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第二章
第17話 死刑決定だ
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「さー、あなたたち! 席に着きなさい!」
このクラスの、いわゆる生徒会長らしき人物がそう言った。
今日の一時間目は、自習だった。
僕がしばらく読書をしていると、一部の生徒達がざわつき始めた。
そう──。
どうやらこの異世界にも、いじめというものは存在するようで、そのターゲットにされているのがメガネの男子生徒。
「や、やめてよ」
メガネ君は、前髪に隠れているそのメガネを、太った前髪ぱっつんの子に、奪い取られていた。
「ハハハ! 気持ちわるー!」
「また本なんか読んで、ガリ勉かよ!」
「頭悪いくせに読んでも無駄だろ!!」
そう言っている三人組の男子生徒たちの方が、頭が悪そうだった。
メガネ君の本を取り上げてビリビリと破いている。
彼は今にも泣きそうだ。
しかし誰も助けない。
いつもならリアムが止めているが、彼は今日いない。この前、怪我が治ったと登校してきたが、次は熱に侵されて休んでいる。
それに、メガネ君をイジメているこの生徒はお坊ちゃんだ。
最近親のコネで転校してきたらしい。権力のあるお坊ちゃんだから、みんな関わりたくないようだ。
僕にも、特に関係ないので放っておくことにした。
しかし──。
「そういやー、このクラスにはもう一人ガリ勉がいたな!」
と言って、坊ちゃんはなぜか僕のもとにやってきた。
そいつは、前髪をぱっつんに切り揃えて、いい感じに出ている腹を震わせ、僕を見下ろしている。
僕は一瞬彼に視線をあげたが、面倒くさそうなので本に視線を戻した。
「お前だよ! お前! 無視してんじゃねぇーよ?!」
坊ちゃんは、僕が読んでいた本を奪って床に投げ捨てた。
その本は、毎日のお小遣いを貯めてようやく手に入れた魔導書だった。
十五歳になってからというもの、浴びるほど貰っていたお金が、なぜかお小遣い制になってしまった。
そして、少なくなってしまった僕の金。
面倒なお手伝いやらなんやらをこなし、金を貯めてようやく買ったのだ。
それは高級品で、残り一点しかなかったレア物だ。
そんな魔導書が、今そいつの臭い足の裏によって踏み潰されている。
「やめてくれないかな? それ、高いんだよね」
僕は椅子に座ったまま、目の前に立っている前髪ぱっつんに向かって言った。
「貧乏人は大変だな! ほら、拾っていいぞ?」
と、彼は魔道書から足をどかした。
その顔を思いっきり殴りたくなるような、そんな笑みを浮かべている。
でも僕は、この程度で怒るほど心の狭い人間じゃないのだ。
僕は大人しく、床に落ちている魔導書に手を伸ばした。
「アハハハっ! やっぱり貧乏人って弱いよなー!!」
前髪ぱっつんは、魔導書を拾おうとした僕の手を踏み潰した。
「……」
──ぶち殺す。
いや、怒るものか、怒ってはダメだ。
なぜならここで前髪ぱっつんに何かしてしまったら、両親が呼び出され、そして前髪ぱっつんの親にも謝りに行き、反省文まで書かされるハメになるだろう。
考えただけで、ゾッとするほどに面倒くさそうだ。
「早く拾えよ!」
前髪ぱっつんは、さらに力を込めてきた。
僕は怒りを抑えて前髪ぱっつんの気が収まるのを待つ。
「ちょっとやめなよ!」
生徒会長が止めに入り、前髪ぱっつんはやっと足をどかした。
「うるせー!! 僕が何をしようとお父様が揉み消してくれるんだよ!」
お次は生徒会長と揉め出した。
どうやらぱっつんは、僕と違って面倒なことが好きらしい。
僕の生活に、面倒なことはいらない。
「あ!」
僕は拾い上げた魔導書が、ボロボロに破れていることに気がついた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お父様! ローストビーフが食べたい!」
前髪を目の上で綺麗に揃えてある少年がそう言った。
「マイク。少し食べ過ぎだよ?」
「大丈夫だよ! この後動くんだから!! 早く食べたい!」
マイクと呼ばれた少年の身体は、決してスマートとは言えない体型をしていた。
そんなマイクの家は、この国で二番目に金と権力を持っていた。
彼は一番でないことが気に入らなかった。
どうせなら一番になりたい。
一番、一番、一番──。
マイクの頭はいつもそれで満たされていた。
この国で一番の金持ちといえば、ヴァンオスクリタ家。
マイクはその存在を知っていたが、会ったことは無かった。
その家には息子が二人いるらしい。
一体どんな奴が? 自分がその家の息子に生まれたかった。なぜ自分ではないのか?
マイクは、そんな嫉妬でいつも満たされていた。
マイクは、日々のイラつきの矛先を、食欲と、メガネの生徒へと向けていた。
そして、マイクにはもう一人、嫌いな生徒がいる。
マイクのクラスには、妙に育ちの良さそうな男子生徒が一人いる。
マイクは、なぜかその男子生徒を見ているとイライラしてしまうのだ。
線の細い身体の割に、しっかりとした体幹をしていることも妬ましかった。
だから、名前も知らないその男子生徒が大嫌いだった。
ある日マイクは、その嫌いな男子生徒の読んでいた本を取り上げて、ボロボロに踏み荒らした。
マイクはその瞬間、とてもいい気分になった。
そして、なぜだか分からないが、その男子生徒に勝った気分になった。
その男子生徒は、本を踏み潰し、手を踏み潰しても、マイクに怒ることはなかった。
マイクに、怒ることができない下級人間。所詮は、貧乏人なんだとマイクは思った。
しかし、その頃から誰かにあとをつけられているような気がしていたマイク。
ある日、正体を暴いて返り討ちにしてやろうと、ひとけの無い廃墟へとやって来た。
この数日、常に殺気を感じて暮らしていた。その状況に、嫌気が差したのだ。
マイクは、そいつを捕らえてお父様に消してもらおうと企んでいた。
「僕を狙っているのは誰だ! さっさと正体を表せ!」
マイクがそう叫ぶと、静かな廃墟にコツコツと軽い足音が響いた。
そして、暗がりから出てきたその人物。
黒髪に青い瞳をした少年。
その端正な顔立ちに月明かりが差し込んだ。
「お、お前は……!」
このクラスの、いわゆる生徒会長らしき人物がそう言った。
今日の一時間目は、自習だった。
僕がしばらく読書をしていると、一部の生徒達がざわつき始めた。
そう──。
どうやらこの異世界にも、いじめというものは存在するようで、そのターゲットにされているのがメガネの男子生徒。
「や、やめてよ」
メガネ君は、前髪に隠れているそのメガネを、太った前髪ぱっつんの子に、奪い取られていた。
「ハハハ! 気持ちわるー!」
「また本なんか読んで、ガリ勉かよ!」
「頭悪いくせに読んでも無駄だろ!!」
そう言っている三人組の男子生徒たちの方が、頭が悪そうだった。
メガネ君の本を取り上げてビリビリと破いている。
彼は今にも泣きそうだ。
しかし誰も助けない。
いつもならリアムが止めているが、彼は今日いない。この前、怪我が治ったと登校してきたが、次は熱に侵されて休んでいる。
それに、メガネ君をイジメているこの生徒はお坊ちゃんだ。
最近親のコネで転校してきたらしい。権力のあるお坊ちゃんだから、みんな関わりたくないようだ。
僕にも、特に関係ないので放っておくことにした。
しかし──。
「そういやー、このクラスにはもう一人ガリ勉がいたな!」
と言って、坊ちゃんはなぜか僕のもとにやってきた。
そいつは、前髪をぱっつんに切り揃えて、いい感じに出ている腹を震わせ、僕を見下ろしている。
僕は一瞬彼に視線をあげたが、面倒くさそうなので本に視線を戻した。
「お前だよ! お前! 無視してんじゃねぇーよ?!」
坊ちゃんは、僕が読んでいた本を奪って床に投げ捨てた。
その本は、毎日のお小遣いを貯めてようやく手に入れた魔導書だった。
十五歳になってからというもの、浴びるほど貰っていたお金が、なぜかお小遣い制になってしまった。
そして、少なくなってしまった僕の金。
面倒なお手伝いやらなんやらをこなし、金を貯めてようやく買ったのだ。
それは高級品で、残り一点しかなかったレア物だ。
そんな魔導書が、今そいつの臭い足の裏によって踏み潰されている。
「やめてくれないかな? それ、高いんだよね」
僕は椅子に座ったまま、目の前に立っている前髪ぱっつんに向かって言った。
「貧乏人は大変だな! ほら、拾っていいぞ?」
と、彼は魔道書から足をどかした。
その顔を思いっきり殴りたくなるような、そんな笑みを浮かべている。
でも僕は、この程度で怒るほど心の狭い人間じゃないのだ。
僕は大人しく、床に落ちている魔導書に手を伸ばした。
「アハハハっ! やっぱり貧乏人って弱いよなー!!」
前髪ぱっつんは、魔導書を拾おうとした僕の手を踏み潰した。
「……」
──ぶち殺す。
いや、怒るものか、怒ってはダメだ。
なぜならここで前髪ぱっつんに何かしてしまったら、両親が呼び出され、そして前髪ぱっつんの親にも謝りに行き、反省文まで書かされるハメになるだろう。
考えただけで、ゾッとするほどに面倒くさそうだ。
「早く拾えよ!」
前髪ぱっつんは、さらに力を込めてきた。
僕は怒りを抑えて前髪ぱっつんの気が収まるのを待つ。
「ちょっとやめなよ!」
生徒会長が止めに入り、前髪ぱっつんはやっと足をどかした。
「うるせー!! 僕が何をしようとお父様が揉み消してくれるんだよ!」
お次は生徒会長と揉め出した。
どうやらぱっつんは、僕と違って面倒なことが好きらしい。
僕の生活に、面倒なことはいらない。
「あ!」
僕は拾い上げた魔導書が、ボロボロに破れていることに気がついた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お父様! ローストビーフが食べたい!」
前髪を目の上で綺麗に揃えてある少年がそう言った。
「マイク。少し食べ過ぎだよ?」
「大丈夫だよ! この後動くんだから!! 早く食べたい!」
マイクと呼ばれた少年の身体は、決してスマートとは言えない体型をしていた。
そんなマイクの家は、この国で二番目に金と権力を持っていた。
彼は一番でないことが気に入らなかった。
どうせなら一番になりたい。
一番、一番、一番──。
マイクの頭はいつもそれで満たされていた。
この国で一番の金持ちといえば、ヴァンオスクリタ家。
マイクはその存在を知っていたが、会ったことは無かった。
その家には息子が二人いるらしい。
一体どんな奴が? 自分がその家の息子に生まれたかった。なぜ自分ではないのか?
マイクは、そんな嫉妬でいつも満たされていた。
マイクは、日々のイラつきの矛先を、食欲と、メガネの生徒へと向けていた。
そして、マイクにはもう一人、嫌いな生徒がいる。
マイクのクラスには、妙に育ちの良さそうな男子生徒が一人いる。
マイクは、なぜかその男子生徒を見ているとイライラしてしまうのだ。
線の細い身体の割に、しっかりとした体幹をしていることも妬ましかった。
だから、名前も知らないその男子生徒が大嫌いだった。
ある日マイクは、その嫌いな男子生徒の読んでいた本を取り上げて、ボロボロに踏み荒らした。
マイクはその瞬間、とてもいい気分になった。
そして、なぜだか分からないが、その男子生徒に勝った気分になった。
その男子生徒は、本を踏み潰し、手を踏み潰しても、マイクに怒ることはなかった。
マイクに、怒ることができない下級人間。所詮は、貧乏人なんだとマイクは思った。
しかし、その頃から誰かにあとをつけられているような気がしていたマイク。
ある日、正体を暴いて返り討ちにしてやろうと、ひとけの無い廃墟へとやって来た。
この数日、常に殺気を感じて暮らしていた。その状況に、嫌気が差したのだ。
マイクは、そいつを捕らえてお父様に消してもらおうと企んでいた。
「僕を狙っているのは誰だ! さっさと正体を表せ!」
マイクがそう叫ぶと、静かな廃墟にコツコツと軽い足音が響いた。
そして、暗がりから出てきたその人物。
黒髪に青い瞳をした少年。
その端正な顔立ちに月明かりが差し込んだ。
「お、お前は……!」
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