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第二章
第15話 例の路地裏にて……
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「どうだ? 俺と、少し街に出掛けに行かないか?」
と兄さんに誘われた。
ということで、僕たちは、街にある『高級なカフェ』という名前の店に来た。
僕と兄さんはテーブルを挟んで、向かい合って座っている。
僕は甘い飲み物を頼み、兄さんはかなりでかいチキンを獣のように頬張っていた。
「こうやってムエルトと二人で出かけるのは初めてだな! なんだか緊張するよ!」
口に入っているチキンの欠片が飛んできた。
「そうだね」
僕は、食べ続ける兄さんを眺めながらそう言った。
「ムエルト、最近何か悩み事でもあるのか?」
「無いよ。なんで?」
「いや、なんか、心配でさ。辛いことがあるなら、俺に何でも相談しろよ!」
眩しい、笑顔だった。
僕にもそれなりに悩みはある。でも、兄さんに僕の悩みを打ち明けたところでなにも変わらない。
だって、兄さんには解決できないから。
「ありがとう。でも、僕は大丈夫」
笑顔でそう答えた。
「そうか……。たまには、本音で話してくれたっていいのに……」
兄さんがぼそりとそう呟いた。
「お前ら金を出せ!」
その時、そんな言葉がカフェに響いた。見ると、黒ずくめのフードを被った集団だった。
五~六人はいるだろうか?
「さっさと、金を出せ!! さもなければ殺すぞ!」
客たちから悲鳴が上がった。
こんなところに強盗?
嘘だろ?
銀行とかに行けばいいのに。
「お前たち! 何をしている!」
兄さんの声がした。
しかし、前の席に座っていた兄さんが、いつの間にかいなくなっている。
どうやら、主役の舞台へとあがって行ってしまったらしい。
兄さんは、僕と同じくらいに優しい。そして、正義感も強い。
だからなのか、毎度面倒なことに首を突っ込みたがるのだ。
しかし、主役になるには兼ね備えていないといけないものがある。それを兄さんは持っていない。
「ぎゃぁーーー! 助けてくれ! ムエルトぉぉ!!」
そう──兄さんは弱い。魔法を使えるが、それでもすごく弱い。
ただ優しいだけだ。
結局こうして、いつも僕に災難が降りかかってくる。
というわけで、適当に解決した僕は、兄さんに魔導書を買ってもらうべく魔導書店に向かった。
しかし、どこの店も売り切れていて、街中歩き回ることになってしまった。
六軒目に差し掛かったところで、兄さんが「疲れた」と言う。流石は、僕より五つも上だけはある。だから、外のベンチで待ってもらっていることにした。
「兄さん。またなかったよ」
──あれ?
兄さんが座っていた青いベンチに、兄さんが居ない。
どうやら、兄さんは何処かへ消えてしまったみたい。
「どこ行ったんだよ」
しばらく探していると路地裏から兄さんの声が聞こえた。
僕はそこへ向かう。しかし、聞き覚えのある声に一瞬足が止まった。
忘れようとしても何度も思い出すその光景──。
その腐った声の持ち主が頭に浮かび、それと同時に嫌な予感がした。
はやく駆け付けたいのに、体がそれを拒否しているかのように足が重たい。
「──兄さん?」
僕は、優しいから彼らを許そうとしていた。
復讐なんて面倒だしどうでもいいや──そう思っていた。
しかし、僕の目の前に広がる光景を見て、僕は腹の底から湧いてくるその感情を無視できなかった。
なぜなら、兄さんが、血まみれで地面に倒れていたからである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
金髪のロングヘアに、赤い服の女は今日も酒場で酒を浴びていた。
「ローズ。もう金が底を尽きたぞ。新しいターゲットを見つけねぇと」
そう言った男は、前歯に一本だけ刺さっている金歯を光らせ、不気味な笑みを浮かべている。
ローズと呼ばれた女は、空になった酒のボトルを名残惜しそうに眺めていた。
すると、ローズの視界に、青いベンチに座っている男が映った。
高級ブランドの服を着て、高そうな小物を身につけている。
「あいつにしましょう?」
そう言って、金歯の男に目配せした。
金歯の男は不気味に微笑むと、首を縦に振った。
ローズはベンチに座っているその男に聞こえるように、近くのひとけのない路地裏で悲鳴をあげた。
すると、ローズの狙い通りにその男はやって来た。
「君たち! その女性に何をしているんだ?!」
男はそう言った。
ローズは禿げた男と小柄な男に襲われる振りをして、彼の助けを待った。
そうして、その禿げた男と小柄な男を、助けに来た男によって倒させた。
それから、その男はローズに駆け寄った。
「怪我はありませんでしたか?」
そう問う男にローズは、
「ありがとうございました!」
と微笑んで答えた。
それから、ローズはその男に抱きついた。男は頬を赤らめ照れている。
その時、ローズは思い出した。
前に殺したことがある人物を──。
この男はその人物によく似ていると思った。
しかし、抱きついた時の反応は正反対だとローズは思った。
そして、その人物とは違って、すぐに助けに来てくれる優しい男だとも思った。
しかし、ローズはその男の腹にナイフを突き刺す。
「……っ!!」
男は、何が起きたのか状況を把握する前に地面に倒れた。
そんな男を見て、ローズはまたその人物を思い出す。
前に殺した人物は、なかなか自分の色気に乗って来なくて、その日やけ酒したことを──。
「──兄さん?」
ローズの回想を破り、現実へと引き戻したのは、前に一度殺したことのあるその人物だった。
黒髪に深い青の瞳、その感情を感じ取れない綺麗な表情をローズは強く記憶していた。
と兄さんに誘われた。
ということで、僕たちは、街にある『高級なカフェ』という名前の店に来た。
僕と兄さんはテーブルを挟んで、向かい合って座っている。
僕は甘い飲み物を頼み、兄さんはかなりでかいチキンを獣のように頬張っていた。
「こうやってムエルトと二人で出かけるのは初めてだな! なんだか緊張するよ!」
口に入っているチキンの欠片が飛んできた。
「そうだね」
僕は、食べ続ける兄さんを眺めながらそう言った。
「ムエルト、最近何か悩み事でもあるのか?」
「無いよ。なんで?」
「いや、なんか、心配でさ。辛いことがあるなら、俺に何でも相談しろよ!」
眩しい、笑顔だった。
僕にもそれなりに悩みはある。でも、兄さんに僕の悩みを打ち明けたところでなにも変わらない。
だって、兄さんには解決できないから。
「ありがとう。でも、僕は大丈夫」
笑顔でそう答えた。
「そうか……。たまには、本音で話してくれたっていいのに……」
兄さんがぼそりとそう呟いた。
「お前ら金を出せ!」
その時、そんな言葉がカフェに響いた。見ると、黒ずくめのフードを被った集団だった。
五~六人はいるだろうか?
「さっさと、金を出せ!! さもなければ殺すぞ!」
客たちから悲鳴が上がった。
こんなところに強盗?
嘘だろ?
銀行とかに行けばいいのに。
「お前たち! 何をしている!」
兄さんの声がした。
しかし、前の席に座っていた兄さんが、いつの間にかいなくなっている。
どうやら、主役の舞台へとあがって行ってしまったらしい。
兄さんは、僕と同じくらいに優しい。そして、正義感も強い。
だからなのか、毎度面倒なことに首を突っ込みたがるのだ。
しかし、主役になるには兼ね備えていないといけないものがある。それを兄さんは持っていない。
「ぎゃぁーーー! 助けてくれ! ムエルトぉぉ!!」
そう──兄さんは弱い。魔法を使えるが、それでもすごく弱い。
ただ優しいだけだ。
結局こうして、いつも僕に災難が降りかかってくる。
というわけで、適当に解決した僕は、兄さんに魔導書を買ってもらうべく魔導書店に向かった。
しかし、どこの店も売り切れていて、街中歩き回ることになってしまった。
六軒目に差し掛かったところで、兄さんが「疲れた」と言う。流石は、僕より五つも上だけはある。だから、外のベンチで待ってもらっていることにした。
「兄さん。またなかったよ」
──あれ?
兄さんが座っていた青いベンチに、兄さんが居ない。
どうやら、兄さんは何処かへ消えてしまったみたい。
「どこ行ったんだよ」
しばらく探していると路地裏から兄さんの声が聞こえた。
僕はそこへ向かう。しかし、聞き覚えのある声に一瞬足が止まった。
忘れようとしても何度も思い出すその光景──。
その腐った声の持ち主が頭に浮かび、それと同時に嫌な予感がした。
はやく駆け付けたいのに、体がそれを拒否しているかのように足が重たい。
「──兄さん?」
僕は、優しいから彼らを許そうとしていた。
復讐なんて面倒だしどうでもいいや──そう思っていた。
しかし、僕の目の前に広がる光景を見て、僕は腹の底から湧いてくるその感情を無視できなかった。
なぜなら、兄さんが、血まみれで地面に倒れていたからである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
金髪のロングヘアに、赤い服の女は今日も酒場で酒を浴びていた。
「ローズ。もう金が底を尽きたぞ。新しいターゲットを見つけねぇと」
そう言った男は、前歯に一本だけ刺さっている金歯を光らせ、不気味な笑みを浮かべている。
ローズと呼ばれた女は、空になった酒のボトルを名残惜しそうに眺めていた。
すると、ローズの視界に、青いベンチに座っている男が映った。
高級ブランドの服を着て、高そうな小物を身につけている。
「あいつにしましょう?」
そう言って、金歯の男に目配せした。
金歯の男は不気味に微笑むと、首を縦に振った。
ローズはベンチに座っているその男に聞こえるように、近くのひとけのない路地裏で悲鳴をあげた。
すると、ローズの狙い通りにその男はやって来た。
「君たち! その女性に何をしているんだ?!」
男はそう言った。
ローズは禿げた男と小柄な男に襲われる振りをして、彼の助けを待った。
そうして、その禿げた男と小柄な男を、助けに来た男によって倒させた。
それから、その男はローズに駆け寄った。
「怪我はありませんでしたか?」
そう問う男にローズは、
「ありがとうございました!」
と微笑んで答えた。
それから、ローズはその男に抱きついた。男は頬を赤らめ照れている。
その時、ローズは思い出した。
前に殺したことがある人物を──。
この男はその人物によく似ていると思った。
しかし、抱きついた時の反応は正反対だとローズは思った。
そして、その人物とは違って、すぐに助けに来てくれる優しい男だとも思った。
しかし、ローズはその男の腹にナイフを突き刺す。
「……っ!!」
男は、何が起きたのか状況を把握する前に地面に倒れた。
そんな男を見て、ローズはまたその人物を思い出す。
前に殺した人物は、なかなか自分の色気に乗って来なくて、その日やけ酒したことを──。
「──兄さん?」
ローズの回想を破り、現実へと引き戻したのは、前に一度殺したことのあるその人物だった。
黒髪に深い青の瞳、その感情を感じ取れない綺麗な表情をローズは強く記憶していた。
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