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第二章
第20話 なんか苦手な人っているよね
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「理事長。俺は、お前がした事を知っている!」
おっさんがそう言った。僕は心の中でおっさんを褒め称えた。暴露の内容はどうでもいいが、理事長が嘆き苦しむ姿を見たい。
いつも澄ました顔をしている理事長だけど、おっさんのその言葉に焦りの表情を覗かせていた。
「お前は、妻に……」
と、おっさんが話し始めた。
僕はワクワクしながらその続きを待った。だけど、それは訪れなかった。なぜなら、おっさんがその言葉を言い終わる前に、理事長が魔法を放ったからだ。
もちろん僕もろとも。
予想外。
まさか、生徒もろとも、不審者を始末しにかかるとは思わなかった。
僕と相棒のおっさんに向けられた容赦の無いその魔法を、僕も魔法で跳ね返した。
力と力がぶつかり合って、突風が辺りを散らした。
そして、悲鳴と、砂煙が立ち昇った。
会場を砂嵐が包み込んでいく。そして、元凶から逃げ惑っている人々が見えた。
僕の視界が奪われていくその一瞬に、理事長が見えた。彼は驚いた顔をしている。
僕の方こそ驚きだ。
おっさんは、その衝撃にパニックになったみたいで、僕の首に当てているナイフに力が入った。
そして、押し当てられた僕の首筋に深く切り込みが入る。一瞬気道が塞がって息苦しくなったくらいだ。
血が吹き出し、ポタポタと流れて、グラウンドの地面に染みている。
僕はそのおっさんの手を振り解き、軽く地面へと叩き付けた。しかし、おっさんは気絶してしまった。
「あーあ」
つい咄嗟に反撃してしまった。
もう、おっさんを使って理事長を痛ぶる事はできないようなので、この辺りで終わりにすることにした。
この砂煙が消えてしまう前に、ここから立ち去ろうと思う。僕は念の為首元を隠して、人混みに紛れた。
それから大人しく、何事も無かったように持ち場へと戻った。ちなみに、血で汚れた制服は新しいシャツに着替えた。
あの後、噂によると、あの不審者のおっさんは捕えられてどこかへ連れて行かれたらしい。
そんなこんなあって、僕は難を逃れた。
そして、僕たちのクラスの喫茶店の売り上げも抜群だったらしい。
こうして、僕の面倒な学園祭は幕を閉じた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日、僕は理事長に呼び出されたので、この学園の最上階にある、その部屋を訪ねた。
扉を開けると、やはり白い部屋に、白い髪の人物。
よっぽど、白色が好きらしい。
理事長は、部屋の窓から外を眺めていた。
「昨日は、悪いことをしましたね。申し訳ない」
僕に気づくと、彼はこちらに視線を向けてそう言った。
謝罪だった。
意外だ。
なにか小言の一つでも言われるのかと思った。
「悪い事?」
僕はそれが何か分かっていたが、あえてそう聞いてみた。
「私が、あなたも一緒に魔法でころ……攻撃したことです」
「あぁ、別にいいですよ。死んでいませんし」
「そうですか。なら良かったです」
そう言った理事長は、また嘘くさい笑みを浮かべていた。この理事長は、かなり性格が悪いらしい。
「一つ聞いてもいいですか?」
理事長は、席から立ち上がり、そう言って僕に歩み寄ってきた。
「なんですか?」
僕は、入り口の扉近くに立ったまま、そう聞く。
「あの時、わざと逃げませんでしたね?」
理事長に手が届きそうな距離──そこまで近づいてきた彼は僕を覗いた。
「言ってる意味が分かりません」
僕も、わざとらしく微笑んでそう言った。
「そうですか。私が嫌いなんですか?」
「いいえ。尊敬しています」
無感情に聞く理事長に、こちらも無感情で返す。
「そうですか。なら良かったです」
そう言ってまた理事長は微笑んだ。
「しかし、驚きました。まさか、私の魔法を跳ね返すことのできる生徒がいるなんて……。やはり、君は私が思った通りの人間でしたよ」
そう言って理事長は、さらに僕に近づいてくる。
やはり、この人の表情から感情を読み取るのは難しい。
だから、嫌いなんだと思った。
「たまたまですよ」
しばらく流れる沈黙。
時計の秒針がカチカチと音を立てている。
「首の傷はもう治ったのですか?」
理事長が、沈黙を破ってそう聞いてきた。
その言葉に、僕は慌てて首元を隠した。学園祭の後、バタバタしていて、首を切られた事なんてすっかり忘れていた。
失敗した。
包帯でも巻いてこればよかったと後悔した。
「いえ、まだ少し傷が残っています」
なんて、バレバレの嘘を僕は吐いた。言ってから、馬鹿だと思った。
「そうですか……本当に?」
「え? 本当ですよ」
不老不死であることは、誰にも言わない方がいいと思う。だって、面白がられて、何かの実験材料とかに使われたら嫌だし。
僕は、愛想笑いをしてその場を立ち去ろうとした。しかし、理事長が、首元を隠している僕の腕を掴んだ。
「え?」
驚いたのも束の間、理事長が僕の腕を引っ張って首の傷を確かめた。
そして、
「あれ? 治ってるじゃないですか? 君は嘘つきですね」
「……」
「ふふっ! やっぱり、若いと治りも早いのかな? 羨ましいよ。私はもう歳だからね」
やっぱりこいつ嫌いだわ。
理事長は、口元を手で隠して子どものように笑っていた。
やはり、あの時殺しておけば良かったと後悔した。
「もういいでしょ。やめてください」
僕はその態度も気に障ったので、その煩わしい手を振り払った。
「用が済んだのなら、これで失礼します」
僕が、足早にその理事長室から退室しようとすると、
「ムエルト君。君をこの学園に招待して良かったです」
と、言われた。
僕は良くなかったよ。と心の中で惨殺してから、僕はそれを無視してその場を立ち去った。
おっさんがそう言った。僕は心の中でおっさんを褒め称えた。暴露の内容はどうでもいいが、理事長が嘆き苦しむ姿を見たい。
いつも澄ました顔をしている理事長だけど、おっさんのその言葉に焦りの表情を覗かせていた。
「お前は、妻に……」
と、おっさんが話し始めた。
僕はワクワクしながらその続きを待った。だけど、それは訪れなかった。なぜなら、おっさんがその言葉を言い終わる前に、理事長が魔法を放ったからだ。
もちろん僕もろとも。
予想外。
まさか、生徒もろとも、不審者を始末しにかかるとは思わなかった。
僕と相棒のおっさんに向けられた容赦の無いその魔法を、僕も魔法で跳ね返した。
力と力がぶつかり合って、突風が辺りを散らした。
そして、悲鳴と、砂煙が立ち昇った。
会場を砂嵐が包み込んでいく。そして、元凶から逃げ惑っている人々が見えた。
僕の視界が奪われていくその一瞬に、理事長が見えた。彼は驚いた顔をしている。
僕の方こそ驚きだ。
おっさんは、その衝撃にパニックになったみたいで、僕の首に当てているナイフに力が入った。
そして、押し当てられた僕の首筋に深く切り込みが入る。一瞬気道が塞がって息苦しくなったくらいだ。
血が吹き出し、ポタポタと流れて、グラウンドの地面に染みている。
僕はそのおっさんの手を振り解き、軽く地面へと叩き付けた。しかし、おっさんは気絶してしまった。
「あーあ」
つい咄嗟に反撃してしまった。
もう、おっさんを使って理事長を痛ぶる事はできないようなので、この辺りで終わりにすることにした。
この砂煙が消えてしまう前に、ここから立ち去ろうと思う。僕は念の為首元を隠して、人混みに紛れた。
それから大人しく、何事も無かったように持ち場へと戻った。ちなみに、血で汚れた制服は新しいシャツに着替えた。
あの後、噂によると、あの不審者のおっさんは捕えられてどこかへ連れて行かれたらしい。
そんなこんなあって、僕は難を逃れた。
そして、僕たちのクラスの喫茶店の売り上げも抜群だったらしい。
こうして、僕の面倒な学園祭は幕を閉じた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日、僕は理事長に呼び出されたので、この学園の最上階にある、その部屋を訪ねた。
扉を開けると、やはり白い部屋に、白い髪の人物。
よっぽど、白色が好きらしい。
理事長は、部屋の窓から外を眺めていた。
「昨日は、悪いことをしましたね。申し訳ない」
僕に気づくと、彼はこちらに視線を向けてそう言った。
謝罪だった。
意外だ。
なにか小言の一つでも言われるのかと思った。
「悪い事?」
僕はそれが何か分かっていたが、あえてそう聞いてみた。
「私が、あなたも一緒に魔法でころ……攻撃したことです」
「あぁ、別にいいですよ。死んでいませんし」
「そうですか。なら良かったです」
そう言った理事長は、また嘘くさい笑みを浮かべていた。この理事長は、かなり性格が悪いらしい。
「一つ聞いてもいいですか?」
理事長は、席から立ち上がり、そう言って僕に歩み寄ってきた。
「なんですか?」
僕は、入り口の扉近くに立ったまま、そう聞く。
「あの時、わざと逃げませんでしたね?」
理事長に手が届きそうな距離──そこまで近づいてきた彼は僕を覗いた。
「言ってる意味が分かりません」
僕も、わざとらしく微笑んでそう言った。
「そうですか。私が嫌いなんですか?」
「いいえ。尊敬しています」
無感情に聞く理事長に、こちらも無感情で返す。
「そうですか。なら良かったです」
そう言ってまた理事長は微笑んだ。
「しかし、驚きました。まさか、私の魔法を跳ね返すことのできる生徒がいるなんて……。やはり、君は私が思った通りの人間でしたよ」
そう言って理事長は、さらに僕に近づいてくる。
やはり、この人の表情から感情を読み取るのは難しい。
だから、嫌いなんだと思った。
「たまたまですよ」
しばらく流れる沈黙。
時計の秒針がカチカチと音を立てている。
「首の傷はもう治ったのですか?」
理事長が、沈黙を破ってそう聞いてきた。
その言葉に、僕は慌てて首元を隠した。学園祭の後、バタバタしていて、首を切られた事なんてすっかり忘れていた。
失敗した。
包帯でも巻いてこればよかったと後悔した。
「いえ、まだ少し傷が残っています」
なんて、バレバレの嘘を僕は吐いた。言ってから、馬鹿だと思った。
「そうですか……本当に?」
「え? 本当ですよ」
不老不死であることは、誰にも言わない方がいいと思う。だって、面白がられて、何かの実験材料とかに使われたら嫌だし。
僕は、愛想笑いをしてその場を立ち去ろうとした。しかし、理事長が、首元を隠している僕の腕を掴んだ。
「え?」
驚いたのも束の間、理事長が僕の腕を引っ張って首の傷を確かめた。
そして、
「あれ? 治ってるじゃないですか? 君は嘘つきですね」
「……」
「ふふっ! やっぱり、若いと治りも早いのかな? 羨ましいよ。私はもう歳だからね」
やっぱりこいつ嫌いだわ。
理事長は、口元を手で隠して子どものように笑っていた。
やはり、あの時殺しておけば良かったと後悔した。
「もういいでしょ。やめてください」
僕はその態度も気に障ったので、その煩わしい手を振り払った。
「用が済んだのなら、これで失礼します」
僕が、足早にその理事長室から退室しようとすると、
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と、言われた。
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