妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子

文字の大きさ
10 / 28

10話 お母様の部屋を返してもらいます

しおりを挟む
 

 私なんかがアクトに興味を持たれるはずがない、お父様もお義母様も、そう信じて疑っていないのね。

「アクトとは今後、定期的に会う約束をしました」

「嘘をつくな!」

「では嘘だと思って、どうぞ私を閉じ込めて下さい」

 余裕に微笑む私の姿が、お父様にはどう映ったのでしょう。握られている手からは、どんどん力が抜けていった。

「会わせないように小細工しようとしても無駄よ。お父様達が何を言っても、私の顔を見るまでは帰らないよう、お願いしているの。私以外の言葉を信じないで、とね」

「……う、嘘だっ! インテレクト公爵様が、お前のことなど相手にするはずが……!」

「さて、私が監禁された姿を見て、アクトはどう思うでしょう。それでお父様達がどんな目に合うのか――想像するだけで楽しいわ」

「ひっ!」

 これで一気にお父様の力は抜け、手は離された。
 折角アクトに怪我を治してもらったのに、また掴まれたところが痣になってる。アクトとのやり取りを見ておいてこんな行為に出るなんて、本当に後先考えていないのね。

「あなた! セルフィの言う事なんて妄言に決まってるじゃない! この子が愛されるはずがないわ!」

 正解、私もずっと、そう思っているよ。
 お父様にも貴女にもリシャルにも、初恋の相手だったゼロにも、私は誰にも愛されない――だけどね、アクトはそんな私を婚約者に望んで、力になると言ってくれたのよ。

「私にそんな口を利くことがどういうことになるか、お義母様の足りない頭では、まだ理解出来ませんか?」

「何よそれっ! 本当に生意気ね! 母親にそっくりで苛々するわ!」

 元は愛人だったお義母様が、正妻だったお母様やお母様の娘である私のことを目の敵にしているのは知ってる。でもだからって、いつもいつも感情をぶつけられても迷惑なのよ!

「お義母様、私の家で大きな顔をしないで下さい――愛人の分際で」

 わざと、お義母様が一番怒るであろう言葉を使って、挑発した。

「はぁ!? 私はもう愛人じゃないわ! あの女はもう死んだの! 私こそが、ローズリカ子爵夫人になったのよ!」

 簡単に沸点に到着して不貞行為を認める発言をするお義母様。そう言えば、リシャルがお父様の本当の娘だと知ったのも、お義母様の軽薄な言葉が原因だったっけ。

「ああ、やっぱりお義母様は愛人だったんですね――お父様」
「いや、それは……」

 まだ私にバレていないと思っていたお父様は、狼狽えるように目を泳がせた。

「お父様、お母様の部屋は返してもらいます」

「あの部屋は、リシャルとゼロの部屋にするつもりで――」

「お父様」

 今まで一番、軽蔑した目でお父様を睨み付けた。
 知ってはいたけど、こうしてお父様に直接突き付けたことで、実感した。ずっとお母様を裏切り、娘である私に酷い扱いをしたお父様は、最低で最悪で汚くて気持ち悪くて――父親失格だわ。

「す、好きにしろ!」
「あなた!?」

「ええ、では失礼します」

 お義母様は納得されず、許可したお父様に向かって文句を言っていたけど、無視した。
 一日で色々なことがあり過ぎて、疲れた。もう休みたい。そんな思いでお母様の部屋に向かったけど、扉を開けて中に入り、全く違う部屋になっていたことに、言いようのない空虚な気持ちになった。

「そうよね……お母様の物は全部捨てられたんだもの」

 今この部屋にあるのは、リシャルとゼロが結婚後に住むために用意された物ばかり。

「……高そうな家具」

 きっと、アクトからの援助で買ったのだろう。新品で綺麗で、高価な物ばかりなのに、全く落ち着かない。
 もう少し早くお母様の部屋を取り戻せていれば、遺品も全て捨てられることはなかったのに。そう思うと、余計に空虚な気持ちになった。
 新しいベッドで横になっても、当然のことながら、お母様を感じられない。
 悲しいみと同時に、たった一つの願いまで叶えてくれなかったお父様に、私を目の敵にするお義母様、私の不幸を嘲笑うリシャルに対する怒りが込み上げる。

「……アクトにお礼を言わなきゃ」

 全て捨てられた後だとしても、こうしてお母様の部屋を取り戻せたのは、アクトのおかげだ。私一人では何も出来なかった。それもこれも、アクトの婚約者になったから――お父様達が私を身代わりの花嫁として差し出したのだから、今更、後悔しても遅い。

『俺の婚約者である立場を有効活用して下さい』

 アクトのお言葉に甘えて、インテレクト公爵の婚約者の立場をフル活用させてもらう。

 絶対に許さない、幸せになんかさせないわ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・ 二人は正反対の反応をした。

【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。 三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。 やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。 するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。 王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

処理中です...