聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

文字の大きさ
60 / 60

59話 《完》聖女

しおりを挟む
 

 *****


「ユウナ」

「レイン様」

 日が経過し、私達はいつもの日常に戻った。

 エミルの事件は、聖女を殺害しようとした重罪としてファイナブル帝国中に知れ渡り、エミルには重い罰が望まれた。
 レイン様から事件の説明をされた陛下も激高し、予想通り、エミルには重い罰が与えられた。

「ユウナ、ダンスが上手くなったな」

「特訓に付き合って頂きありがとうございます、レイン様」

 いつも通り、聖女として土地を癒す活動の合間、アイナクラ公爵邸でのんびりと過ごす時間。
 ダンスの特訓をしている私に付き合ってくれたレイン様と、アイナクラ公爵邸にある舞踏室で二人っきりでダンスを踊る。

「正式に婚約者になったし、そろそろレインと呼んで欲しいんだけどな」

「あ……ごめんなさい……レイン」

「うん、いいね」

 まだ慣れないし恥ずかしいけど、レインが嬉しそうだから、それなら頑張らなきゃ、なんて思ってしまうのは、私がレイン様を好きだからでしょうか。
 誰かのために何かをしてあげたい、そんな気持ちを普通に持てることが、嬉しい。

「……ユウナは、本当に大丈夫か?」

「何がですか?」

「いや、エミル嬢もそうだが、コトコリス男爵夫妻のことも……」

「全然大丈夫ですよ、自業自得です」

 実はあれから、お父様とお母様にも、一波乱あった。
 私の名前を利用し、聖女の両親だと周りに言いふらし、以前のような傲慢な態度を取り始めた。
 私は不在だったけど、帝都まで足を運んでは、『聖女の父親はワシだ! 聖女の力が欲しくば、ワシの爵位を上げろ! コトコリス男爵家に多額の援助をしろ!』と、騒ぎ立てたらしい。

 本当に……家族の縁を切っていて良かった。

 陛下はすぐにコトコリス男爵夫妻を捕え、数々の罪の罰として爵位を剥奪した。
 どうも、以前までの豪遊が忘れられなかった両親は領民の税だけではお金が足りず、多額の借金をしていたようで、私の父親だと言ってお金を騙し取るなど、凝りもせずに罪を犯していたらしい。
 晴れて平民に落ちたお父様とお母様は、借金元に連れ去られ、今は行方知らずだという。
 まさに自業自得。

 私には血の繋がった家族はいなくなってしまったけど、元からあの人達のことを家族だとは思っていない。だから、私は大丈夫。それに――

「私には、レインがいますから」

 私には新しい家族が出来る。
 レインだけじゃない、陛下もアイナクラ公爵様も、皆、私を大切にしてくれる。
 今、私は幸せだと、胸を張って言える。

「ユウナ、絶対に大切にする。君が好きだよ」

「はい……私も、レインが大好きです」

 好きの言葉は、私にとって呪いの言葉だった。でも、今は違う。
 今はとても幸せな言葉。

 私は今、とても幸せです。

 これからも聖女として、ファイナブル帝国をレイン様と一緒に守りながら、私自身も、幸せになります。








いいね、お気に入り、応援、最後まで読んで下さった方、貴重なお時間を頂き、作品を読んでくださり、本当にありがとうございました。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。 二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。 「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」 お好きにどうぞ。 だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。 賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

処理中です...