神からのギフトで不老不死。面倒なことはすべて消してやる。〜死から始まるムエルトの物語〜

折原彰人

文字の大きさ
15 / 26
第二章

第15話 例の路地裏にて……

しおりを挟む
「どうだ? 俺と、少し街に出掛けに行かないか?」

 と兄さんに誘われた。

 ということで、僕たちは、街にある『高級なカフェ』という名前の店に来た。

 僕と兄さんはテーブルを挟んで、向かい合って座っている。

 僕は甘い飲み物を頼み、兄さんはかなりでかいチキンを獣のように頬張っていた。

「こうやってムエルトと二人で出かけるのは初めてだな! なんだか緊張するよ!」

 口に入っているチキンの欠片が飛んできた。

「そうだね」

 僕は、食べ続ける兄さんを眺めながらそう言った。

「ムエルト、最近何か悩み事でもあるのか?」

「無いよ。なんで?」

「いや、なんか、心配でさ。辛いことがあるなら、俺に何でも相談しろよ!」

 眩しい、笑顔だった。

 僕にもそれなりに悩みはある。でも、兄さんに僕の悩みを打ち明けたところでなにも変わらない。

 だって、兄さんには解決できないから。

「ありがとう。でも、僕は大丈夫」

 笑顔でそう答えた。

「そうか……。たまには、本音で話してくれたっていいのに……」

 兄さんがぼそりとそう呟いた。

「お前ら金を出せ!」

 その時、そんな言葉がカフェに響いた。見ると、黒ずくめのフードを被った集団だった。

 五~六人はいるだろうか? 

「さっさと、金を出せ!! さもなければ殺すぞ!」

 客たちから悲鳴が上がった。

 こんなところに強盗? 

 嘘だろ? 

 銀行とかに行けばいいのに。

「お前たち! 何をしている!」

 兄さんの声がした。

 しかし、前の席に座っていた兄さんが、いつの間にかいなくなっている。

 どうやら、主役の舞台へとあがって行ってしまったらしい。

 兄さんは、僕と同じくらいに優しい。そして、正義感も強い。

 だからなのか、毎度面倒なことに首を突っ込みたがるのだ。

 しかし、主役になるには兼ね備えていないといけないものがある。それを兄さんは持っていない。

「ぎゃぁーーー! 助けてくれ! ムエルトぉぉ!!」

 そう──兄さんは弱い。魔法を使えるが、それでもすごく弱い。

 ただ優しいだけだ。

 結局こうして、いつも僕に災難が降りかかってくる。

 というわけで、適当に解決した僕は、兄さんに魔導書を買ってもらうべく魔導書店に向かった。

 しかし、どこの店も売り切れていて、街中歩き回ることになってしまった。

 六軒目に差し掛かったところで、兄さんが「疲れた」と言う。流石は、僕より五つも上だけはある。だから、外のベンチで待ってもらっていることにした。

「兄さん。またなかったよ」

 ──あれ?

 兄さんが座っていた青いベンチに、兄さんが居ない。

 どうやら、兄さんは何処かへ消えてしまったみたい。

「どこ行ったんだよ」

 しばらく探していると路地裏から兄さんの声が聞こえた。

 僕はそこへ向かう。しかし、聞き覚えのある声に一瞬足が止まった。

 忘れようとしても何度も思い出すその光景──。

 その腐った声の持ち主が頭に浮かび、それと同時に嫌な予感がした。

 はやく駆け付けたいのに、体がそれを拒否しているかのように足が重たい。

「──兄さん?」

 僕は、優しいから彼らを許そうとしていた。

 復讐なんて面倒だしどうでもいいや──そう思っていた。

 しかし、僕の目の前に広がる光景を見て、僕は腹の底から湧いてくるその感情を無視できなかった。

 なぜなら、兄さんが、血まみれで地面に倒れていたからである。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 金髪のロングヘアに、赤い服の女は今日も酒場で酒を浴びていた。

「ローズ。もう金が底を尽きたぞ。新しいターゲットを見つけねぇと」

 そう言った男は、前歯に一本だけ刺さっている金歯を光らせ、不気味な笑みを浮かべている。

 ローズと呼ばれた女は、空になった酒のボトルを名残惜しそうに眺めていた。

 すると、ローズの視界に、青いベンチに座っている男が映った。

 高級ブランドの服を着て、高そうな小物を身につけている。

「あいつにしましょう?」

 そう言って、金歯の男に目配せした。

 金歯の男は不気味に微笑むと、首を縦に振った。

 ローズはベンチに座っているその男に聞こえるように、近くのひとけのない路地裏で悲鳴をあげた。

 すると、ローズの狙い通りにその男はやって来た。

「君たち! その女性に何をしているんだ?!」

 男はそう言った。

 ローズは禿げた男と小柄な男に襲われる振りをして、彼の助けを待った。

 そうして、その禿げた男と小柄な男を、助けに来た男によって倒させた。

 それから、その男はローズに駆け寄った。

「怪我はありませんでしたか?」

 そう問う男にローズは、

「ありがとうございました!」

 と微笑んで答えた。

 それから、ローズはその男に抱きついた。男は頬を赤らめ照れている。

 その時、ローズは思い出した。

 前に殺したことがある人物を──。

 この男はその人物によく似ていると思った。

 しかし、抱きついた時の反応は正反対だとローズは思った。

 そして、その人物とは違って、すぐに助けに来てくれる優しい男だとも思った。

 しかし、ローズはその男の腹にナイフを突き刺す。

「……っ!!」

 男は、何が起きたのか状況を把握する前に地面に倒れた。

 そんな男を見て、ローズはまたその人物を思い出す。

 前に殺した人物は、なかなか自分の色気に乗って来なくて、その日やけ酒したことを──。

「──兄さん?」

 ローズの回想を破り、現実へと引き戻したのは、前に一度殺したことのあるその人物だった。

 黒髪に深い青の瞳、その感情を感じ取れない綺麗な表情をローズは強く記憶していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...