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第二章
第22話 仲間になる? それとも実験体になる?
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銀髪の女性が、物陰から人を眺めていた。
白い瞳をキョロキョロと動かしながら、獲物を探すようにしている。
その女性、マリアは待っていた。
任務を果たすために、その人物が訪れることを。
ベインを崇拝して生きてきた彼女は、ベインに恋をしていた。
ベインに認め、愛されるために、今回の任務も必ず成功させなければならない。
エスポワール学園の入り口に、マリアは居た。
「あの……ムエルト・ヴァンオスクリタさんですよね? 少しお時間いいですか?」
マリアが話しかけたのは、スタイルのいい男子生徒だった。
マリアは自分が美しい容姿をしていると自覚していた。
だから、この自分と同じで容姿の良い男子生徒も、他の男と同じようにすぐに落ちると思っていた。
例外なのはベインだけ。それ以外の男性は、マリアの美貌を見れば一瞬で好意を向けてくる。
しかし、マリアを見返すその少年は輝きのない瞳を向けている。
その儚さのある青い瞳が、全力でマリアを拒絶していた。
「僕、この後用事があるので失礼します」
「え? ちょっと待って!! そ、そう言わずに、どうか少しだけお時間を……本当に少し、一瞬です」
その黒髪の少年は、マリアを見て迷惑そうな顔をしている。
その様子を見て、マリアは思い出した。
以前、悲しそうな顔で橋の下を眺めていた少年を。
その少年の瞳は、綺麗なものを映すには相応しくない、暗く闇を纏っている目だった。
月明かりに照らされた白い肌と、深い青い瞳の横顔。マリアはこの少年を知っていた。
「僕じゃないとダメなんですか?」
「え? あ、えっと、そうなんです! あなたじゃないとダメなんです!」
マリアが回想していると、少年が迷惑そうに聞いてきた。
マリアはそれで我に帰り、任務を遂行する。
そしてもう一度、少年に話しを聞いてほしいとお願いした。マリアが、こんなに男性に懇願したのは初めてだった。
マリアの任務。それは、ベインから頼まれた、エスポワール学園に居るというこの少年をクルーエル教団に勧誘すること。
なぜ、ベインがこの少年を望んでいるのかマリアには聞かされていない。
そして、勧誘に失敗した場合は実験体にすることだった。だから、マリアはこの少年の興味を少しでも引きたかった。
しかし、少年は歩き出した。マリアは、逃れようとする少年にむりやり着いていき話しを始めた。
「あの、クルーエル教団をご存知ですか?」
「何処かで聞いたことあったような……なんだっけ?」
「私は、その教団の一員なのですが、是非あなたも入りませんか?」
「入りません」
即答する少年。
少年は、マリアに目を向けず、ただ前だけを見て気怠そうに歩いていた。
マリアはその隣で、少年の横顔を見ていた。
マリアはどうしようか悩んだ。
ベインに認められる為には、この少年を説得しなくてはいけない。
正面突破が駄目ならば、次の策を仕掛けるしかない。
その時、少年は用があると言って立ち去ってしまった。
マリアの阻止も虚しく、少年は風のようにいなくなった。
マリアは、自身のプライドのためにも少年に復讐したくなった。
後を付けると、その少年は街の本屋へと入って行った。
それから暫くして出てきたと思ったら、少年の手には、魔道書が握られていた。
マリアは次の策を思いついた。
「あの、本が好きなんですか?」
マリアが追いかけてそう聞くと、少年はあからさまに嫌な顔をした。
「え? つけてきたんですか?」
「……本が好きなんですよね? 珍しい本が売っている場所を知っています!」
マリアは、この少年を自分のエリアに引き摺り込みたくて必死だった。
この何事にも興味の無さそうな瞳に、光が宿ると信じて。
「珍しい本って?」
すると、少年は意外にも少し食いついた。マリアは喜んだ。こういう交渉ごとで成功した試しがなかったからだ。
「きっと、あなたが読んだことのないような魔道書です」
「ふーん。念の為聞いておこうかな」
「こちらです。私についてきて下さい」
もちろん、マリアはそんな場所がどこにあるのか知らない。
マリアが案内した場所は、本屋のような穏やかな場所ではない、冷たい雰囲気を纏ったクルーエル教団のアジトの一つ。
実験台が沢山並べられた部屋に、窓のない空間。白く光る照明がやけに明るい。
そして、その実験台には身体から管を繋がれた人間が何人も横たわっていた。
綺麗な状態とはいえない老若男女が、意識の無い状態で横たわっている。
「本は?」
少年はその光景を見て、冷たくそう尋ねた。
「本はありません。あなたをこのクルーエル教団の元へ連れて来るために嘘を吐きました」
マリアは、真剣な表情でそう答えた。
少年は、まるで感情のないその瞳でマリアを見返し、それから深いため息をついた。
「また、このパターンだよ。僕も学習しないよね、本当。で? なんの用?」
マリアは数々の人間を殺してきた。
その間に命を狙われることもあった。今マリアは、今までに感じた事のないほどの殺気を少年から感じていた。
しかし、マリアはそれに怯まず答えた。
「あなたを我々の仲間にする。もしくは、ここに寝かされている人達と同じように、あなたを実験体にする。それが、彼からの命令です」
「それで?」
「あなたは仲間になることが嫌なようですので、実験体になってもらいます」
マリアは冷静にそう伝えた。
「クルーエル教団ね……。今思い出したよ」
少年は、実験台に寝かせられている子供達を見てそう言った。
「知っているんですか?」
「詳しくは知らないよ。こういうのが趣味な組織ってことを今知った。いい趣味してるね」
少年は、心底どうでもいいというような様子でそれを見ていた。
マリアは、そんな少年に言った。
「……私たちは、人間を正しい道に導くのです。それが、ベイン様の望み。ただ、その道のりが困難で犠牲を出していますが……分かりますか? 世の中のためなんです。だから、あなたも大人しく実験体になってください」
真っ直ぐな瞳で少年を見つめるマリア。
少年はそんなマリアに視線を向けた。
そして、冷たく微笑んで言った。
「僕も世の中のためにやっていることがあるんだ。だからあなたの言うことは聞けない」
白い瞳をキョロキョロと動かしながら、獲物を探すようにしている。
その女性、マリアは待っていた。
任務を果たすために、その人物が訪れることを。
ベインを崇拝して生きてきた彼女は、ベインに恋をしていた。
ベインに認め、愛されるために、今回の任務も必ず成功させなければならない。
エスポワール学園の入り口に、マリアは居た。
「あの……ムエルト・ヴァンオスクリタさんですよね? 少しお時間いいですか?」
マリアが話しかけたのは、スタイルのいい男子生徒だった。
マリアは自分が美しい容姿をしていると自覚していた。
だから、この自分と同じで容姿の良い男子生徒も、他の男と同じようにすぐに落ちると思っていた。
例外なのはベインだけ。それ以外の男性は、マリアの美貌を見れば一瞬で好意を向けてくる。
しかし、マリアを見返すその少年は輝きのない瞳を向けている。
その儚さのある青い瞳が、全力でマリアを拒絶していた。
「僕、この後用事があるので失礼します」
「え? ちょっと待って!! そ、そう言わずに、どうか少しだけお時間を……本当に少し、一瞬です」
その黒髪の少年は、マリアを見て迷惑そうな顔をしている。
その様子を見て、マリアは思い出した。
以前、悲しそうな顔で橋の下を眺めていた少年を。
その少年の瞳は、綺麗なものを映すには相応しくない、暗く闇を纏っている目だった。
月明かりに照らされた白い肌と、深い青い瞳の横顔。マリアはこの少年を知っていた。
「僕じゃないとダメなんですか?」
「え? あ、えっと、そうなんです! あなたじゃないとダメなんです!」
マリアが回想していると、少年が迷惑そうに聞いてきた。
マリアはそれで我に帰り、任務を遂行する。
そしてもう一度、少年に話しを聞いてほしいとお願いした。マリアが、こんなに男性に懇願したのは初めてだった。
マリアの任務。それは、ベインから頼まれた、エスポワール学園に居るというこの少年をクルーエル教団に勧誘すること。
なぜ、ベインがこの少年を望んでいるのかマリアには聞かされていない。
そして、勧誘に失敗した場合は実験体にすることだった。だから、マリアはこの少年の興味を少しでも引きたかった。
しかし、少年は歩き出した。マリアは、逃れようとする少年にむりやり着いていき話しを始めた。
「あの、クルーエル教団をご存知ですか?」
「何処かで聞いたことあったような……なんだっけ?」
「私は、その教団の一員なのですが、是非あなたも入りませんか?」
「入りません」
即答する少年。
少年は、マリアに目を向けず、ただ前だけを見て気怠そうに歩いていた。
マリアはその隣で、少年の横顔を見ていた。
マリアはどうしようか悩んだ。
ベインに認められる為には、この少年を説得しなくてはいけない。
正面突破が駄目ならば、次の策を仕掛けるしかない。
その時、少年は用があると言って立ち去ってしまった。
マリアの阻止も虚しく、少年は風のようにいなくなった。
マリアは、自身のプライドのためにも少年に復讐したくなった。
後を付けると、その少年は街の本屋へと入って行った。
それから暫くして出てきたと思ったら、少年の手には、魔道書が握られていた。
マリアは次の策を思いついた。
「あの、本が好きなんですか?」
マリアが追いかけてそう聞くと、少年はあからさまに嫌な顔をした。
「え? つけてきたんですか?」
「……本が好きなんですよね? 珍しい本が売っている場所を知っています!」
マリアは、この少年を自分のエリアに引き摺り込みたくて必死だった。
この何事にも興味の無さそうな瞳に、光が宿ると信じて。
「珍しい本って?」
すると、少年は意外にも少し食いついた。マリアは喜んだ。こういう交渉ごとで成功した試しがなかったからだ。
「きっと、あなたが読んだことのないような魔道書です」
「ふーん。念の為聞いておこうかな」
「こちらです。私についてきて下さい」
もちろん、マリアはそんな場所がどこにあるのか知らない。
マリアが案内した場所は、本屋のような穏やかな場所ではない、冷たい雰囲気を纏ったクルーエル教団のアジトの一つ。
実験台が沢山並べられた部屋に、窓のない空間。白く光る照明がやけに明るい。
そして、その実験台には身体から管を繋がれた人間が何人も横たわっていた。
綺麗な状態とはいえない老若男女が、意識の無い状態で横たわっている。
「本は?」
少年はその光景を見て、冷たくそう尋ねた。
「本はありません。あなたをこのクルーエル教団の元へ連れて来るために嘘を吐きました」
マリアは、真剣な表情でそう答えた。
少年は、まるで感情のないその瞳でマリアを見返し、それから深いため息をついた。
「また、このパターンだよ。僕も学習しないよね、本当。で? なんの用?」
マリアは数々の人間を殺してきた。
その間に命を狙われることもあった。今マリアは、今までに感じた事のないほどの殺気を少年から感じていた。
しかし、マリアはそれに怯まず答えた。
「あなたを我々の仲間にする。もしくは、ここに寝かされている人達と同じように、あなたを実験体にする。それが、彼からの命令です」
「それで?」
「あなたは仲間になることが嫌なようですので、実験体になってもらいます」
マリアは冷静にそう伝えた。
「クルーエル教団ね……。今思い出したよ」
少年は、実験台に寝かせられている子供達を見てそう言った。
「知っているんですか?」
「詳しくは知らないよ。こういうのが趣味な組織ってことを今知った。いい趣味してるね」
少年は、心底どうでもいいというような様子でそれを見ていた。
マリアは、そんな少年に言った。
「……私たちは、人間を正しい道に導くのです。それが、ベイン様の望み。ただ、その道のりが困難で犠牲を出していますが……分かりますか? 世の中のためなんです。だから、あなたも大人しく実験体になってください」
真っ直ぐな瞳で少年を見つめるマリア。
少年はそんなマリアに視線を向けた。
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