「お前、よくもまぁ平気な顔で戻ってこれたものだな!」
「この疫病神! 本当に余計な真似しかないわね! だからお前みたいな娘、嫌だったのよ!」
相も変わらず、強い言葉で私を攻撃する二人。まだご自身の立場が、私の立場が分かっていないのね。
「来い! これ以上余計な真似をしないよう、結婚までの間、手錠と首輪をつけて、閉じ込めておいてやる!」
「食事だって満足に与えられると思わないことね! 可哀想に、リシャルちゃんはショックで部屋に閉じこもってしまったのよ!」
そう言って性懲りもなく強く私の腕を掴むお父様に、私は笑顔で、答えた。
「へぇ、アクトの婚約者である私に、お父様は乱暴を働くのね」
「――っ!」
力強く掴まれた手が、動揺で揺れる。
「アクト……など、お前ごときが馴れ馴れしく敬称もつけずに名前を呼ぶなどっ!」
「駄目だとでも? アクトが許可してくれたのに?」
「馬鹿なっ!」
「婚約者という特別な関係なのだから、別に問題ないでしょう?」
「調子に乗るんじゃありません! インテレクト公爵様が、お前みたいな女を大切にしてくれるとでも思っているの!? 今回のは、たまたま目に入っただけしょう! 今まで一度もお前の顔すら見に来なかった相手なのよ!」
動揺から言葉に詰まるお父様に代わって、お義母様が怒り任せに声を張り上げた。
「そ、そうだ! インテレクト公爵様が、お前のような娘に興味を持つはずがない!」
お義母様の言葉に背中を押されたのか、再度、腕を掴んだ手の力が強まる。
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