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第48話 趣のある案内。悪役令嬢の快適な旅路。別ルートを爆走するヒロイン。
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「猫様、こちらで一生を」終えるご予定は――?
と言った補佐役は、途中でスゥと姿を消した。
凄まじい殺気と共に魔法が飛んできたからだ。
「――殺されたいようだな――」と。キレたカナデから。
そして『猫様』を抱いているお兄様からも。「死ね」と。
逃げ足の早い補佐役が戻ってくるまでに落ち着きを取り戻さなかった男達が、札に呪いを仕込み、余計な時間を使う。
しかし、兄に甘えたい猫が鳴いたため、作業はいったん中断された。
「お兄にゃーん」と。
この時、只者ではないヒロインは、泥を吐くタコのいない道を選び、ふたたび地下を目指していた。爆走は続く。「遠い……! ゲームなら二分で着くのに……!」あの時はそれでも遅いと思っていたのだ。当時と同じ悪態をつく。「課金するからワープさせなさいよ……!」
数分後。補佐役の微妙な謝罪が、応接間に響く。
「申し訳ございません。取り乱しました」と。
男は攻撃を警戒しているのか、姿を見せずに告げた。
「では、ご案内いたします」宝物庫へ――。
◇
ギィ……、と不気味な音が鳴る。暗い空間に、怖がる猫の鳴き声が響く。
――お兄にゃーん――。
『まさに、まさに理想の……』という声もどこかから響いた。
悪役令嬢様御一行が目にしたのは、ダンジョン用の『簡単に開ける宝箱』などではなかった。
石造りの通路。壁のくぼみに置かれた燭台に、ぼ、ぼ、ぼ、と火が付けられてゆく。
コツコツコツ――。硬質な足音。ゆらゆらとゆれる、蠟燭の灯り。
地下へと続く階段を、一列に並んで降りてゆく。可愛い猫の鳴き声と、遺跡の魅力を語る案内役の声を聞きながら。
――お兄にゃーん――。
『いにしえの聖なる乙女様、聖なるおじ……達がつくられた回復の泉もなんと、使いたい放題という、か弱き猫様にぴったりの物件であるかと……』
男達の額に、青筋が浮かぶ。
「気配も消せるのか……。やっかいな――」
「お兄にゃーん……」
「ハナ、聞くんじゃない。できるだけ声を出さないように」
「はは、ふたりとも凄い殺気」
「その『凄い殺気』は君にも向けられているようだが……」
同時刻。ヒロインは猛スピードで隠し通路へ。
「なんでヒロインが一人なのよ……! ぜんぶあの猫のせいでしょ……!」
悪役令嬢ハナにゃんへの怒りを募らせながら。
「あれさえあればシオン様もカナデ様もサクラくんも甘っあまになるはず……!!」
『あの猫』ことハナにゃんは、クールなお兄様にやさしく撫でられながら、一歩も歩くことなく、『呪いを解くアイテムが入っていると思しき宝箱がある宝物庫』へ向かっていた。長い階段を下り、小さな部屋にたどり着く。
悪役令嬢は歌うように鳴いた。
「到着ですにゃーん」と。
部屋の奥に、両開きの扉が見える。いかにも。といった感じの、古めかしく、豪華な。
蔦の這う壁に、ちょろちょろと水が伝う。
先頭を歩くカナデが、古びた扉へ手を掛ける。ぎぃと鈍く軋む音。隙間から風が吹き込む。ひんやりとした空気が肌をなで、しめった緑の匂いに、雨上がりの森を思い浮かべた。
「シオン、開けるぞ――」
男の美声が静かに響く。
外へ繋がる扉を開くときは、猫を抱く人間に一声かけるのがマナーである。
と言った補佐役は、途中でスゥと姿を消した。
凄まじい殺気と共に魔法が飛んできたからだ。
「――殺されたいようだな――」と。キレたカナデから。
そして『猫様』を抱いているお兄様からも。「死ね」と。
逃げ足の早い補佐役が戻ってくるまでに落ち着きを取り戻さなかった男達が、札に呪いを仕込み、余計な時間を使う。
しかし、兄に甘えたい猫が鳴いたため、作業はいったん中断された。
「お兄にゃーん」と。
この時、只者ではないヒロインは、泥を吐くタコのいない道を選び、ふたたび地下を目指していた。爆走は続く。「遠い……! ゲームなら二分で着くのに……!」あの時はそれでも遅いと思っていたのだ。当時と同じ悪態をつく。「課金するからワープさせなさいよ……!」
数分後。補佐役の微妙な謝罪が、応接間に響く。
「申し訳ございません。取り乱しました」と。
男は攻撃を警戒しているのか、姿を見せずに告げた。
「では、ご案内いたします」宝物庫へ――。
◇
ギィ……、と不気味な音が鳴る。暗い空間に、怖がる猫の鳴き声が響く。
――お兄にゃーん――。
『まさに、まさに理想の……』という声もどこかから響いた。
悪役令嬢様御一行が目にしたのは、ダンジョン用の『簡単に開ける宝箱』などではなかった。
石造りの通路。壁のくぼみに置かれた燭台に、ぼ、ぼ、ぼ、と火が付けられてゆく。
コツコツコツ――。硬質な足音。ゆらゆらとゆれる、蠟燭の灯り。
地下へと続く階段を、一列に並んで降りてゆく。可愛い猫の鳴き声と、遺跡の魅力を語る案内役の声を聞きながら。
――お兄にゃーん――。
『いにしえの聖なる乙女様、聖なるおじ……達がつくられた回復の泉もなんと、使いたい放題という、か弱き猫様にぴったりの物件であるかと……』
男達の額に、青筋が浮かぶ。
「気配も消せるのか……。やっかいな――」
「お兄にゃーん……」
「ハナ、聞くんじゃない。できるだけ声を出さないように」
「はは、ふたりとも凄い殺気」
「その『凄い殺気』は君にも向けられているようだが……」
同時刻。ヒロインは猛スピードで隠し通路へ。
「なんでヒロインが一人なのよ……! ぜんぶあの猫のせいでしょ……!」
悪役令嬢ハナにゃんへの怒りを募らせながら。
「あれさえあればシオン様もカナデ様もサクラくんも甘っあまになるはず……!!」
『あの猫』ことハナにゃんは、クールなお兄様にやさしく撫でられながら、一歩も歩くことなく、『呪いを解くアイテムが入っていると思しき宝箱がある宝物庫』へ向かっていた。長い階段を下り、小さな部屋にたどり着く。
悪役令嬢は歌うように鳴いた。
「到着ですにゃーん」と。
部屋の奥に、両開きの扉が見える。いかにも。といった感じの、古めかしく、豪華な。
蔦の這う壁に、ちょろちょろと水が伝う。
先頭を歩くカナデが、古びた扉へ手を掛ける。ぎぃと鈍く軋む音。隙間から風が吹き込む。ひんやりとした空気が肌をなで、しめった緑の匂いに、雨上がりの森を思い浮かべた。
「シオン、開けるぞ――」
男の美声が静かに響く。
外へ繋がる扉を開くときは、猫を抱く人間に一声かけるのがマナーである。
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