聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

文字の大きさ
20 / 60

19話 コトコリスの聖女の力

しおりを挟む
 

 今日この場に集まったのは、私達だけじゃない。聖女の力の見届け人として派遣された皇宮の役人達や、聖女の力を一目見ようと集まったメルトの住人の皆さん。全員をエミルは待たせている。ただでさえ到着日時も遅れてるのに、ふざけてんな。

「皆様、お待たせしました」

 やっと来たか……三時間も遅れてくるとは思わなかった。
 しかもばっちり正装していますね。何ですかその格好? それがコトコリスの聖女の正装ですか? 花とかあしらった煌びやかな格好、場違いじゃありませんか?

「ご安心ください。私が来たからには、この土地は元気を取り戻し、沢山の実りを与える素敵な大地に生まれ変わるでしょう」

「……」

「え? あ、あれ?」

 エミルはいつもとは反応が違う周りの反応に、戸惑いを浮かべた。
 そうでしょうねーいつもなら自分がどれだけ時間に遅れようが、『聖女様! お待ちしていました!』や『聖女様! 私達をお救い下さい!』とか言われて拍手喝采なところ、シーンとしてますもんね。凄い冷たい視線を向けられてるもんね。
 それもそのはず。今まではエミルしか聖女がいないと思われていたから、機嫌を損ねて土地を回復しないとか言い出さないように配慮されていただけ。
 今はファイナブル帝国の聖女である私がいるから、極端に気を使う必要が無くなったんですよ。

「どうして……こんなの、酷いよ……折角、こんな遠くて汚い場所まで頑張って来たのに……」

 何も酷くないんですよ。酷いのはエミルなのよ。こんなに人を待たせて、謝罪の一つもしない貴女の人間性に問題があるのよ。

「お前達、コトコリスの聖女に向かってどんな態度をしている! 平民の分際で! いいのか!? 聖女が力を貸さなければお前達の土地など、このまま枯れ果てる運命なんだぞ!」

 本当にお父様もテンプレ通りの方ですね。何度目かもう分からないけど、この人達と家族の縁を切っておいて良かった。

「はぁ、コトコリス男爵、エミル。いい加減にしてくれます?」

 もう私の方が立場は上だし、エミルを様付けて敬うのも馬鹿らしくなってきたから、もう呼び捨てでいいや。

「貴方達は皆さんをお待たせしてるんですよ? 分かってます? 頭を下げて遅刻したことを謝罪する立場なんですよ」

「な――っ!」

 常識って知ってます?

「土地に力を与える気が無いなら帰ったら如何ですか? そうしたら、コトコリスの聖女は偽物だったと証明されたことになりますから」

 それでもいいなら帰っていい。最早帰って欲しい。もう帰れ。

「っ、いいえ、私、帰りません!」

 過保護に育ったお嬢様は今までこんな仕打ちをされたことが無いようで、母親や夫に背中を支えられ、なぐさめられていたが、意を決したように涙を拭い、顔を上げた。

「ユウナお姉様、私、決めました。昨日は少し取り乱しましたが、私、今日、この場でユウナお姉様が偽物の聖女であると証明し、悪事を働いたユウナお姉様を、責任を持ってコトコリス家に連れ帰ります。それこそが、コトコリスの聖女として……いえ、双子の妹の務めだと思うから」

 悪事とは、エミルに代わって聖女だと名乗り、ファイナブル帝国の聖女の称号を頂いたこと? 私が聖女だと嘘をついていると、エミルは言うのね。

「酷いのねエミル。貴女は私が本物の聖女だと知っているはずなのに」

「……何のことですか? ユウナお姉様が昔から私を妬んで、自分が聖女だと嘘をついているのは知っていますよ」

 ――最低。

「私を姉と呼ばないで。気持ち悪い」

「っ!」

 一回一回、妹は必ず、私の拒絶に傷付いた表情を浮かべる。
 私がまだエミルを好きでいるとでも思っているの? とっくの昔に、私はエミルのことが大嫌いだったのに。

「では、ファイナブル帝国の聖女ユウナ様、コトコリスの聖女エミル様、どうぞ、土地に力を与えて下さい」

「はい、分かりました」

 立会人の合図のもと、最初に、エミルが動いた。
 一番酷いであろう大地の場所に行き、膝を地面につけ、祈りを捧げるように手を組み、目を閉じた。

「どうか、この土地に癒しを……元気が、戻りますように」

 エミルが祈り始めると、エミルの体からは綺麗な光が溢れた。
 その光景はまるで、聖女の祈りに呼応して、大地に力を与えているようで――

「おお! これは……まさか、エミル様は本物の聖女なのか!?」
「凄いわ!」

 聖女の力を一目見ようと集まったメルトの住民は、神秘的な光景を前に、歓喜の言葉を上げた。確かにこの光景を見たら、何も出来ない私より、妹の方が聖女だと信じるのも無理が無いと思う。

「……あれって、ただの回復魔法じゃないのか?」

「あら、流石はレイン様。お気付きですか」

 そう、妹は自分が使える回復魔法を発動しているだけ。この光は、回復魔法のもの。

「これは自分を聖女だと信じ込ませるための、エミルのパフォーマンスです」

 回復魔法は使える人が少ないですし、例え回復魔法の光と似ていると思った人がいても、聖女の力も同じ光を放つのかと認識する。そもそも、聖女の力を見分けられる人なんて、レイン様以外会ったことがない。

「妹はこうやって、何も出来なかった私から聖女の座を奪ったんです」

 エミルのパフォーマンスが終わった頃には、拍手が鳴り響いた。

「これで、大地には元気が戻りました。暫くすれば土地は回復し、水は流れ、木々は溢れ、実りが戻るでしょう」

 相変わらずだねエミル。そうやって悪びれる様子も無く、聖女の力を自分のものだと言う。本当は私の力なのに――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。 二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。 「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」 お好きにどうぞ。 だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。 賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

処理中です...