神からのギフトで不老不死。面倒なことはすべて消してやる。〜死から始まるムエルトの物語〜

折原彰人

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第一章

第9話 世界は面倒で溢れている

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 入学から暫く経ったある日のこと、僕が本を読むのが好きだとリアムに話すと、「じゃあ僕の家においでよ」と招待された。

 リアムというのは、僕と同じクラスの男子生徒なのだが。

 もちろん、行くつもりはなかったが、「俺の家にも小さな車庫があるから来ないか」と、僕をゆすってきた。

 当然、僕は行くことにした。

 未知なる本を求めている僕にとっては、書庫という響きに胸を躍らせるしかなかった。

 それなのに、なぜか僕たちは捕えられ、尋問を受けている。

 事の発端は、リアムがお姉さんの勧誘に負けてしまったこと。

 彼の家に向かう途中、お姉さんの誘惑に負けたリアムの道連れで、その『如何わしい店』に連れ込まれた僕。

 そこで、出されたドリンクを僕は飲んでしまった。僕の好きな甘い飲み物だったために、飲み干してしまったのだ。

 その結果、今この状況。

「俺たちのお嬢様から盗んだ本を返せ!!」

「な、何を言っているのか分からないな」

 リアムは、明らかに動揺してそう答えた。

 先程から続いている、このようなラリー。

 僕が最後に見た光景は、空になったグラスと、ボヤけた視界に映る歪んだリアムの顔。

 そして、僕の手に掛けられようとしている手錠。

 そこまで……。

 その後はおそらく眠ってしまったのだと思う。

 たぶん、あのドリンクに睡眠薬でも入っていたのだろう。

 目が覚めると、僕たち二人は、後ろ手に手錠をかけられて地面に転がっていた。

 しかも、この手錠には面倒なことに魔力を封じる力があるようだ。

 眠らされる前に居た場所とは違って、廃墟感満載の建物に僕らはいた。

 コンクリートの壁に囲まれたその冷たい部屋に、二十代から三十代ぐらいの様々な男達が居る。それも、二十人くらい。

 そして、彼らは、僕たち二人を獲物を見るように眺めている。スリル満点だ。

「エミリーお嬢様が、苦労して手に入れた『拷問完全攻略本』だぞ! 世界に一つしかないレア物なんだ! 早く返せ!!」

 ──わーお。

 地面にあぐらをかいて座っているリアムを見て、男は怒鳴っている。

 その男は、この中でも若く、そして大柄な奴だった。

 僕はリアムと同じように座って、それを隣で眺めている。

 どうやら彼らは僕ではなく、リアムに用があるようなので、僕は傍観することにしたのだ。

「俺がやったていう証拠でもあるのかよ!」

「証拠はない。だか、証言ならある!」

「なにっ!!?」

 ──ほほう。

「我々は、お嬢様が本を無くされた付近で聞き込みをした。そしたら、赤い目をしていて、ブロンドの髪色、そして、目の近くに黒子のある男が本を拾うのを見た、と」

 ──へぇー。

 僕は隣にいるリアムを見た。

 顔から大量の汗を流している。

 証言ともピッタリ一致する容姿だった。

 どうやら、こいつが盗んだらしい。

「新しい実験材料を仕入れようとしたら、たまたま、証言に似たお前が店に入って来たんだ。やっぱり、我々は運がいい!」

「実験材料? お前たちは何者だ?」

「我々は、クルーエル教団の一員だ! お嬢様はあの方の為に、日々頑張っておられるのだ! そんなエミリーお嬢様の本を盗むとは……絶対に許せない!!」

 ──クルーエル教団……なんか、聞いたことあるかも?

「さあ、早く本を返せ! さもないと、このお友達を殺すぞ?」

 そう言って、大柄な男が僕にナイフを向けてきた。

 ──なるほど、僕は人質役としてここに連れてこられたんだね。

「やめろ! そ、そうだよ! 俺だよ!」

「やはりそうか!! この盗人が!」

「でもな……盗んだんじゃ無い。道端に落ちていたのを拾ったんだ! 面白そうな本だったから持って帰ろうと思って……」

「拾った? だと? 拾ったも、盗んだも同じだ! いいから、さっさと本を返せ!!」

 大柄な男は、激怒してそう怒鳴った。そして、僕に向けられていたナイフの先は、リアムへと向けられる。

「……悪いが、返せない。なぜなら……何処かへ無くしてしまったからだ!」

「なん……だと!?」

 自慢げにそう話したリアム。

 それを聞いて固まる大柄な男と、周りのモブたち。

 そして、リアムは開き直ったように淡々と話し出した。

「実は……、持って帰る途中で転んじゃって。そしたらいつの間にか本が川に流れていったみたいなんだ。だから、本が今何処にあるのか俺は知らないし返せない!」

「馬鹿かっ! どんくっさっっ!! ……なんてことだ! お嬢様になんと言い訳すれば……!」

 大柄な男は、まるで噴火した火山が静かになっていくようにしょぼくれた。

 場に沈黙が流れている。

「よし!! こいつらを殺そう! そうすれば、お嬢様の気も収まる筈だ! 我らの首も飛ばなくてすむ!」

「え?」

 大柄な男は現実から目を逸らすかのように、馬鹿になってそう話した。

 その言葉に、今度はリアムが固まっている。

 そして、その提案に納得したように、この場にいる全員の視線が僕たち二人に刺さった。

 きっと今の僕を写真に撮ったら、呆れた顔をしているだろう。

「そうだ! 折角だから、エミリーお嬢様の大好きな拷問を、お前達に施してやろう!」

「なに?! 本を盗んだだけで殺す? 拷問? ふざけんな! それに、悪いのは俺だ! 殺すなら、俺だけで十分だろう? こいつは関係ない!」

 リアムは、そう叫んだ。

 まったくその通りだと思った。

 僕は関係ない。

 大柄な男は、僕を見ている。嫌らしい視線だった。

「こいつが不細工なら逃してやったが、顔が良いからな。きっと、お嬢様は気に入って下さる。お前みたいな奴の悲鳴は、お嬢様の大好物だからな!」

 そう言って、男は僕の顎をナイフで持ち上げた。

「何っ?! クソっ! 確かに顔は良いからな……。ムエルトすまない。俺のせいでこんなことに巻き込んでしまって」

 と、リアムはそうほざいた。

 謝罪は要らないから、さっさとどうにかしろ。

 そう思ったが、

「謝らないで、こうなったらもう仕方が無いよ」

 と、作り笑いをした。
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