聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

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54話 他者に力を与える魔法

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 レイン様はエミルに見せつけるように私の肩に手をかけると、ハッキリとした拒絶と、私への愛を口にした。分かってはいたけど、こうして改めて口にしてくれると、安心する。

「どうして……どうしてそんな嘘をつくんですか? レイン様は、私が好きなのに……好きじゃないとおかしいのに!」

 ポロポロと大粒の涙を流しながら、傷付いた表情を受かべるエミル。
 今まではエミルの周りにはエミルを守る誰かがいて、エミルが涙を流せば、エミルを慰め、エミルの憂いを取り除くために動くのが当然だった。
 でも今は違う、エミルが泣いても、誰もエミルを守らない、助けない。

「ユウナお姉様よりも私の方が、絶対にレイン様に相応しいです! 私はユウナお姉様と違い、奇跡と呼ばれる回復魔法が使えます! レイン様は、聖女の力を持つユウナお姉様では無く、この奇跡の魔法を持った私を見初めてくれたんです!」

 エミルはそう言うと、いつものように回復の魔法を唱え、周囲に眩い光を現わせた。
 自分が特別だと周りに知らしめるためのパフォーマンス。そう言えば聖女の力を自分の力として見せかける時にも、よくしていましたね。

「ねぇ? 凄いでしょう? この力を持つ私こそが、特別なんです! 回復魔法を使える私の方が、ユウナお姉様より聖女に相応しいんです! レイン様が私の恋人になってくれれば、ユウナお姉様を連れ戻して、私が聖女に戻れます!」

 それって、レイン様を使って私を無理矢理エミルの影に戻して、自分がコトコリスの聖女として返り咲くって言ってるの? 本当に私のこと舐めてるのね。

「ユウナお姉様は、家族のために、私のために生きるべきなんです。だって私が皆に愛された方が、皆、嬉しいもの! ユウナお姉様はずっと、誰にも注目されず、脚光も浴びず、皆に嫌われて、一人ぼっちで、私以外の誰からも愛されずに生きていくべきなんです!」

 嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、エミルなんて大嫌い。私を好きと言いながら、私を苦しめるエミル。私の力を奪い、全てを奪ってきた双子の妹である貴女が、死ぬほど嫌い。
 だから……今から現実をしっかりと理解させてあげる。

 エミルは聖女に相応しくない、だってエミルは――――何の特別な力も持たない、ただの令嬢だもの。

「……エミル嬢は何を言っているんだ?」
「自分が特別だとか、聖女に相応しいとか、意味が分からない」
「奇跡の回復魔法だとかなんとか……そんなものを特別な力だと威張られてもな」

「え? な、何?」

 周りの貴族達からの小馬鹿にしたような冷笑と言葉に、当のエミルは何故そんなことを言われるのか分からないと、困惑の表情を浮かべた。

「何がおかしんですか? 私にはユウナお姉様には使えない、奇跡と呼ばれる回復魔法が――」

「エミル、回復魔法の光、いつもより弱くなったんじゃない?」

「え?」

 エミルが放った魔法の光は、以前見た時よりも範囲が狭く、弱くなっているのが、肉眼でも確認出来た。
 エミルは私からの指摘で初めてそれに気付いたようで、慌てて、再度呪文と唱えたが、結果は同じ。

「どうして……!? 何でこんなに力が弱まってるの!?」

 ああ、やっとですか、長かったですね、。今か今かと待っていたんですよ? 

「そう言えば、まだエミルには言ってなかったね。私の聖女としての本来の力は、《他者に力を与える魔法》なんですよ」

「力を、与える魔法……? それって、まさか……」

「そうだよ、エミルのその奇跡と呼ばれる回復魔法は、私の力の恩恵を受けたものなの。貴女だけの、特別な力じゃないんだよ」

「――う――そ――嘘よ! そんなのっ!」

「レイン様」

「ああ」

 エミルと同じように回復魔法を唱えたレイン様からは、エミルの時よりも遥かに広範囲に広がる、眩しい光。

「これって……回復魔法なの!? 私の魔法よりも凄い……!」

「これが、私の力の恩恵を得たレイン様の回復魔法です」

 エミルと離れてから、エミルの代わりに人々を癒していたのは、私の力を得たレイン様だった。
 元より素晴らしい魔法の持ち主であるレイン様は、エミルなんかとは比べ物にならない程の力を得た。

「分かった? エミルは特別なんかじゃないの、ただ私の力の恩恵を受けていただけ。私の力の恩恵を受けれなくなったから、エミルの力が弱まったの」

「そん――な」

 唯一自分の力だと思っていたものがなくなる気持ちは如何? ただの普通の、何も特別な力を持たない男爵令嬢になった気分は?

「ズルい……どうして、ユウナお姉様ばっかり!」

「そんな性格だからじゃない? だから、神様はエミルより私の方が聖女に相応しいと、聖女の力を与えてくれたのよ」

「っぅ!」

「こんなにも双子で出来が違うなんて、悲しい物語だね」

 言われたことのある言葉を、そっくりそのままお返しする。
 私の聖女としての力は今やファイナブル帝国中に知れ渡っているはずなのですが、私を偽物の聖女だと信じていたコトコリスの領民達やお父様にお母様は、聞く耳を持たなかったのでしょう。私が本物の聖女だと知っているはずのエミルの耳にも届かなかった。

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