クマちゃんと森の街の冒険者とものづくり ~ほんとは猫なんじゃないの?~

猫野コロ

文字の大きさ
250 / 542

第249話 素敵すぎる完成品と、未来予想図。「クマちゃ……!」

しおりを挟む
 リオちゃんの素晴らしい作品が完成する瞬間を目撃したクマちゃんは、現在新たな悩みを抱えている。



 美しく華やかな頭巾だ。
 素敵すぎてクマちゃんひとりでは被れそうにない。

 長いレースのおリボンがピローンと付けられた大作をあらゆる角度から見ているクマちゃんはむむむ、と考えこんでいた。

 うかつに近付けばひらひらレースとふわふわクッションの誘惑に負けてしまいそうなほど、素敵で魅力的である。
 肉球にキュ、と力を入れたクマちゃんはハッとなった。

 素敵な村の村長が作ったとても素敵なもの、ということは――特産品なのでは?

 素敵だが被りたくても被れないワケあり特産品ということは『こんなに被りたいのに何故被れないのか』とちまたで話題になるだろう。

 数年後のことまできちんと考える大人なクマちゃんには、手作り頭巾が大人気になって品薄になる未来が見えてしまった。
 素敵な村の村長の手作りの、素敵なレース付きもこもこ防災頭巾ちゃん。
 年間生産量はおいくつだろうか。



 リオはクマちゃん専用ふわふわ丸型クッション二つとレースのリボン二本を一列に繋げたものと、もこもこを見ながら考えていた。
 
 ――配列はリボン、クッション、クッション、リボンである。

 ふんふんふんふんふんふんふんふん――!

 テーブルにのせられたそれの周りをヨチヨチヨチ! と歩いているクマちゃんは、どうやら興奮しているようだ。
 この作品のどのあたりに呼吸を乱す要素があるのか――。
 まさかまだどこかに何かを足そうなどと思っているのでは。

 リオは真面目な表情でもこもこに告げた。

「クマちゃん俺もう頑張れないと思う」

 これが彼の実力のすべてだ。
 一日のお裁縫パワーを使い果たしてしまった。
 もう一針も縫えない。
 
 因みにリオのお裁縫パワーは三である。


 衝撃的な事実を聞いてしまったもこもこはヨチ――! と立ち止まった。
 口元をサッと押さえたクマちゃんが、子猫のような声で叫ぶ。

「クマちゃ……!」
『三百六十五個ちゃん……!』

 年間たったの三百六十五個……! という意味のようだ。

「今後も作り続ける計算やめて欲しいんだけど。つーか休みは?」

 リオは『年間』と不気味な数字に反応した。
 もこもこは何を言っているのか。
 
 一日一個の計算なのか、時々調子が良くて二個なのかが非常に気になる。
 クマちゃん以外に需要がない物を毎日限界まで作らせようとするのは何故なのか。

 余った三百六十四個はどうするのだ。
 これを作り続けるリオの精神状態も出来れば気にしてほしい。


 かすれ声の村長の宣言『今後も作り続ける――通貨や――』を聞いてしまった副村長クマちゃんが、つぶらな瞳を潤ませた。

「クマちゃ……」
『通貨や……』

 今後はこれが通貨にもなるのですね……という意味のようだ。

「ならないよね。クッションと紐つなげて『通貨』はヤバいでしょ」

 リオは視線で『金の代わりにこれを渡してはいけません』と人間界の掟を教えた。
 森の街経済をどうするつもりだ。三百六十五個を皆でぐるぐるまわすのか。

 今後は赤ちゃんクマちゃんをしっかりと見張らなければ。
 お会計をしたいクマちゃんがお店でこれを出したら大変だ。

 こんなことになってしまったクッションを持ったクマちゃんは

『当店ではヒモ付きクッションをご利用いただけません』

『クマちゃ……!』

店員から冷たく斬り捨てられるだろう。
 ついでに制作者リオの心もチクッと痛むかもしれない。


 人間界の厳しさを知っている新米ママリオちゃんが愛しの我が子をテーブルから抱き上げ、撫でまくりながら

「クマちゃん分かった? 店員さんに『これでお買い物します』って渡したり頭に被らせたりしたら絶対ダメだからね」

「クマちゃ……、クマちゃ……」
『買うちゃ……、かぶちゃ……』
 
『正しいお買い物のしかた』の話をしているときだった。


 ゆるりと瞼を上げたお兄さんが、彼らのほうへ闇色の球体を飛ばした。
 闇はテーブルに置かれたリオの作品を一瞬だけ包み、すぐに消える。

 リオは見た。

 レースヒモ付きクッションが小さくなっている――。
 もこもこの頭にのせられそうな大きさだ。
 
「えぇ……」

 望んでないんですけど――。
 心の扉が半分閉まりかけ、すぐに(でもクマちゃんめっちゃふんふんしてるし、お兄さんは気遣ってくれたんだし……)と反省した。

「おにーさんありがとー」

 リオはいそいで礼を言った。
 もう寝てしまっているように見えるが、意識がないわけではないのだろう。



 真っ赤なベッドに置かれた木製に見えるテーブルで、子猫のようなクマちゃんがじっと待っている。

 リオは最高に可愛いもこもこの頭に可愛さ階級の低い連結クッションをのせ、あごヒモを結んだ。
 ルークほど上手くはないが、できるだけ丁寧に蝶々結びっぽい形に整える。

「めっちゃ軽くなってる……」

 高位で高貴で優しいお兄さんは軽量化もしてくれたらしい。
 体に比べ少々大き目のクマちゃんの頭にクッションを二つものせたというのに、重さでぐらぐら揺れたりはしないようだ。

「頭巾っていうか……クッション……」

 リオは腕を組み、自身のお裁縫パワーのすべてを注いだ己の作品と、それを被ったクマちゃんをじっくりと眺めた。
 
 真っ白なもこもこクマちゃんのちょうどお耳の位置に、丸い水色のクッションがそれぞれのっている。
 クッションの端に縫い付けられたレースのリボンは、丸いお顔の横を通り、あごの下で結ばれていた。

 ふわふわの白いお耳が、それよりデカいクッションでもふっと隠され、ネズミのぬいぐるみの耳っぽく見えなくもない。

「クマちゃ……」

 愛らしい声を出したクマちゃんは、素敵な頭巾を見せつけるような仕草をしていた。
 短くて可愛い足をほんの少しだけ横に出し、反対側のお手々を腰に当てている。

「やばい」

 愛らし過ぎる。
 リオは己の才能ともこもこの愛くるしさに慄いた。
 なんだかよく分からないものを被ったクマちゃんも、とてつもなく可愛い。

 頭にクッションを二つ括りつけたもこもこが『クマちゃんのお帽子、可愛い?』と尋ねるように、つぶらな瞳で彼を見上げている。

 可愛い。褒めてもらえると思っているのだろう。
 キュッと胸が痛む。褒めない理由がない。
 
「クマちゃん可愛いねー。ちょっと変わった生き物みたいでめっちゃ可愛い」

 リオが笑いながら我が子を褒め、指先でくすぐるようにもこもこした頬を撫でる。
 謎の生き物クマちゃんがもっと謎の生き物になってしまった。

 彼は深く納得した。
 クマちゃんはどんな格好でも可愛いということだ。
 
 仲良しな一人と一匹が

「クマちゃん何でも似合うねー。新しいお耳っぽい」

「クマちゃ……」

仲良くお話ししていると、もこもこがキュッ! と小さな黒い湿った鼻を鳴らした。

「クマちゃ、クマちゃ……」
『リオちゃ、おそろいちゃ……』

「無理無理ムリそれはヤバいぜったい駄目なやつ。リオちゃん大怪我しちゃうから」

 目を剝いたリオが心臓のあたりを押さえる。
 仲良し事件である。
 なんでもおそろいにすればいいというものではない。

「クマちゃ……」

 つぶらな瞳をうるうるさせたクマちゃんが、お手々の先をくわえている。

 お断りされ寂しそうなクマちゃんをリオが「クマちゃん。実は俺の耳……顔のよこについてるんだよね」なんとか説得し、

「クマちゃ……!」

彼らはようやくケルベロチュのことを思い出した。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

最強魔導師は不毛の大地でスローライフを送る ~凶悪な魔物が跋扈し瘴気漂う腐界でも、魔法があれば快適です~

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 平民出身の最強の宮廷魔導師ティル・リッシュは貴族主義の宮廷魔導師長に疎まれ、凶悪な魔物がはびこり、瘴気漂う腐界の地の領主として左遷されることになった。  元々腐界の研究がしたかったティルはこれ幸いと辞令を受けて任地に向かう。  途中で仲間になった聖獣の子牛のモラクスと共に腐界で快適なスローライフを始めたのだった。  瘴気は自作の結界で完全に防ぎ、人族の脅威たる魔物はあっさり倒す。 「魔物の肉がうますぎる! 腐界で採れる野菜もうまい!」 「もっも~」 「建築も魔法を使えば簡単だし、水も魔法で出し放題だ」  病気になった聖獣の子狼がやってきたり、腐界で人知れず過ごしてきたエルフ族が仲間になったり。  これは後に至高神の使徒の弟子にして、聖獣の友、エルフの守護者、人族の救世主と呼ばれることになる偉大なるティル・リッシュの腐界開拓の物語である。 ※ネオページ、小説家になろう、カクヨムでも公開しています

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

婚約破棄をしておけば

あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。

追放されたけど実は世界最強でした ~元下僕の俺、気ままに旅していたら神々に愛されてた件~

fuwamofu
ファンタジー
「お前なんか要らない」と勇者パーティから追放された青年リオ。 しかし彼は知らなかった。自分が古代最強の血筋であり、封印級スキル「創世の権能」を無意識に使いこなしていたことを。 気ままな旅の途中で救ったのは、王女、竜族、聖女、そして神。彼女たちは次々とリオに惹かれていく。 裏切った勇者たちは没落し、リオの存在はやがて全大陸を巻き込む伝説となる――。 無自覚にチートでハーレムな最強冒険譚、ここに開幕!

転生美女は元おばあちゃん!同じ世界の愛し子に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!《『転生初日に~』スピンオフ》

ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。 私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。 そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。 早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯ 私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。 『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』 そのために私は⋯ 『地上に降りて冒険者になる!』 これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯ ☆。.:*・゜☆。.:*・゜ こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』の可愛いくまの編みぐるみ、おばあちゃんこと凛さんの、天界にいる本体が主人公! が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。 また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。 こちらも、よろしくお願いします。 *8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました

鍛高譚
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

処理中です...