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10話 お母様の部屋を返してもらいます
しおりを挟む私なんかがアクトに興味を持たれるはずがない、お父様もお義母様も、そう信じて疑っていないのね。
「アクトとは今後、定期的に会う約束をしました」
「嘘をつくな!」
「では嘘だと思って、どうぞ私を閉じ込めて下さい」
余裕に微笑む私の姿が、お父様にはどう映ったのでしょう。握られている手からは、どんどん力が抜けていった。
「会わせないように小細工しようとしても無駄よ。お父様達が何を言っても、私の顔を見るまでは帰らないよう、お願いしているの。私以外の言葉を信じないで、とね」
「……う、嘘だっ! インテレクト公爵様が、お前のことなど相手にするはずが……!」
「さて、私が監禁された姿を見て、アクトはどう思うでしょう。それでお父様達がどんな目に合うのか――想像するだけで楽しいわ」
「ひっ!」
これで一気にお父様の力は抜け、手は離された。
折角アクトに怪我を治してもらったのに、また掴まれたところが痣になってる。アクトとのやり取りを見ておいてこんな行為に出るなんて、本当に後先考えていないのね。
「あなた! セルフィの言う事なんて妄言に決まってるじゃない! この子が愛されるはずがないわ!」
正解、私もずっと、そう思っているよ。
お父様にも貴女にもリシャルにも、初恋の相手だったゼロにも、私は誰にも愛されない――だけどね、アクトはそんな私を婚約者に望んで、力になると言ってくれたのよ。
「私にそんな口を利くことがどういうことになるか、お義母様の足りない頭では、まだ理解出来ませんか?」
「何よそれっ! 本当に生意気ね! 母親にそっくりで苛々するわ!」
元は愛人だったお義母様が、正妻だったお母様やお母様の娘である私のことを目の敵にしているのは知ってる。でもだからって、いつもいつも感情をぶつけられても迷惑なのよ!
「お義母様、私の家で大きな顔をしないで下さい――愛人の分際で」
わざと、お義母様が一番怒るであろう言葉を使って、挑発した。
「はぁ!? 私はもう愛人じゃないわ! あの女はもう死んだの! 私こそが、ローズリカ子爵夫人になったのよ!」
簡単に沸点に到着して不貞行為を認める発言をするお義母様。そう言えば、リシャルがお父様の本当の娘だと知ったのも、お義母様の軽薄な言葉が原因だったっけ。
「ああ、やっぱりお義母様は愛人だったんですね――お父様」
「いや、それは……」
まだ私にバレていないと思っていたお父様は、狼狽えるように目を泳がせた。
「お父様、お母様の部屋は返してもらいます」
「あの部屋は、リシャルとゼロの部屋にするつもりで――」
「お父様」
今まで一番、軽蔑した目でお父様を睨み付けた。
知ってはいたけど、こうしてお父様に直接突き付けたことで、実感した。ずっとお母様を裏切り、娘である私に酷い扱いをしたお父様は、最低で最悪で汚くて気持ち悪くて――父親失格だわ。
「す、好きにしろ!」
「あなた!?」
「ええ、では失礼します」
お義母様は納得されず、許可したお父様に向かって文句を言っていたけど、無視した。
一日で色々なことがあり過ぎて、疲れた。もう休みたい。そんな思いでお母様の部屋に向かったけど、扉を開けて中に入り、全く違う部屋になっていたことに、言いようのない空虚な気持ちになった。
「そうよね……お母様の物は全部捨てられたんだもの」
今この部屋にあるのは、リシャルとゼロが結婚後に住むために用意された物ばかり。
「……高そうな家具」
きっと、アクトからの援助で買ったのだろう。新品で綺麗で、高価な物ばかりなのに、全く落ち着かない。
もう少し早くお母様の部屋を取り戻せていれば、遺品も全て捨てられることはなかったのに。そう思うと、余計に空虚な気持ちになった。
新しいベッドで横になっても、当然のことながら、お母様を感じられない。
悲しいみと同時に、たった一つの願いまで叶えてくれなかったお父様に、私を目の敵にするお義母様、私の不幸を嘲笑うリシャルに対する怒りが込み上げる。
「……アクトにお礼を言わなきゃ」
全て捨てられた後だとしても、こうしてお母様の部屋を取り戻せたのは、アクトのおかげだ。私一人では何も出来なかった。それもこれも、アクトの婚約者になったから――お父様達が私を身代わりの花嫁として差し出したのだから、今更、後悔しても遅い。
『俺の婚約者である立場を有効活用して下さい』
アクトのお言葉に甘えて、インテレクト公爵の婚約者の立場をフル活用させてもらう。
絶対に許さない、幸せになんかさせないわ。
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