聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

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33話 宴後

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 ファイナブル帝国の聖女を祝う宴から、数か月が経った。
 私は聖女として土地を回復しつつ、実りを与え、レイン様と一緒に人々を癒し、ひと段落したらアイナクラ公爵邸でゆっくり過ごす。そんな風に過ごしていた。

「ユウナ様、宴のさいは大変お世話になりました」

 今日は、シャイナクル侯爵家の次期当主となることが正式に決まったミモザ様が、私に会いにアイナクラ公爵邸に来る日。

「いいえ、ルキ様には私も痛い目に合って欲しいと思っていたので、お互い様です」

 ミモザ様の提案に乗り、私はルキ様を失脚に追い込むお手伝いをした。結果、ミモザ様の計画は成功し、ルキ様を次期シャイナクル侯爵の座から引きずり下ろすことが出来た。

「ルキ兄様にも困ったものです。大人しくしていれば、父はシャイナクル侯爵の座を兄に渡そうとしていたので、当主になれたのに」

「そうだったんですね」

「無理だろ、それをミモザが許すはずがない」

 ミモザ様の言葉に反応し、否定の言葉を吐くレイン様。ミモザ様は一瞬目を丸めた後、直ぐに大きな声で笑い出した。

「あはは! 流石はレイン、僕のことを良く理解してるね。そうだね、出来の良い優秀な兄なら兎も角、無能な兄に当主の座を渡すほど、僕はお人好しじゃない。今回のことが無くても、僕は兄を失脚させようと動いていただろうね」

 レイン様とミモザ様。お二人は旧友なだけあって、お互いを良く理解されていて、仲の良い友人と呼べる人が一人もいない私には、少し羨ましかった。

「でも正直、コトコリスの聖女と結婚した時は諦めかけましたよ、聖女の存在は偉大ですからね。聖女を妻にした兄には勝てないかもしれないと絶望しました。本当に、聖女がエミル夫人では無く、ユウナ様で良かったです」

「えっと……良かったです、ミモザ様のお力になれて」

 何だかよく分からないけど、ルキ様よりもミモザ様が当主になった方が良いのは確実だし、私が聖女でミモザ様のお役になれたのなら、それは喜ばしいことだ。

「ふふ、顔立ちが同じでも、本当にエミル夫人とは別人ですね。どうですかユウナ様、次の婚約者に僕を選びませんか? ルキ兄様と違い、本当に大切にしますよ」

「えっと……冗談ですよね?」

「いいえ、本気ですよ。エミル夫人との結婚は頼まれても御免ですが、ユウナ様とでしたら喜んで――」

「ミモザ、帰れ、今すぐ帰れ」

「レイン様!?」

 急に席を立ち上がり、何故か魔法を出してミモザ様を威嚇するレイン様。

「冗談冗談。レインが取り乱すのが面白くてからかってるだけだから安心して」

「五月蠅い」

「アイナクラ公爵令息であり、歴代最高の魔法騎士であるレインに勝てるとは思ってないよ。何より、僕はレインの親友だし、親友の邪魔はしたくないなぁ」

 ミモザ様は笑ってレイン様の怒りを躱しているけど、見ているこっちとしては、ハラハラします!

「……はぁ、もういい」

 レイン様は深いため息を吐いた後、魔法を抑え、席に座り直した。良かった、仲の良いお二人の喧嘩が始まらなくて。

「失礼しましたユウナ様、冗談が過ぎましたね。お許し頂けると幸いです」

「冗談だと分かっていましたし、私のことはお気になさらないで下さい。それよりも、お二人が仲良くして下さる方が嬉しいです」

「……本当に、エミル夫人とは別人ですね」

 ミモザ様含むシャイナクル侯爵家は、私に隠れてエミルと交流があったようで、度々、私とエミルとの違いに驚かれる姿が見られた。
 エミルは基本、私をどこに行くにも連れ回していたが、ある一定、帝都など華やかな場所には、私を連れて行かなかった。きっとその時に、ルキ様と一緒にシャイナクル侯爵邸にも顔を出していたのでしょう。

 一体エミルは、婚家でどんな様子だったの……? まさか我儘放題だったんじゃないでしょうね。

「ミモザ、そう言えばルキは今どこにいるんだ? シャイナクル侯爵邸で大人しくしているのか?」

「いや? あれから暫くは往生際悪く次期当主に戻れるよう父様に掛け合っていたけど、諦めて家から出て行ったよ。父様には、家に残るなら僕の補佐をしろと命じられていたからね。そんな事、プライドの高いルキ兄様には耐えられないでしょう」

 加えて、ルキ様はあの騒動で他貴族や、噂を聞いた領民達からも冷たい視線を向けられるようになり、逃げるようにシャイナクル侯爵家の領土からも去ったらしい。

「今、ルキ兄様はエミル夫人の所に戻っているよ」

 あれだけ一途な愛と言っていたクセに、誰よりも早く妹を見捨てて、自分の保身のためにエミルを悪者にしたルキ様。それなのにエミルの所に戻るなんて、面の皮が厚い方ですね。

「そうそう、ユウナ様のご希望通り、コトコリス男爵に買われた召使達は買い戻し、それぞれの家に帰しました」

「! ありがとうございます」

「お礼を言われることではございません、これは僕達が負うべき兄の償いです。皆さん、ユウナ様に深く感謝していました」

「いいえ、私にも責任がありますから」

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