聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

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48話 初恋――エミルの気持ち

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 ◇◇◇


 レイン様に抱き締められているユウナお姉様の顔を見たら、すぐに分かった。

 ああ、ユウナお姉様は、この人のことが好きなんだって。

 ルキ様の時も、婚約者が出来て嬉しそうな顔をしていたけど、レイン様はもっと違う、心底彼が好きな、恋をする女の顔をしていた。

 嫌だな、ユウナお姉様は私だけのものなのに、他の人を好きにならないでよ。

 正直、ルキ様だって、ユウナお姉様の婚約者だから奪っただけで、そこに愛なんて無かった。
 あ、誤解しないで? ルキ様のことは好きだよ? ルキ様だけじゃない、皆、私は大好きなの。ただ、特別がユウナお姉様以外いないだけ。
 ユウナお姉様を一人ぼっちに出来るなら、私がユウナお姉様の好きな人をもらってあげるの。そうしたら、ユウナお姉様はまた一人ぼっちに戻って、私だけのものになるでしょう?

 レイン様の名前はお父様から聞いたことがあった。
 私の最初の婚約者候補で、アイナクラ公爵令息であり、将来有望で格好良くて、周りからの評判もとても良い。私の婚約者にするのに及第点だとお父様は仰っていた。
 残念ながら、私がルキ様と結婚してしまったせいでレイン様との婚約は叶わなかったけど、今なら、レイン様を選んであげても良いよ。
 レイン様が私のものになれば、ユウナお姉様はまた、私だけのものになるもの。
 それに、レイン様は優秀な魔法騎士。レイン様さえ手に入れれば、ユウナお姉様を無理矢理私のもとに連れ戻すことも出来るかもしれない。
 私に冷たくなったルキ様のことも、もういらないと思っていたから、調度良い。

 うん、レイン様をユウナお姉様から貰っちゃおう。

 だってそうすれば、レイン様を狙っていた沢山のご令嬢から羨ましがられるし、公爵夫人の座が手に入るかもしれないし、ユウナお姉様が私の元に戻ってくるかもしれない。一石二鳥ならず、一石三鳥です。いえ、ユウナお姉様さえ戻ってくれば、私がコトコリスの聖女に戻れるから、一石四鳥。
 レイン様は私に縁談を申し込んでいたようですし、私が告白すれば、すぐにユウナお姉様ではなく、私を選んでくれるに違いありません。
 ああ、可哀想なレイン様。ユウナお姉様を私の身代わりにしていたんですね……でも、もうその必要はありません。
 これからは私がレイン様の傍にいますから、ユウナお姉様ではなく私を、しっかり守って下さいね?

 次から、レイン様に守られるのは私。
 そう信じて疑っていなかったのに、レイン様は私よりも、ユウナお姉様を選ぶと言った。

『例え聖女でも、君みたいな性悪女と結婚するなんて、死んでもごめんだ。僕は君を選ばない。選ぶなら――ユウナがいい』

 嘘でしょう? 私よりも、ユウナお姉様を選ぶの? コトコリスの聖女だった私よりも? ルキ様もヒュウイシ様も、コトコリスの聖女だった私のことは好きだと言ってくれたのに!

「……レイン様は……コトコリスの聖女としてでは無く、私自身を見てくれたの?」

 どうしてだろう。何故だか、胸がドキドキします。
 こんな気持ち――――ユウナお姉様以外、なったことないのに。

「……欲しい、欲しいです、ユウナお姉様。私、レイン様が欲しい」

 ユウナお姉様以外にこんな気持ちになるの、生まれて初めて……! 好き、私、レイン様が好き!

「レイン様を頂戴、ユウナお姉様。お姉様なんだから……好きな人を可愛い妹に譲るのなんて、当然ですよね」

 ユウナお姉様は私のために生きるべきなの。
 私が欲しいと思ったものは、全て、ユウナお姉様は私に渡すべきなの。
 ユウナにとってレインが初恋であるように、エミルもまた、コトコリスの聖女としてでは無い自分を見てくれたレインに、初めて恋をした。

「私が聖女じゃなくても、レイン様は私を見てくれた人……そう、私には、ユウナお姉様には無い、奇跡と呼ばれる程の回復魔法が使えるもの。この魔法だけは、私自身のもの。きっと、レイン様はこの魔法を持った私を見初めてくれたんですね。嬉しい……私のレイン様」

 エミルは恍惚とした表情で呪文を唱え、聖女の力と偽装していた時と同じように、眩い魔法の光を辺りに出した。
 強い回復魔法の光、これこそは、姉では無く自分が持っている力だと、エミルは疑ってもいなかった。この魔法があれば、偽物の聖女の汚名を貼られたとしても、奇跡の魔法を求める人達がいる限り、生きてはいける。聖女でなくても、自分が特別であることに変わりはないと思っていた。

「早くレイン様に会いたい……ユウナお姉様にしたように、今度は私を、強く抱き締めて下さい」

 次に会った時は、レインが自分の恋人になる。あれだけハッキリ断られてもまだ、エミルはそう信じて疑っていなかった。ユウナにしていたように、レインは今度からは自分を守ってくれる。

 レイン様と一緒にユウナお姉様を自分のもとに連れ戻し、コトコリスの聖女として返り咲く。

 そんな未来を思い描き、エミルは魔法の光の中、微笑みを強くした。


 ほんの少し、いつもと光の力が弱くなっていることに気付かずに――――



 ◇◇◇
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