神からのギフトで不老不死。面倒なことはすべて消してやる。〜死から始まるムエルトの物語〜

折原彰人

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第二章

第19話 こんにちは、僕の面倒な日常

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「どーう? ムエルト! 可愛いでしょ?」

 クロエはポーズを決めている。

 変なポーズだった。

「そうだね。可愛いよ」

 黒いフリルの服に、白いミニスカート。そして、……説明が面倒になるくらいの服を着たクロエ。

「ちょっと、本当に思ってるの?」

 不満そうな顔だ。

 正直、良さは分からなかったので適当に返事をした。女の人ってこういう時、凄く面倒くさいと思う。自分で可愛いと思っているなら、それでいいじゃないか。

「お、可愛いじゃねーか! それが、女子達の衣装か!」

 と、リアムが言っているので、恐らくそうなのだろう。彼は、もうすっかり元気になっていた。

 そして、僕はその後もしつこく聞いてくるクロエを無視して持ち場へと向かった。

 僕の持ち場は、エントランスの階段下。もうすでに、入り口の扉から大勢の人で賑わっていた。

 学園関係者だけでなく、この国の住人たちも、そこらじゅうから訪れてくる。有名な魔法学校だから、皆関心があるのだろう。

 僕は、そのエントランスで客を呼び込む係。

 隣に連なって他のクラスの生徒達が、大声で客引きをしていた。

 しかし、僕は何もしない。

 ただ看板を持って、その場に立って居るだけ。

「お兄さん、その喫茶店は何階かしら?」

 ぼぉーっと立っていたら、お姉さんにそう声を掛けられた。

「三階にあります」

 この程度なら、本当に楽だ。余裕だね。

「あなた、かっこいいわね! 喫茶店? 楽しそうね! 一緒にどう?」

「僕は客引きなので、ごめんなさい」

 次、

「あなたいくつ? 私と遊ばない?」

 次、

「あら? お兄さん一人? 私と一緒にお茶でもどう?」

 ──失敗した。

 一番面倒な役割だった。

 それに、横で客引きをしている同級生たちの目が痛い。帰りたい。

 そんなことを思っていると、

「すみません、理事長はどこにいますか?」

 見ると、無精髭を生やした身なりの汚い、中年の男性が立っていた。

 暗い声でそう話している。

「え? 理事長ですか?」

「はい」

 そんなの僕は知らない。自分で探してくれ。

 と、追い返そうとしたが、ここに居るよりマシかも。と、思った僕は、一緒に校内を探すことにした。

 校内を探し歩いていると、どこもかしこも、さまざまな店と人で賑わっていた。すれ違う人が邪魔で鬱陶しい。

 すべて、吹き飛ばしたくなる衝動に駆られながらも、僕は無事、理事長を見つけた。

 理事長は、なぜかグラウンドで魚すくいをしている。楽しそうに魚を釣り上げていた。

 ──面白い、それ? 

「いましたよ。あの人が理事長です」

「そうか」

 と、言って近くまで案内をしてくれと言うので、僕は理事長に声をかけた。

「理事長。こちらの方が、理事長に用があるようです」

「う、動くなーーーー!!」

 さっきまでの静かさが嘘みたいに、おっさんは、僕の首元に腕を回した。理事長は、驚いた様子で僕を見ている。

 僕も驚いた。

 何事かと思っていると、首筋がなんだか痛くなった。どうやら、その男が、僕の首にナイフを当てがっているようだ。血が伝うのが分かった。

「理事長! こいつを殺されたくなかったら、妻を返せ!」

 声を荒げて男は怒鳴った。

 かなりの大声を、耳元で放たれて、僕は耳鳴りがした。

 それにしても、妻を返せとは……。女問題を抱えた理事長ね。まったく、素晴らしい理事長だよ。

 とか、考えてる場合じゃなかった。傷が治るところを、誰かに見られてはいけない。

 僕たちの周りには今、大勢の人がいる。

 悲鳴を上げる者や、何が起きているのか理解していない者まで、皆の視線が集中していた。

 なので、僕は、その首元のナイフに自分から刺されにいった。

 もちろん、かすり傷程度に。

 こうすれば、常に傷がついている状態だから回復することはないだろう。

 痛いが、これが終わるまでは我慢だ。

「すみません、仰っている意味が分かりません。あなたは、誰でしょうか?」

 理事長は、いつもの微笑みを解いて、そう男に尋ねた。

「俺は、マーガレットの夫だ! お前が、妻を廃人にしたんだ! 昔の妻を返せ! お前のせいで、俺の人生は台無しだよ!!」

 彼はまた、大声で怒鳴った。

 これは、鼓膜も破れるかもね。

 ま、治るからいいけど。

 それにしても、僕は本当に面倒ごとに好かれてる。こんなに沢山の人が居る中から、わざわざ、僕がターゲットになるなんてなー。

 なんてことを考えている間にも、この男は僕の耳元で色々と叫んでいる。

「あなたが何を仰っているのか、私には理解できません」

 理事長は顔色を変えず、冷静にそう返答した。

「馬鹿なことを言うな! 早く妻を元に戻せ! じゃないとこいつを殺すぞ!」

 と、僕の首筋にナイフが突き刺さる、すでに自分で刺されにいっているのに、更に力を強く切り込まれたせいで、何気に痛かった。

 そして、事態を把握した人々が、ざわざわと騒ぎ始めた。僕達を囲むようにして、群衆の視線が刺さっている。そんな状況に、痺れを切らしたのか、理事長が苦い顔をして言った。

「何やってるんですか? ムエルト君。そんな不審者に捕らえられてしまう程、君は弱くないでしょう? 早く終わらせて下さい」

 理事長は、どうやらイラついているようだ。

 僕が自ら人質役を降りることは簡単だ。こんなくだらない茶番、いつでも終わらせることができる。

 しかし、そんな僕が、なぜそうしないかというと、ただ単に、この理事長が嫌いだからだ。理由は特にない。なぜか嫌いなのだ。

 だから、囚われ役の身に徹することにする。

「無理みたいです。助けてください」

 僕はそう嘘を吐いて、理事長を見た。

 すると、軽く舌打ちされた。
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