神からのギフトで不老不死。面倒なことはすべて消してやる。〜死から始まるムエルトの物語〜

折原彰人

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第一章

第5話 クレイジーな神様は、やっぱり不快だ。

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『あれぇ?  もう戻ってきたんですか? 早くない?! まだ十五年しか経っていませんよ?』

 どこかで聞いたようなことのある、とても不愉快だった気がする、あの声が聞こえてきた。

 目を開くと、そこには血溜まりでは無く、何もない空間。

 それを僕は見たことがあった。

『お久しぶりですぅ! 人間様! 神ですよ!』

 そいつは、嬉しそうに両手を叩いて喜んでいる。それも、見覚えがあった。

 ──嫌な夢だ。いや、走馬灯ってやつかな?

『あ、ここ神界ね? 覚えてますでしょう? 今は、あなたの魂だけがここにあります。まさか、次は刺し殺されて死ぬなんて! お可哀想に……!』

 心のこもってない同情を向けるそいつは、やっぱり僕を転生させたあの自称神だった。もう二度と会いたくないと思っていたのに、また会うことになるとは……。

「不老不死になっていなくて、本当に良かったよ。だって、現に僕はここに居るんだからね」

 僕は自信満々にそう言った。

『なにか、勘違いしているようですね』

「勘違いなんかしてないよ。異世界生活、少し楽しかった気もするかなー。じゃ、これで本当に終わったことだし、早く地獄にでもどこへでも連れて行ってよ」

 僕はその時を待つ。

 やっとのやっとで、手に入れた終わりの瞬間を噛み締めて──。

『いいえ、貴方は勘違いしています』

 自称神は、にっこりと微笑んだ。

 勘違い? 

 僕は不老不死じゃないから死んだんだろ?

「どこが勘違いなんだよ」

『あ! えーとっ!』

 自称神は思い出したようにそう言って、その神秘的な洋服のポケットから紙を取り出した。

 なにか、嫌な予感がした。

 そして、それを見ながら自称神はこう続けた。

『ぱんぱかぱーん!! 不老不死のスイッチが入りましたー!』

 自称神は、両手を上に挙げて、嬉しそうにそう叫んだ。

 白けた雰囲気に、自称神と僕は沈黙している。

 それから、少しの間を置いて、

『言えた言えた! このセリフ!』

 頭のおかしい自称神はそう言うと、そのメモを投げ捨てて、さらにこう続けた。

『不老不死になるにはね、そりゃもう大変なんですよ! そんな簡単に、神が『はい、どうぞ』って言って一瞬でなれるものじゃないの!』

「だから?」

 淡々とそう話す相手に、僕は少しイラついた。

『不老不死になるにはですねぇ、一度その魂に呪いを刻んだ後、その人物がもう一度死なないとなれないんですよ!! 大変でしょ? ま、若ければ若い程いいと思うから、今死んで良かったですね!!』

「うん、なにそれ? 呪い?」

『いや~、ネタバラシしたくてもうずっと、ウズウズしていましたよ! 何十年後になるかなー? いつ死ぬかなー? いつ死ぬかなー? とか思ってたんですけど、意外に早くてびっくりしましたね!』

「うん、僕もびっくりしたね」

『これでもうあなたは不老不死になれました。そして、二度と歳を取ることはありませんっ! 死んだ年齢で決まるんですよね、コレ。ヨボヨボのおじいちゃんになってから死ななくてよかったですね! 永遠の十五歳! ピチピチギャルのままです!! 喜びましたか? 喜びましょうか?』

 自称神は僕を見つめている。なかなかに嬉しそうなその表情。

 やったー、嬉しいよ! ありがとう、神様!!

 なんてなるわけ無いだろ、馬鹿が!

『いやー、面白かった! びっくりしたでしょ? どうですか、神からサプライズされた気分は?』

 自称神は、満面の笑みを浮かべてそう言った。僕はそれを見てぶっ飛ばしたくなったが、魂だけの僕にはそれはできない。

「話しが長いね」

『それだけですか?』

「それだけだよ。期待に添えなくて悪いね」

 もうなんか面倒くさいし、急にどうでも良くなってきた。

『じゃあ、そんな怠惰な人間様に、この神様が解説してあげましょう!!』

 自称神は、あるのか、ないのか、分からないその胸に手を当てて威張っている。

『あなたは今、どうして自分が不老不死にされたのか、気になっていますよね?』

「別に」

 少しだけ気になる気もする。でも、聞きたくない気もする。

 そんな僕に、自称神は元気よく言った。

『それは、あなたへの罰です!』

「罰?」

 ──いったい何の? 

『心当たりはあるはずですよ? 不老不死という呪いは、あなたのような人間にこそ相応しい。私も一応神ですからねっ! 罪人には罰を与えないといけないのです!』 

 心当たり……?

「僕はなにも悪いことは……」

 したかしてないか分からない。

『分かりませんか? あなたは、自ら命を経ちました。その罪への罰が、不老不死の呪いをかけることです』

「──は?」

 嘘でしょ? 

『驚きました?』

 僕の目の前にいる神は、穏やかに、わざとらしく笑っている。

 僕はそれを見てやはり癇に障った。

「別に、驚いてないし。不老不死の呪い? 罰? 僕への? ほんと、神っていい性格してるよね」

『あはっ! ありがとうございます!』

 褒めてねえよ。

 こんな、不老不死にされるなんて知ってたら、死んだりしなかった……。

 いや、あの時の選択は間違ってなかったと僕は思う。でも不老不死にされるなんて……。
 やっぱりやめ、いや……、やっぱり……、いや──。

 しかし、今でも僕が死にたいことに変わりない。

「呪いを解く方法ってあるの?」

 それだけは、どうっしても知りたい。

『あなたを転生させたのは、その罪を改めるための機会を与えるため』

「だからなに?」

『どちらにしろ、今のあなたでは無理です』

「呪いを解く方法は、あるってこと?」

『そのうち分かります』

「なんか、面倒くさい神様だね」

 こういう、焦ったい言い方をする奴が一番嫌いだよ。

 変わらず笑顔の神は、それから言った。

『どうですか? 一瞬でも自分は不老不死じゃなかったと確信を持って喜びましたよね?』

「別に……」

 喜んだけどなにか?

『だから、全部秘密にしていたんですよ! 死んだら不老不死になるってことを。不老不死じゃないと気づいて喜んで、それで死ねて嬉しいと思ったら、不老不死の呪いが発動ってなんか、すごくいいでしょ? 私は、そう知った時のあなたの反応を見たかった!』

 やっぱりぶっ殺したい。僕に今肉体がないことがこんなにも歯痒い。

「いい趣味してるね」

 たっぷりの皮肉を込めたつもりだが、こいつに届いているだろうか?

『でも、あなたの反応はイマイチでしたね。それでも一応面白かったです! 退屈凌ぎくらいにはなりました! 神は気まぐれ、そして気分屋の集まりですからね!』

「性格が悪い、の間違いでしょ?」

 僕がそう言うと、神は頬に手を当ててなぜか照れた。

 そして、思い出したように言った。

『ところで、他にもギフトがあるとお伝えしていましたが、それが何か気づけましたか?』

「なにも」

『おや? では、教えてあげましょう! あなたの大好きな面倒くさいことに巻き込まれる! というギフトです!』

「は?」

 ──殺す!

『そのお陰で、楽しくなっているでしょう?』

「全然、まったく」

『おっと! 残念ながら、もうお別れの時間のようですね! また、いつでも戻って来ていいですよ!』

「もう来ないよ」

 神はにこりと微笑んで、

『それでは、これから始まる永久の人生をお楽しみください! さあ、目覚めの時間ですよ』
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