神からのギフトで不老不死。面倒なことはすべて消してやる。〜死から始まるムエルトの物語〜

折原彰人

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第一章

第3話 不老不死じゃない

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「あいつらは、どうなったんだよ? あそこからどうやって逃げたんだ? なんで、いつの間に家に戻ってるんだよ!? はっ! あの子供達はどうなった? どうして、俺を殴ったんだよー!」

 質問攻め──僕が嫌いなことの一つだ。

 僕の目の前にやってきて、そう喚いている。

 僕は、ソファに腰掛けて黙ってそれを見ていた。

 そんな、鬱陶しい兄さんに、僕は溜め息が溢れた。

「適当に頑張って逃げたんだよ。子供達は、たぶん無事だよ。兄さんを殴ったのは……僕じゃない」

 ほぼ嘘だけど、本当のことを言ったら、もっと面倒くさくなるから言わない。

 兄さんは僕の顔をまじまじと見つめて、それから首を傾げた。

「……あれ? ムエルト、怪我してる。大丈夫か?」

「え?」

「頬のところ」

 兄さんにそう言われたので、鏡を見に行くと、頬に浅い切り傷が付いていた。

「本当だ……。傷が付いてる」

 あの施設を吹き飛ばした時に破片でも掠ったのだろう。傷口から少し血が出ていた。

 不老不死といえばすぐに傷が治るイメージだけど──。

 僕は思った──。

 やっぱり、不老不死になっていない?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 暗闇の中、月明かりの下に人が一人立っていた。

 辺りは森に囲まれているが、ある一角、そこだけが深く陥没していた。そこに、その人物は立っていた。

 まるで、舞台に当てられているスポットライトのように、その人物へと月明かりが注がれている。

 瓦礫の破片が、そこら一帯に散らばり、辺りには異臭が広がっていた。

 その瓦礫に埋もれた白装束の男を、その人物は見下ろしている。

 男の白い衣は色を変え、紅く染まっていた。彼は、今にも消えてしまいそうな息をして、その人物を見上げている。

「どうしたんですか?」

 その人物は、冷たく見下ろしてそう聞いた。

「も、申し訳……ありま……せん。べイン……様。……黒髪の……青い目をした……」

 血を吐きながらも、一生懸命に言葉を伝えた彼だったが、その言葉はそこで止まってしまった。

 それから、瞳の光が消えて、胸が上下する動作もしなくなった。

 その光景を、まるでなんてことないというような視線を向けて、ベインは表情一つ変えずに見下ろしていた。

 それから、深い溜め息を吐いて、暗く微笑んだ。

「報告します。施設は全壊、生き残りも見当たりません。クルーエル教団に刃向かうものを私は許せません。ベイン様、いかが致しますか?」

 後方で跪き、そう報告する白い衣の銀髪の女性。

 ベインは、銀髪の女性に視線を移して言った。

「マリアさん。黒髪に青い瞳をした、魔力の高い、強い者。その人間を探してください」

 マリアと呼ばれた銀髪の女性は、その言葉を聞くと、暗闇の中へと姿を消した。

「新しい研究施設を建てないといけませんね。それにしても、たった一夜でこの有様とは一体どのような……」

 ベインは静まり返った中、一人そう呟いた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから、15年が経った。

 背はまた伸び、成長しているし、風邪を引いてもすぐに治らないし、怪我をしてもすぐに治らない。

 前に色々あって、兄に腕の骨を折られたときも、治るのにものすごく時間がかかった。

 僕が不老不死なら、きっとすぐに治ると思う。でも、治らない。

 なら僕は不老不死では無いということだ。その考えは、僕の中で確信に変わっていた。

 それは、僕にとって嬉しいことだった。

 僕は不老不死ではない!

 やったー!
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