神からのギフトで不老不死。面倒なことはすべて消してやる。〜死から始まるムエルトの物語〜

折原彰人

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第一章

第4話 どうでもいいや! そう思うことで全てを諦めることができるのだ

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 街に出掛けるたびに、何かのトラブルに巻き込まれることが多かった僕。

 僕の性格上、めんどくさいことに巻き込まれることが好きじゃない。

『めんどくさいことをするくらいなら、死んだほうがまし! でも、楽しいことなら面倒でもする!』これが僕のモットーなのだ。

 だから、必要な時以外は街に行かない。

 でも、遂にその必要な時が来てしまったみたい。

「はぁー、飽きたなー」

 そう、一大事である──読む本がなくなってしまった。

 僕は読書が好きだ。特に魔導書を読む事がね。

 僕は、金持ちの家に生まれてしまったせいで、その教養や、作法とか、面倒なことを教え込まれていた。

 そんな僕にとっての唯一の息抜きが、読書だったのだ。

 そんな僕は、書庫に存在している本を全て読み終えてしまった。

 僕は面倒なことを避けるために、外に出ることを避けてきた。しかし、今日それを辞めて新しい本探しの旅に出ようと思う。

「よし、街へ出かけよう!」

 外に出ると、もう夕陽が落ちそうだった。

「そこの彼? 私の店で遊んで行かない?」

 しばらく街を歩いていると、綺麗なお姉さんに声を掛けられた。

 そのお姉さんは、なんとしても僕を、その店の中に引き摺り込みたいらしい。永遠にセールストークを聞かされている。

 僕が、それとなく迷惑そうに接しているというのに、それでもとてもしつこく付き纏ってくる。

 その店の名は、『如何わしい店』というらしい。

 僕はなんとか振り切って、路地裏に逃げることができた。

 まったくめんどくさい。

 しかし、一難去ってまた一難という、まさかのルートに足を踏み入れてしまったことに気がついた。

 二人組の男に、金髪のロングヘアで赤い服を着た、若い女の人が襲われていたのだ。

 僕はその路地裏に入ったことを後悔した。

「や、やめて!」

 薄暗く、ひとけのない路地裏でその女の人の声が響いた。

 一体この人たちはこんな場所で何をしているのだろう?

 と思ったけど、やっぱりどうでもいいし、巻き込まれたくもないから、僕は無視をして彼らを通り過ぎた。

「助けて! お願い! 助けて! 殺されてしまうわ!」

 殺されてしまいそうには見えなかったけど、どうやら彼女は、誰かに助けを求めているみたいだね。後ろでそう叫んでいるのが聞こえる。

 きっと誰かが助けてくれるよ、お姉さん。

 と、そう思っていたら、誰かに無理やり腕を引っ張られた。

 そして、そのまま獲物の餌のように、僕は二人組の前に差し出された。

 まだ本屋を見つけられていないというのに、なんでこう面倒なことばかり起こるのだろうか──僕はその目の前で光り輝く禿頭を眺めていた。

 僕を生け贄に差し出した人は、襲われていた女性。そして、その彼女は、勝手に僕の後ろに隠れている。

「なんだてめぇ! こいつの知り合いか?」

 右目に傷のある禿げた男が、そう話しかけてきた。片目でガンを飛ばしてきている。禿頭が妙にイカつい。

「いや、知り合いじゃないです。それじゃ」

 僕は、面倒くさいのでその場から立ち去ることにした。女の人の手を振り解き、踵を返して目的地へと向かう。

「彼氏です」

 女の人が、立ち去ろうとする僕の腕を引っ張ってそう言った。

「彼氏なんです。ね?」

 ね? じゃないよね。

「初対面です」

 僕はそう即答したが、どうやらこのハゲには言葉が通じないらしい。

「そうか、じゃあお前に代わりに払ってもらおうか」

 と言っている。

 そして、ハゲはナイフを持って、襲いかかってきたではないか。まるで、話の通じないチンパンジーを相手にしているようだった。

 僕は、少し気に障ったので、それをかわしてハゲの腹に渾身の一撃を喰らわせてやった。

「──グエェッ!!」

 魔力を込める必要もなく、ハゲはそう気持ちの悪い声をあげて、地面に突っ伏した。

「なるほど、抵抗するというのか! 死ねぇーー!」

 残ったもう一人の小柄な男が、何も持たずに突進してきた。

 なんだか可哀想になったので、魔法でテキトーに吹き飛ばしてあげた。小柄な男は、宙を舞い、それから地面に倒れた。

「……」

 どうやらこの人たちは、魔法が使えないらしいね。

 この国ではそういう人の方が多いのだ。

「ありがとうございます!!」

 拍子抜けしていると、女の人が駆け寄って来てそう言った。

 目を輝かせて、僕を見ている。僕の嫌いな眼だった。

 結果としてこの女を助けた形になった訳だけど、彼氏って嘘は良くないよね。謝罪はないの?

 と、思っていたら、

「あなた強いのね! かっこいいわ!」

 そう言って、いきなり僕に抱きついてきた。今日はどうやら、とことんついていない日らしいね。

「もういいから、離れてくれますか?」

 しかし、なかなか離れてくれない。

「本当にありがとう……!」

「……え?」

 ──痛い? え?

 なぜか、急にお腹に激痛が走った。冷たい何かが、電流を流すみたいに皮膚に入り込んでくる。

 それから、それが抜き取られると、何か温かいものが僕の肌を伝うのが分かった。

 何が起きたか解らない。解らないが、僕は彼女を突き飛ばして離れた。

 女は、微笑んでいた。

 その手に握られているナイフが、赤く染まっている。

 自分の腹を確認した。

 やはり血が出ていた。

「──は?」

 刺された?

 え、なんで?

 痛い痛い痛い、痛い。

 死ぬ? 死ぬのか?

「──っ?!」

 そんなくだらない事を考えていたら、背中にも激痛が走った。

 抉られるように痛む。息を吸おうと空気を取り込むが、上手くいかずに咳き込んで空中に血が飛び散った。

「ヒャハッハッ!!  油断したな!! よくやったぞ、ローズ!」

 背後から笑い声がした。

 振り返ると、男が血塗れのナイフを持って立っている。

 僕は見た──。

 あの二人は、まだ地面に転がったままだった。

 どうやら、まだ三人目がいたらしい。

 本当に、油断した。こんな魔法も使えない奴らに……。

 その男は、前歯に刺さった金歯を輝かせるように笑っている。

 金歯の男は、その女をローズと呼んだ。

 僕は、疑問をぶつけた。

「……なん……で?」

 なんで、僕を刺した? どうして?

 そうやって、声を発することすらも痛かった。

「肺辺りを刺したからな、そのうち死ぬだろ。ご苦労さん。これが、俺たちの生きていく術だ」

「そう、魔法の使えない私たちはこうやって、金持ちを騙して、殺して、そして、金を奪って生きている。初めはどうなるかと思ったわ。あなた冷たいんだもの! 普通すぐ助けるでしょ! 顔がいいだけじゃモテないわよ! ってもうすぐ死ぬ人間に言っても無駄か」

 僕に比べて、饒舌に話した彼ら。さもそれが当たり前であるかのように、そう語っていた。

「……ははは」

 僕は急に可笑しくなって、笑いが溢れてしまった。頭がおかしくなったのではない。この状況に可笑しくなったのだ。

 魔法も使えない奴らに、金を奪われるためだけに刺された僕。

 滑稽だと思った。

 金持ちなら誰でも良かった、ね。たまたま僕だったと言うわけか。

 ──僕は本当に運が悪いよね。

 笑ったらなんだか一気に気が抜けてしまった。もう立っていることすらできないらしい。

 僕はそのまま、まるで電池が切れたおもちゃみたいに膝から崩れ落ちてしまった。

「さっさと、金目のものを奪ってずらかるぞ!」

「ハハッ! やっぱりこの子、めちゃめちゃ金持ちじゃない! ラッキー! 今日は豪遊できるぅー!」

 嬉しそうなその声。

 薄れていく意識の中、そんな会話が聞こえてきた。最後に聞く言葉が、こんな腐った内容だとは思いもしなかった。

 これだから、面倒なことに巻き込まれるのは嫌なんだ。

 この路地裏に入らなければ……いや、そもそも今日出かけたことが間違いだった。

 なんて、今更後悔しても意味ないか……。

 面白いことに、この世界に回復魔法は存在していないので、不老不死じゃなかった僕は、このまま傷も治らずに死ぬだろう。

 ──まあ……それならそれで、別にどうでもいいかな。

 さようなら、僕の面倒な異世界生活──。

 真っ赤な血溜まりが、広がっていく光景を最後に、僕の視界は闇に包まれた。
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